ストーリー

つくり手と共に美濃焼の未来を創造する、産地商社の力

日本三代陶磁器のひとつである美濃焼は、岐阜県の土岐市、多治見市、瑞浪市にまたがる東濃地方で製作される陶磁器の総称である。国宝指定の芸術作品から普段使いの食器まで多種多様であり、食器の全国シェア50%を誇るなど日本を代表する焼き物である。だが日本各地の伝統工芸産業がさまざまな課題を抱えているように、美濃焼も決して安泰な存在ではないという。そんな危機感から窯元の販路・物流を担う産地商社として独自の取り組みを展開しているのが、美濃焼の一大産地である岐阜県土岐市を拠点とする株式会社ユープロダクツ。長い歴史と伝統を築いてきた美濃焼の未来に向けて活動する同社の代表取締役である平子宗介氏に、その事業内容や活動を支える想い、今後の展望についてお話をうかがった。

つくり手の未来に貢献し、価値ある商品を生み出し産地を守り続けることが使命

岐阜県土岐市で生を受け、実家の家業は美濃焼を取り扱う産地商社となれば、跡を継ぐのは一般的な流れだが、平子氏の場合はそうではなかった。父親から「跡を継がなくていい」と言われていたため、東京の大学を卒業しそのまま東京で就職。平子氏曰く、「スーパー・ハードワークな日々を過ごしていた」という。しかし、入社から1年半が経った頃、状況が一変する。父親の急逝により家業を継ぐことになったのだ。その約3年後の2003年には、叔父が経営する株式会社ユープロダクツと合併し、同社の社員となった。だが当初から複数の会社を経営する叔父に代わり、営業責任者という立場で会社の経営を担っていた。
「私は入社以降、産地商社のあるべき姿とは何かと考えていました。それは、右から左に商品を流通させる問屋のようなスタイルではなく、自分たちが美濃焼の価値を高めていくのだという能動的な姿勢を持って取り組む『商社』のスタイルだと考え、パートナーであるつくり手さんに寄り添い、その想いも含めて発信していくことを始めました。」

つくり手に寄り添うことで、より美濃焼の魅力に触れた一方で課題も見えてきたという。そのひとつが分業制による産業構造。日本の伝統産業全体にも通ずるが、特に美濃焼の場合は、高い専門性を持つ職人のかたがたが自営や個人事業主として従事している。課題を抱えている職人の方々も多くいるが、そのかたがたによって産業が支えられている。しかし、「作れば売れる」という好景気な時代が長く続いたことによって商社も大きな課題を抱えているという。
「産地の中にいて、なおかつ美濃焼の産業に関わっていると、つくり出す商品や自分たちの仕事の価値に、なかなか気づきにくいものなんです。この産地は、ものすごいポテンシャルを持っていると思うんですが、ポテンシャルが高過ぎるために、その流れに乗っていれば商売になった成功体験を引きずっている状態が現在も続いている。そのことに僕は危機感を覚えているんです。安く、大量に商品を作ることで多くのシェアを獲得してきたわけですが、それが今の時代に逆回転している。これからは、より商品の価値を認めてもらい、売ることを考えなければいけない。それが実現できなければ美濃焼は衰退してしまいます。産地商社というのは、モノづくりがなければ全く存在価値がありません。私たちは『つくり手さんあっての産地商社』という意識が大前提にありますので、つくり手さんの未来に貢献し、市場を広げていくことが使命だと思っています。」

産地問屋ではなく、「産地の編集者」でありたい想いが独自の活動を支えている

日本を代表する伝統工芸品である美濃焼。その産業を未来へとつなげていくためには、産地商社が危機感を持ち、意識を変える必要があると言う平子氏。そのため同社は産地問屋ではなく産地商社と名乗り、「産地の編集者」という意識のもと活動しているという。
「よく例えとして、産地の編集者でありたいという話をするのですが、その意図するところは、メーカーさんがつくった商品をマーケットに流通させるだけではなく、マーケットをつくり出す存在であり、つくり手さんが安心してモノづくりができるパートナーとして必要とされる存在でもありたい。また、マーケットとの接点を持っているわれわれだからこそ、そこで得た情報をつくり手さんにフィードバックして、モノづくりのインスピレーションを与えることもできると思うんです。出版業界の編集者は作家に題材を与えたり、つくった書籍がより多くの人に読んでもらえるようにマーケティングしていくことも仕事ですから、われわれの仕事と共通する部分が多々ある。例えとしてわかりやすいのではないかと思い、産地の編集者と表現しています。」
その想いをカタチにしたのが、自社ブランド「EDITIONS」。本・雑誌・新聞などの版を重ねていくという意味の英語だが、このブランド名にも、産地の編集者でありたいという想いが込められている。

