ストーリー
古くから、独自の技術をもった中小のものづくり企業が集積する大阪市。その中にあって、個性的なアップサイクル商品や障がいを持ったかたがたとの共同企画商品、発展途上国応援商品などの展開で注目を集めているのが、カバン・袋物の縫製メーカーであるサンワード株式会社。SDGsという言葉が誕生する以前から、「社会や皆さまのお役に立ちたい」という強い想い、「笑顔いっぱいの社会になること」を願いながら、唯一無二のものづくりを続けている。事業や商品に込めた想い、同社が目指している未来について代表取締役社長の池田智幸氏に話をうかがった。
SDGsに特化した自社企画商品の開発と販売で新規事業に挑戦
代表取締役社長の池田氏が、1986年創業のサンワード株式会社の経営者となったのは1999年のことだった。大学卒業後、印刷会社や商社などでの勤務経験を経て、起業を目指していたときに仕事上の付き合いがあった当時の創業者から相談を受け、株式を購入する形で社長に就任。同社が創業当時から事業の柱としていたOEM生産を引き継ぎながら、それまで池田氏が自身で行っていた海外から生地を輸入して国内のカバンメーカーに販売する事業を並行し、少しずつ会社の規模を拡大していった。そんな同社が新規事業に乗り出したのは2010年のこと。ネットショップ「joy*bu-ジョイブ-」を立ち上げ、オリジナルのペット用品販売を開始。このときが、現在の事業展開に至るターニングポイントだった。
「せっかく自分たちでものづくりができる環境がありながら、お客さまから依頼されたものだけをつくることに少しジレンマを感じていたんです。そんな中でちょっと安易だったのですが、OEMのお客さまにペット関係の会社が多かったことから、ペット商品づくりなら自分たちの知識とノウハウが生かせる。『自分たちなら、こういう商品をつくる』というチャレンジ精神から新規事業をスタートさせました。ただ、既存のお客さまとのお取り引きもありましたので、当初は小規模での展開でもありました。」
経営者でありながら現在も商品企画に携わる池田氏は、この新規事業と並行してあらたなオリジナル商品の開発に取り組んでいた。それが、規格外のため産業廃棄物となった消防用ホースをリユースしてショルダーバッグやボストンバッグとして商品化した「らうらうじ-second hose-」である。この商品はネットショップの立ち上げから、わずか1年後の2011年に販売開始されるや大きな話題となった。
「ペットのブランドは立ち上げたものの、会社として本当にやりたかったことは、小さい会社なりにも『誰かのお役に立てる』とか『誰かが笑顔になってくれる』、あるいはその商品によって会話が弾むような商品をつくることだったんです。私はバッグというアイテムは物を入れるだけではなく、コミュニケーションツールになりうるものだと思っているんですよ。例えば『このバッグは消防用ホースからできているんだよ』と言えば、『そうなの?そんなバッグ見たことない』とか会話が弾むきっかけになると思うんです。面白がって、みんなが笑顔になるようなものをつくりたい。そんな想いから誕生した商品でした。」
消防用ホースの原材料となる糸を製造している取引先企業から、規格外のホースが大量に廃棄処分されている事実を聞いた池田社長は、自ら消防用ホースメーカーへ足を運び、廃棄されるホースを会社に持ち帰った。消防用ホースは耐久性、耐水性に優れた素材ではあるが、その丈夫さゆえにバッグへとリユースするにはいくつもの課題があったという。しかし、試行錯誤を重ね、従来のバッグづくりとは異なる技法を用いて1年をかけて商品化に成功。その後、この商品の存在を知った大阪の百貨店から期間限定のイベントを提案され、1商品につき12色のバッグを催事会場に展示したところ、来客者が押し寄せ、1週間で200万円もの売上を記録したのだとか。
「本当に大げさな表現ではなく、催事会場に人波ができたんですよ。『面白いやん、誰が考えたん?』みたいな声も上がって(笑)。自分の中では自己満足じゃないですけれど、ゴミを減らすための活動をしているという気持ちでしたが、皆さんの驚いたり喜んでくれる顔を見させていただいて、このような取り組みは一過性のものではなくて、今後もずっと続けていかなければいけないと強く思いました。皆さんの笑顔に、そのパワーをいただいたような経験でした。」
