ストーリー

反射材の常識をくつがえす素材LIGHT FORCEの可能性を信じ、常にあらたな挑戦を続ける

古くは絹織物の生産、現代ではナイロンやポリエステルなどの合成繊維長繊維織物において、日本有数の産地として知られる福井県。この地で服にプリントする熱転写シールの版型を製造するメーカーとして創業した株式会社丸仁。熱転写シールプリントとは、例えば野球やサッカーのユニフォームなどに背番号や広告企業名などを貼り付けるのに用いられるもの。その一部として使われていた「反射材」をファッションやインテリアなど、これまでにない用途で展開し注目を集めている企業である。同社が開発した「魅せる」反射材ブランド「LIGHT FORCE」の可能性、今後の展望について代表取締役社長の雨森研悟氏に話をうかがった。

熱転写プリントマークの製造から、自社が有する反射材への事業転換

1984年、雨森氏の父親が福井市内に株式会社丸仁を創業。当初は服の上に直接プリントする手法の判型を製造していたが、事業の拡大を目的にデザインを印刷したフィルムを熱転写機で服にプリントする熱転写プリントマークの製造へと移行した。創業から約10年後、同社にとってターニングポイントとなる仕事の受注が実現する。1993年に開幕するJリーグ全チームのユニフォーム用のプリントを同社が手がけることになったのである。
「当時、まだ私は子どもだったので後から父に経緯を聞いたのですが、その頃父は熱転写プリントマークと相性のいいスポーツアパレルブランドに営業をかけていて、その中の1社に大手総合スポーツ用品メーカーさんがありました。最初は相手にされなかったのですが、何度も足を運ぶうちに小さな仕事をいただけるようになりました。小さい仕事ながらも少しずつ実績を上げていた頃、Jリーグの発足にあたり、全チームのユニフォーム製造をその大手メーカーさんが担うことになったのですが、その大手メーカーさんとしては前例がなく、マークのデザインすら無い大変な状況でした。そんな中、父に声がかかり、叩き台となるサンプルプリントを作らせてもらうことになりました。結果的に父が描いたデザインが採用され、全10チームのプリントを一手に引き受けることになったのです。この仕事をきっかけにその大手メーカーさんから信頼を勝ち得ることができ、今日に至る重要な取引先となったとともに、スポーツアパレル業界内での弊社の知名度が一気に拡大したのです。」

熱転写シールプリントと言えば、丸仁。そんな評価を受ける一方で、同事業の永続性に翳りが見え始める。各スポーツアパレルメーカーが生産拠点とする海外工場の技術が、日本に匹敵するほど高まってきたのだ。
「その企業の顔になるブランドロゴは、品質に問題があって剥がれるようなことがあってはなりません。そのため、今でも日本で弊社が作った熱転写マークを海外に輸出して使ってもらっています。ただし、コスト面からマーク以外は現地の素材が使われているのが現実です。しかも、海外の製造技術が年々向上しているので、いずれ普通の熱転写マークでは勝ち目が薄くなることは明らかです。そこで弊社が有する資産の中で、今後しばらく海外と渡り合えるものは何かを考えました。それが反射材だったのです。」

多くの特許技術を有する開発力と特殊素材が、あらたな事業の扉を開いた

暗い夜道を歩行する際、自動車などのヘッドライトを受けて光る「反射材」。同社では、熱転写プリントマーク製造を事業のメインとしながらも、実は創業時から「反射材」の開発と製造も手がけていた。
「そもそも父が創業を決意したのは、反射材を熱転写プリントする技術が世界に存在していなかったので、その素材を作る会社を作りたいという想いからでした。反射材は交通事故を防ぐためにとても有効な素材ですが、手軽に服に加工できる素材ではありません。しかし、手軽に熱転写が可能であれば人々の交通安全に貢献できると考えたのです。実際、弊社は創業当時に反射材を熱転写する技術の特許を取得していたのですが、当時はあまりその技術が評価されませんでした。なので、熱転写プリントに反射材を取り入れるケースはほとんどなく、反射の生地や糸を供給するだけにとどまっていたのです。」

