ストーリー

「運動会」を哲学に、誰もが手を取り合える社会の実現に向けてチャレンジする

運動会は、日本人にとって幼い頃から馴染みのあるスポーツイベントだ。仲間と協力し、助け合いながらさまざまな競技で汗を流す。その中で生まれる一体感と達成感。運動会を社会に広めることができたなら、より良い社会を実現できるのではないか。そんな熱い思いと理想を持った人たちが集まる株式会社運動会屋。現在は、運動会の企画・運営にとどまらず、廃校などを活用したキャンプ場運営を通じた地域の活性化にも取り組んでいる。事業の形態は違っても目指すところは社会課題の解決と、より良い社会の実現である。同社が考える運動会の価値、目指している未来とはどのようなものなのか。代表取締役CUO(Chief UNDOKAI Officer)の米司隆明氏に話をうかがった。

運動会に参加した人たちの笑顔が、苦境を乗り越え、前へと進む原動力となった

2007年5月、代表取締役の米司氏は、スポーツで世の中を良くしたいという思いから、株式会社運動会屋の前身となるNPO法人ジャパンスポーツコミュニケーションズを創業した。米司氏は大学卒業後、金融企業の営業職に就いたが、旧態依然の営業スタイルと、長時間労働で疲弊する毎日だった。転職先の会社でも自らの存在価値を見出せず、いつしか社会に対して疑問を感じるようになっていたとき、テレビから流れてくる子どもの引きこもりや自殺のニュースに触れ、心が動いたという。
「子どもの頃から野球をやっていたのですが、部活を通じて培われる仲間との絆、同じ目標に向かっていく結束力があった。自分の経験からスポーツの素晴らしさを再認識したんです。スポーツの良さを、社会に広げることができたなら、世の中が変わるのではないか。その思いが創業のきっかけでした。」

そうしてNPO法人を立ち上げたのはいいが、スタッフもいなければ綿密な計画もなかった。当時流行していたフットサルの試合を主催し、企業対抗のイベントなどを実施したが、試合に参加できる人数が少ないうえに、体力には個人差があるため誰もが一緒に楽しめるものではない。米司氏が思い描いていたものとは違っていた。
「試行錯誤を繰り返す中、ふと頭に浮かんだのが運動会でした。運動会だったら年齢や性別、体力に関係なく、人数が何百人になってもできる。『これだ!』と思い、企業に向けて運動会を提案しようと考えました。そこから運動会の提案へと切り替えたんです。」

2008年4月から運動会をプロデュースする事業をスタート。さまざまな企業に営業を行ったが初めて運動会の開催が決まったのは事業をスタートさせてから1年後のことだった。
「手づくりでホームページを立ち上げたところ、大阪の美容院のオーナーから店舗間の交流を促すことを目的に運動会をしたいと依頼があったんです。ただ当時は運動会用の道具もなく、スタッフもいない状態。ホームセンターに売っている物で道具を手づくりし、同級生に声をかけて手伝ってもらったのですが、運営自体はグダグダでした(笑)。でも、参加者みんなの笑顔、協力し合う姿を見て、この運動会を日本中の会社に提案して、やってもらうことが私の使命だと強く感じました。」
地道な営業活動と実施実績で徐々に受注は増加し、年間200件を超える運動会を開催するまでになり、2015年からは『UNDOKAIワールドキャラバン』プロジェクトをスタート。これまでにインド、ラオス、タイ、マラウイ、ルワンダ、グアテマラ、アメリカなどの学校や企業で運動会を実施し、1万7,000人以上の人たちとの交流を実現させている。