ちなみに、ブランド名の「らうらうじ」とは、平安奈良時代の言葉で「上品」「清らか」「美しい」という意味なのだとか。産業廃棄物をリサイクル・リユースすることで、清らかで美しい地球を取り戻すことに貢献したいという同社の想いが込められている。
障がいを持ったかたがたとの共同企画商品であらたなブランドを確立
2011年に「らうらうじ-second hose-」を発売した直後、東日本大震災が発生する。テレビから流れる未曾有の大災害を目にした池田氏は、被災地である福島県須賀川市にある障がい者施設に足を運んだ。その行動の原動力となったのは同社のビジョンであり、池田氏個人の想いでもある「社会や皆さまのお役に立ちたい」という気持ちからだったという。
「大企業であれば多額の義援金を寄付することができますが、自分たちの会社はそんな規模ではありません。ただ、小さい会社であっても何かできることがあるのではないかと思い、現地の市役所に連絡を入れてみたのです。そうすると、もちろん健常者も大変だけれど、障がいを持っているかたはより厳しい状況におかれているというお話でした。そこで実際に7~8軒の施設を訪問させていただき、何かご一緒できることがないかを模索しました。すると、1軒の作業所が木を削る機械を所有していることがわかりました。この設備を使って何かできないかを考え、2013年に立ち上げたのが『många knapp-モンガ・クナップ-』というブランドです。」
同ブランドは、施設の近隣にある家具店から提供された廃材を原料に、木のボタンをつくってバッグの装飾品にするというもの。須賀川市の市の花が牡丹であることを知った池田氏が、牡丹にかけて木のボタンを提案したのである。現在、完成した木のボタンを定期的に同社が購入し、制作に携わった障がいのあるかたがたに報酬を支払っている。大量生産ができないものだけに多額の支援とはいかないが、同社では細く長く続けていく支援として取り組みを持続している。
また、「många knapp」以外に、障がいを持ったかたがたとの共同企画商品として展開しているブランドが、ダウン症候群の女性・西村有加さんが描いたイラストをプリントした生地を使用し、バッグやポーチとして商品化した「RAU-RAU-G -YUKA-」である。
「滋賀県にある弊社の野洲工場の近くには作業所が多くあり、袋入れなどの作業を依頼しているのですが、その作業所にいた西村有加さんの絵を拝見して、すごく感動したんですね。ぜひ一緒に商品をつくりましょうということで始まったブランドなのですが、現在では野洲市のふるさと納税の返礼品にも使っていただいています。また、西村さん以外にも障がいを持ったかたがたとデザイナー契約して商品販売する取り組みもさせていただいています。」
池田氏が障がいを持つかたがたと協働して事業を行っている背景には、どのような想いがあるのか。事業を始めた当初は意識しなかったそうだが、今は自身の少年時代の体験が影響を与えているのではないかと考えているという。
「私が小中学生の頃は今のような支援学校がなく、障がいを持った子どもがクラスにいるのは普通のことでした。だから、彼らを家まで迎えに行って一緒に学校へ行ったり、手伝いをすることは特別なことではなく普通のことだったんです。でも、親御さんの意識は少し違うんですね。迷惑をかけたくないとか、子どもをあまり表に出したくないという意識がある人が、まだまだ少なくないと感じます。でも、『私もやりたい』と自分の意思をアピールしてくれる人もいます。そんなかたがたが持つ長所をビジネスと結び付けていきたい。彼らが堂々と自分の良さを発揮できる場を一緒につくっていきたい。そう考えて取り組んでいます。」
また、同社では海外の発展途上国とのビジネスを「フェアトレード×エシカル」プロジェクトと名付け、東アフリカでつくられたプリント生地「キテンゲ」を使用した商品の作製やバングラデシュでつくられた素材を使用し、縫製まで一貫して現地で行うフェアトレード商品の輸入販売も行っている。池田氏曰く、本格的な活動はこれからになるが、現地の雇用創出および生産者の生活向上に寄与することで、誰もが笑顔になれる「つながる商品づくり」の支援の輪を世界に広げていくことが将来の目標だという。
異色のアップサイクル商品「RAU-RAU-G HAITETSU」が全国的な人気に!
