ストーリー

持続可能な水産加工業の実現に向け、新しい施策にトライし続ける!

全国有数のノドグロの産地であり、古くから日本海の中核漁場として知られる島根県の浜田漁港。水産加工会社の株式会社シーライフは、この地で2006年に創業以来、ブランド魚であるノドグロをはじめとする浜田の魚の干物や自社開発の缶詰などの商品開発に取り組む一方、地域活性化や浜田ブランドの魚を世界に発信するなど、昔からの慣習にとらわれることなく、さまざまな施策に挑戦し続けている。昨年、「Sony Bank GATE」にてクラウドファンディングを実施以降、メディアからの注目も高まっている同社が、さらなる挑戦に向けて今回2号目となるクラウドファンディングを実施。そのあらたな取り組み、未来にかける想いを専務取締役の河上清貴氏にうかがった。

次のステップへと進むため、新工場を稼働して規模を拡大

昨年、1号目となるクラウドファンディング実施後、商品への注目度が高まり、同社は多くの雑誌やWEBメディアに取り上げられた。それにより会社の知名度も向上し、ECサイトへの流入が増えたことで、前年度に比べて売上が7~8%アップ。また、知名度の向上は採用活動においても追い風となり、昨年1年間で社員が14人増加した。しかも、現在25人の社員のうち19人が女性であり、年齢構成も20代~50代前半までと多様なものへと変わった。従来の水産加工業が持つイメージを変え、「時代の先を行くカッコいい水産加工業の実現」「島根から世界の食卓へ」をコンセプトに掲げる同社にとって、目標に向けてチャレンジを本格化させる体制が整いつつある状況にまで成長したと言っていいだろう。そのチャレンジに向けた第一弾の施策が、これまでにない画期的な缶詰の開発と新工場の稼働である。

「弊社は浜田漁港の端に位置し、工場は会社に併設された小規模なものでした。しかし、社員数も増え、次のステップを図る、新しいことにトライしていくために新工場を稼働させることになりました。場所は浜田漁港の中心部にあり、1号工場の2倍の面積があります。事業の主軸である干物の製造事業は現工場で続け、新工場では缶詰製造など既存の商品だけではなく、これからわれわれが業績をもっと伸ばしていくために、国内のみならず世界の食卓へ届ける商品を開発し製造していく予定です。」
その第一弾としてリリースされる新商品が、他に類を見ない「ノドグロの干物」を使った缶詰である。

他に類を見ないオリジナル商品 ノドグロの干物の缶詰が誕生

浜田市内において、水産物の缶詰を製造しているのは株式会社シーライフ1社のみ。もともと缶詰製造のノウハウを持っていたわけではなく、観光客の言葉から商品開発を決意し、県内外の缶詰工場などに足を運び、製造方法を学んで商品化に成功したものである。当初、非常食の意味合いが強い缶詰に高級魚のノドグロを使うことに対して、地元から批判的な意見もあったがオリジナル性や味が評価され、販売数は毎年コンスタントに伸びている。また、水揚げされたものの、これまでは扱いに困っていた未利用魚を原材料とする缶詰商品「今朝の浜」は、そのコンセプトも相まって好調な売行きをキープしている。このような前例のない商品をつくることが同社の商品開発のテーマである。しかし、新商品となるノドグロの干物を使った缶詰の開発は、そんな同社にとっても難易度の高いチャレンジになったという。

「今、干物の消費が非常に減っている中で、あまり魚を食べない若いかたや、魚を焼いて食べることを面倒だと感じているかたに干物の味を知って欲しい、新しい需要を開拓したいという思いから開発をスタートさせました。干物と缶詰の製造を行っている当社にしかつくれないという自負もありましたし、すぐに開発できるだろうと思っていたんです。製造工程自体はそれほど難しいものではないのですが、干物を缶詰に入れたときに水分が出てしまい、水煮の缶詰のような食感になってしまう。その課題を解決するまでに何度も試行錯誤と試作を繰り返し、私が求める味を完成させるまでに1年半ほどを費やすことになってしまいました。」
種類こそわずかだが干物の缶詰は存在する。しかし、ノドグロの干物を原料とした缶詰はこれまでにない商品になるという。

「干物の良さである旨味、本当に焼いたかのようなジューシーさが感じられる味に仕上がりました。それに加えて、缶詰のメリットである保存期間の長さと調理済みである点が融合した、今まで見たことも食べたこともない商品になっています。」
さらに、未利用魚を原材料とする缶詰『今朝の浜』も、早ければ今夏頃にブラッシュアップしてリニューアル発売予定なのだとか。同商品も、世の中にない、新しい価値を生み出すという観点から生まれたものであるとともに、「産地を守り、発展させる」という地域活性化への取り組みを具現化させたひとつでもある。
また、同社では水産加工会社の枠を超え、異業種とのコラボレーションによって数々の商品開発に取り組んできたが、最近では地元の鮮魚店と協力してオンラインによる魚の料理教室も行っている。これもまた、産地を守り、発展させるための“草の根運動”的な啓蒙活動である。