「自社ブランド誕生の経緯としましては、プロダクトデザインからブースや店舗の設計などを行う『studio point』という会社の代表を務めている澤田さんに出会い、会社のブランディングについて相談したことがきっかけでした。澤田さんからの提案で、産地商社のライフワークを形にしたらどうかと。自分たちのライフワークを積み重ねていくことで、ユープロダクツという産地商社の個性になっていくのではと提案いただいて実現した取り組みです。」
自社ブランド『EDITIONS』は、「想い かさなる」をキャッチフレーズに、新しい感性と伝統の技で作り上げられた器を展開。複数の窯元の手による商品ライナップとなっている。また、同ウェブサイトでは商品紹介に加え、職人へのインタビューなども掲載することで、つくり手の想いや器の背景にあるストーリーも伝えている。

地域の枠を超え陶業産地の活性化に向けて邁進する

同社では直営店とオンラインショップ「PRODUCTS STORE」も開設しているが、これもまた産地商社としては特徴的な取り組みである。
「直営店は今年の10月で4年目を迎えますが、これは私が産地商社をやり始めた頃から、ずっと実現したかったものでした。われわれの仕事はお客さまの売場に商品をご提案しても、採用されなければ商品が届いていきません。そんなジレンマを抱えていたんです。産地商社の強みはつくり手さんとの距離感の近さにあるのですが、いろいろなつくり手さんとのお付き合いが増えてきた中で、自分たちがコントロールして主体的に商品やつくり手さんの想いを伝えるリアルな場所として直営店をオープンしました。また、それに紐づくWebサイトがあることで商品の説得力も増すだろうと。直営店ビジネスで売上アップを図ることが目的ではなく、あくまでもBtoBに貢献できる要素としての発信の場という考えなんです。このような活動を継続することが、他社との差別化を図ることにもなりますし、弊社の大きな要素として育っていくのではないかと思っています。」

また、平子氏は自社事業だけではなく、産地を超えた伝統工芸のネットワーク「東海湖産地構想」に参加し、産地の課題解決に向けて動き出しているという。
「かつて、東海地方に東海湖という大きな湖が存在したのですが、そこに堆積された土が、われわれの産地を支えているんです。美濃焼だけではなく、他にもこの土を使っている三重県、愛知県の陶業産地の有志が集まって勉強会などの交流を図っています。業界では『奇跡の土』と表現されているのですが、その土を使って商品を提供しているのだから、もっと営業トークに活用したり、その価値が伝わるように業界全体としてフォーマットを作成することで、各産地が抱える課題の解決に貢献するためのプロジェクトです。焼き物の未来を見据えたうえで問題意識を持ったかたがたが集まっているので、若い世代の方が多いのですが、業界全体を盛り上げていくためにも、すごく良い取り組みだと思っています。」

美濃焼にポテンシャルを感じているからこそ、課題解決に向けてさまざまな取り組みを行っている平子氏だが、どんな未来をイメージしているのだろうか。
「美濃焼全体を語るには恐れ多いところがありますが、私自身はこの焼き物が有している価値、生活を豊かにするプロダクトであるということに全く疑いを持っていません。産地商社はつくり手さんありきの商売なので、つくり手さんに対するリスペクトを持ち、美濃焼の価値を未来に向かってつなげていくことが、少なくとも20年以上この業界で生きてきた私の責務であると思っています。つくり手さんが継続性を持って仕事をしていける状況をつくること。その実現が弊社の目指す未来だと考えています。」
時代に即した変化を繰り返していかなければ、伝統を守り続けていくことはできない。現在数多くある美濃焼の商社の中で、株式会社ユープロダクツがトップランナーとして伝統を未来へとつなぐ担い手となることを期待したい。平子氏の言葉からは、その責任感と未来への想いが伝わってくるのだ。