現在、同社の商品の中でも特に話題を呼んでいるのが、Osaka Metroの引退車両の部品を再利用してあらたなアイテムに商品化する「Osaka Metroクリエイト×廃車再生プロジェクト」から誕生した「RAU-RAU-G HAITETSU(らうらうじハイテツ)」。吊り革の手すりと連結器の幌を素材にバッグへとアップサイクルした商品である。
「実は、消防用ホースを素材にした『らうらうじ-second hose-』を発売したすぐ後から、吊り革でバッグをつくりたいと考え、素材探しをしていたんです。というのも、普段持ち慣れている物をバッグに使いたいと考えており、まさにそれが吊り革だったんです。」
池田氏のアイデアが採用され、「RAU-RAU-G HAITETSU」は商品化に成功。Osaka Metroの各路線のカラーを採用したこの商品は鉄道マニアの心をくすぐり、本社内のショップにはわざわざ他県から購入に来るお客さまもいるほどの人気になっている。ただし、アップサイクル商品であるがゆえに大量生産できない事情があるという。
「廃車となる車両から吊り革と連結器部分のジャバラの幌を回収させていただくのですが、大変なのが幌から鉄パイプを外し、幌を洗浄して消毒する工程なんです。今は幌から鉄パイプを外す解体作業は産廃業者に依頼していますが、恥ずかしながら外した幌は私が自宅に持ち帰って土日に洗っているんです。そのため商品をつくりたくても素材の準備が間に合わない。注文はあるけれど生産が追いつかない状況なのです。」
今後もアップサイクル商品を生産していくうえで、素材の洗浄という工程は必ず出てくる。そのための設備やラインの構築が喫緊の課題ではあるが、資金的な問題が障壁となっている。しかし、アップサイクル専用の洗浄ラインが完成したならば、他社からの依頼を受けることもできる。そこにあらたなビジネスチャンスがあると池田氏は考えているという。だが、それもまた大きな夢への第一歩。池田氏には、いつの日か叶えたい大きな夢がある。
「当社の売上比率は、今はまだOEMが90パーセント、SDGsに関連した自社企画商品が10パーセント程度です。近い将来、この比率を半々まで持っていきたいと考えています。弊社は小さな会社ですが、SDGsに取り組み、ビジネスとして成功する形をなんとかつくりたいと思っているんですね。大阪には零細企業がたくさんあって、経営者の皆さんは当然SDGsに挑戦したいと思っているけれど、資金の問題や、やり方がわからないところがほとんどです。そこで私たちが先陣を切ってビジネスとして成功できれば、他の会社と一緒に行動することでSDGsという輪が広がる。その輪に一般のかたも加わってくれれば大きなコミュニティを形成することもできる。それが東京とは違う大阪的なSDGsの形なのかなと思うんです。そんな未来を描きながら頑張っていきたいですね。」
サンワードという会社を中心に想いを同じにする小さな会社が集まり、それがいつしか大きな輪となりSDGsが一般化していく未来。時間はかかるだろうが、池田社長の人柄と行動力、バイタリティーを持ってすれば、決して夢物語ではないのではないか。そんな可能性を池田社長とサンワード株式会社からは感じられるのだ。