「食に対する意識を持たないと、持続的な水産加工業、水産業の経営は難しいんじゃないかと危機感を抱いているんです。そのため、いかにして多くの人に魚を食べていただくか。その部分に向けた支援や取り組みを、さまざまな業種の会社などと協力しながら実施しています。そのひとつが、魚の料理教室です。これは神奈川の会社と一緒に行っているものですが、全国の参加者に浜田から魚を送って、その魚の捌き方をオンラインで教えたりしています。最近は地元でも若い人は魚を捌けない人が増えているのですが、都市部では魚を捌けなかったり、魚を丸ごと一匹買ったことがないという人も多くいらっしゃいます。そういったかたがたに、もっと魚を食べていただく機会を増やす意味でも重要な取り組みだと感じています。オンラインであれば地方にいながら全国、世界とつながることができますよね。これまではメールや電話でのやりとりが中心で、相手のお顔を拝見することができませんでしたが、オンラインを活用すればお顔を見てお話ししながら、われわれの想いを伝えたり、商品をお届けすることができます。これはすごいメリットであり、大きなチャンスだと感じています。」
自社の成長だけを追求するのではなく、浜田市の水産業を盛り上げ、地元の魚を日本だけではなく世界に届けることで浜田市を活性化させたい。河上氏の言葉からは、そんな強い想いと意志が感じられる。

コロナウイルスの逆風にあっても輸出量は着実に増加中

「島根から世界の食卓へ」をコンセプトに掲げる同社が、輸出に取り組み始めてから約5年が経過した。新型コロナウイルスの世界的な蔓延は海外との取引にも影響を及ぼしてはいるが、同社では少しずつ、着実に輸出量を増やし、現在10の国と地域との取引があるという。
「輸出を始めたときに、年間1,000万円という数字を目標に掲げたのですが、その数字が達成できそうな状況にありますので、2~3年後には、この数字を倍にすることが今の目標です。そうならなければ1本の柱、ひとつの事業にはならないと思いますので。ただ、コロナウイルスの影響もあって現在は海外に対して積極的な取り組みはできていないものの、順調に輸出量は伸びていますし、昨年は中東の会社からお問い合わせをいただくなど、まだまだ広がる可能性を感じています。今のところ現地のレストランで提供される食材が輸出品のメインになるため、ブランド力のあるノドグロの干物が中心ですが、浜田で獲れた良いお魚を海外の人にも知っていただきたいですし、缶詰も十分な可能性があると考えていますので、今後は戦略的に海外へチャレンジしていきたいと思っています。」

グローバル展開は同社1社だけで実施できるものではなく、まだまだ時間のかかる事業領域ではある。しかし、異業種とうまくコラボレーションしながら、柔軟に事業を進める力を持っている同社ならば、たとえ時間はかかっても目標を達成する可能性は十分にあると感じさせてくれる。

SDGsの目標8の実現、女性が活躍できる水産加工業を目指す!

1回目のクラウドファンディング実施以降、商品や会社の知名度が向上した。それによって最も変わったのは会社の体制だと言えるかもしれない。1年間で14人の新規雇用を実現したことによって社内の雰囲気が変わり、積極的な労働環境の整備が行われているという。
SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」の実現を目指しているのである。
「これまでの水産加工業というのは、家内工業的なものであったり外国人労働者に依存するところが大きかったんです。また、働き方に関しても残業や休日出勤を強いられることも多いんですね。しかし当社は真逆です。休日はしっかり休んでリフレッシュしてくださいというスタンス。家庭の都合で土曜日が働きやすいという社員には出勤してもらうなど、柔軟にライフスタイルに合った働き方ができるように取り組んでいます。」

この取り組みは、大阪の大学に進学し、卒業後は大阪で仕事に就いていた河上氏の経験、働くことに対する考えが反映されたものである。また、25人の社員中、19人が女性であることも同社の特徴であり、河上氏は女性社員が会社の大きな活力になっているという。
「昨年入社したかたがたは、メディアを通じて当社の商品や会社を知り、共感してくれた人ばかりです。そのほとんどが水産加工業の未経験者ですが、みんな新しいことに対して挑戦的で、どんどんアイデアを出してくれるんです。今、缶詰の商品開発チームは女性3人が中心なのですが、全員が昨年入社した社員です。食品関連の仕事に就いていた社員もいるので、細かい部分の開発では大きな力になりました。また、製造部門の社員たちも、自分たちで効率や生産性を考えて作業してくるので非常に助かっています。そんな今の状態をさらに発展させて、女性が活躍できる水産の形を実現していきたいと思っています。それによって、今まで私たちには見えなかった部分、届かなかった販路であるとか、より消費者に近づけるのではないかとも思うんです。将来的には、商品開発や製造分野だけではなく、若い社員が経営にも参画するなど、さまざまなことに挑戦できる会社にしたいと思っています。」
企業規模で言うならば、まだまだ小さな会社ではあるが、同社のコンセプトやミッションに共鳴する多くの仲間を得たことが、同社にさらなる活力をもたらした。株式会社シーライフが日本の水産加工業の新しいスタイルをつくり上げる。そんな期待を抱かせてくれる会社である。