逆境から誕生した『オンライン運動会』が、あらたな可能性の扉を開いた

ようやく軌道に乗り順調に進んでいた運動会プロデュース事業を、新型コロナウイルス感染拡大が襲った。リアルなイベントの開催が難しい中、同社があらたにリリースしたサービスが『オンライン運動会』だ。2020年5月にサービスを開始し、翌年1月以降、急激に受注が増加。これまでに約200件の『オンライン運動会』を実施するまでになった。
「当初は『コロナが終わってから』とか『オンラインでできるわけがない』といった反応がほとんどでした。その中で、オンライン用種目の開発、無料体験会の実施と、努力を続けてきました。また、メディアにも取り上げていただいて少しずつ認知度が上がってきたのではないかとも思います。しかし急激に受注が増えた背景には、オンラインというものに対するリテラシーの向上や長期化するリモートワークによるコミュニケーション不足と運動不足の深刻化もあるのではと思います。運動会終了後のアンケートでは、新入社員のかたからは『やっとチームになれた気がする』、社長や管理職のかたからは『社員の笑顔が見られて安心した』などの感想をいただくことが多いです。」

また、リアルな運動会ではなくオンライン開催だからこそのメリットもあるという。オンラインの場合は自宅での参加となるため競技のハードルが低くなり、誰にでも活躍の場がある。さらには、移動する必要がないので子育て中の社員も参加しやすく、ときには子どもと一緒に参加するケースもあり、他の社員から『意外な顔を見ることができた』などの好意見を聞くことも。また、オンライン運動会は平日に開催するケースも多く、結果的にリアルな運動会よりも社員の参加率は高いという。
「私たちは企業向けの運動会以外に、福祉施設や地域交流運動会なども開催しているのですが、運動会は手段のひとつだと思うんです。何かしらの目的があって、そのために運動会を選択されるのだと。ですから、目的をうかがうことができれば運動会の内容を、その都度アレンジします。例えば、社内のコミュニケーション不足から離職者増を懸念して運動会の開催を考えたとした場合、大切なのは良いコミュニケーションの状態を維持することだとするならば提案内容も変わってきます。要望や目的をヒアリングしたうえで、ひとつずつカスタマイズして運動会を企画し運営するスタイルを取っています。」

企業理念の実現を加速させる地域共創事業『CAMPiece』

これまで運動会をメイン事業にしてきた同社では、廃校などをキャンプ場として利活用する地域共創事業をスタートさせ、2021年5月に第一弾となる『CAMPiece(キャンピース)南足柄』をオープン。この施設は、神奈川県南足柄市にある旧北足柄中学校をリノベーションした廃校キャンプ場だ。南足柄市が学校活用事業についてプロポーザルを行い、同社が第一優先交渉者の権利を得て運営を担う。
「実は10年ぐらい前から運動会を行える場所を探していて、南足柄市のプロポーザルに挑戦する機会があり実現しました。運動会を実施する場所に自分たちが関わっていくというのは、これまでの流れからもやってみたいことでした。また、地域の運動会のお手伝いをする中で、地元の人たちの悩みを聞く機会も多くて、その解決のために何かできることはないかと考えていたことも理由のひとつでした。弊社が関わることで何か良い循環をつくれないかという思いがあったんです。

そんなときに、新型コロナウイルス感染拡大によってアウトドアレジャーが人気となりキャンプブームが再来しました。さらにリモートワークが進みワーケーションの需要も高まっています。そこでこの流れを地域共創事業と結びつけて『CAMPiece』をオープンさせました。自分たちの強みはコミュニティづくりだと思っているのでそれを地域の課題解決に活かして地域や子どもたちの未来に貢献できれば、と。」
2022年4月上旬には千葉県山武郡横芝光町の旧南条小学校をリノベーションしたキャンプ場をオープン。さらに、千葉県君津市、茨城県かすみがうら市でもオープンが予定されている。

「必ずしもキャンプ場としての利活用にこだわっているわけではなく、実は今、大阪や横浜市の住宅街にある廃校のプランニングにも積極的に手を挙げているんです。『CAMPiece』の目的は、あくまでも地域活性化への貢献。その地域が抱えている課題を調べ、それを元にコンセプトを考えていきます。将来的には、運動会屋に声をかけたら地域のためにこんな良い結果を残してくれたと言われるようになること。そして、その結果を見て地域から声がかかるような会社になることが目標です。」
そんな株式会社運動会屋の理念に「運動会のようにワクワクする毎日を目指し、運動会のように手を取り合える社会の創造へ向け、世の中を、運動会のように面白くします」という一節があるが、この会社自体が「ワクワク」させてくれる存在であり、その未来が楽しみである。