2000年代前半、同社は中国に工場を建設。立ち上げメンバーとして雨森氏が中国へ行き、約10年間現地で製造部門を担当した。その間、現地の製造技術が向上していくのを目の当たりにした雨森氏は、熱転写シールプリント事業の将来性に危機感を覚えたと言う。そこで、創業当時のビジョンに立ち返り、反射材の開発・製造を事業のメインにするため舵を切ったのである。その方針転換を支えているのは、同社が有する多くの特許技術。中でも、反射する光がオーロラのようにグラデーションすることを特徴とする技術であるオーロラリフレクター®は日本のみならずアメリカ、ドイツ、フランスでも特許を取得。また、オーロラリフレクター®を含む豊富なカラーバリエーションからなる反射材シリーズ『LIGHT FORCE』は現在、アパレルやインテリアなど多様なプロダクトに展開されている注目の素材である。だが、そんな優れた素材ながら日の目を見るまでには時間がかかったという。
「オーロラリフレクター®で特許を取得したのは、もう15年ほど前になります。ただ、スポーツ用のユニフォームなどの場合、この素材の一番の特長であるオーロラのように光るという部分が、遠近感に影響を与えるなどの理由から逆にデメリットになってしまうのです。そのため弊社の取引先であるスポーツアパレルメーカー各社には、ほとんど使っていただけませんでした。」

多くのアパレルブランドとの協業により、『LIGHT FORCE』の可能性が拡大

反射材は安全性を担保することが目的であるがゆえ、「見えやすい色」であることが重視とされていた。それに対して『LIGHT FORCE』は自由に色を変えられ、オーロラのようなグラデーションを実現する素材。まさに真逆の発想であり、常識を覆す挑戦でもあった。既存の取引先に販路の拡大を見出せずに苦戦していた中、『LIGHT FORCE』のファッション性に着目したのは国内のアパレルブランドだった。中でも、いち早く『LIGHT FORCE』を取り入れたのが、ファッションデザイナーの森永邦彦氏が設立したアパレルブランド「ANRELAGE」。2016年頃から『LIGHT FORCE』を活用し始め、2021年に開催された「2022SSパリコレクション」にてオーロラリフレクター®を採用し、その大胆なファッションが大きな話題となった。それを機に、『LIGHT FORCE』は多くのアパレルブランドから注目を集め、いくつもの協業が実現。さまざまなメディアにも取り上げられるようになったという。

「自分たちからすると『LIGHT FORCE』は、昔から会社にあった素材なので、なかなか新たな可能性を見出せなかったのですが、アパレルブランドの方たちからすると、これまで使ったことのない材料なのでとても面白がってくれるんです。これまで自分たちでは気がつかなかった新しい視点を示唆されたと思っています。」
その後、『LIGHT FORCE』は人気ストリートブランドなどと協業することで、さまざまなアイテムに取り入れられるなど、さらなる広がりを見せている。
「自社オリジナルの商品も作るようになりましたが、『LIGHT FORCE』がファッションとして成立する素材であり、なおかつ社会貢献にも寄与する素材であることを広めていき、もっと協業という形で使ってもらえるようになることを目指しています。」

『LIGHT FORCE』が生み出す、人々の安心・安全の実現に向けて

昨年、北陸新幹線の福井・敦賀開業PRとして、福井県内のJR主要5駅にオーロラリフレクター®を使用した大型パネルが設置されるなど、アパレル分野以外にも『LIGHT FORCE』の活用が広がっている。また、舞台装置などを作る美術制作会社とのコラボレーションにより、造花とは次元の違うクオリティを実現する「アーティシャルフラワー」の製造販売も予定されているなど、『LIGHT FORCE』の可能性は拡大する一方。そんな同社が描く未来は海外進出だという。

「国内のアパレルブランド向けへのアプローチは今まで通り続けていきますが、『LIGHT FORCE』が高額の素材なため、どうしても価格が合わずハイブランド以外は大胆に使えない事情があります。そこで今、検討しているのは反射材の素材自体を手芸用品として北欧諸国などのヨーロッパで販売する計画です。弊社はプリント以外にも、生地やテープ、糸など豊富なバリエーションの反射素材を持っていることが強みでもあります。その素材を小売りできるのではないかと。特に北欧諸国は冬の日照時間が短く、1日中薄暗さが続くため、例えばフィンランドでは交通事故防止のために歩行者に反射材の着用が義務付けられています。それだけ反射材に対する意識が高い国ならば、『LIGHT FORCE』を手芸用品の素材として販売することで、自分で反射材をつくるといった良い文化を醸成できたなら、とても大きな社会貢献につながるのではないかと考えているんです。うまくいくかどうかはわかりませんが、今までやってこなかったビジネスであっても、可能性があるならチャレンジしてみる。そんな会社になりたいと思っています。」

同社の企業理念は「時代が必要とする商品を常に創造する」である。その根本にある想いは『LIGHT FORCE』によって、人々の安心・安全を守ること。ファッションの一部として『LIGHT FORCE』が使われ、それが結果的に交通事故を未然に防ぐ効果を生み出す。そんな未来が訪れるためにも、同社の今後に期待したい。