ストーリー

「家の中を、世界一、豊かな国へ。」家具家電のサブスクであらたな文化を醸成する

今や日本でも「サブスク」の略称で一般化した月額制定額サービス「サブスクリプション」。音楽や動画の配信サービスなどを中心に利用者が急増し、その市場規模は数兆円に達すると予測されている。しかし、「サブスク」と聞いて誰もがわからず首を傾げていた国内での黎明期に、日本初となるブランド家具のサブスクサービスを立ち上げた株式会社subsclife。現在では家具に加えて家電のサブスクも行うほか、新事業として新中古品家具のオフプライスシェアマーケットも展開。サブスクというあらたなビジネスモデルの一般化のみならず、家具の廃棄が最小限となるサステナブルな社会の実現を目指す同社の思いを代表取締役の町野 健氏にうかがった。

時代の流れを読み、日本初となるブランド家具のサブスク事業に着手

株式会社subsclifeの前身は、IoT家具スタートアップの『KAMARQ』日本法人。
キュレーションマガジン『antenna(アンテナ)』の創立者である町野氏が事業を離れ、『KAMARQ』日本法人の代表に就任したのが2015年のこと。当初は自社製品の製造販売のみを行っていたが、2017年に転機が訪れる。世界中から起業家が集まるスタートアップ・カンファレンス「LAUNCH Festival」に参加したことが家具のサブスク事業を立ち上げるきっかけになったという。

「当時、IoT家具の製造を行っていたのですが、それが非常にめずらしいということでカンファレンスでのプレゼンのオファーを受けたのです。100社ぐらいが参加してプレゼンを行っていたのですが、ハードウェアのスタートアップなのに、ほとんどの会社がお金の回収の方法は毎月定額のサブスクで実施していたんです。すでに音楽や動画配信のようなソフトのサブスクはありましたが、ハードウェアもサブスクになるのかと。このブームは日本にも来るなと直感しました。しかし、2017年当時の日本にはカタカナのサブスクという言葉も生まれていませんでしたし、サブスクリプションと言っても『それはなんですか?』と聞き返されることがほとんどでした。しかも、安売り家具が台頭している中、日本の家具業界は旧態依然としていて良い製品をつくっても売れにくい状況に陥っていたのです。その状況をなんとかしたいという思いもありましたし、安価な家具だけでは部屋の中が豊かにはならない、良い家具を安く利用できることができたなら家具や部屋に対する日本人の意識を変えることができるのではないか、という観点から家具のサブスク事業をスタートさせました。」

まずは、2018年3月にKAMARQ内で家具のサブスク事業を立ち上げ、2019年には社名を株式会社subsclifeに変更。サブスクサービス名も『subsclife』としてローンチ。以来、サブスクブームを背景に急成長を遂げている。

時代がもたらした3つの追い風が、急成長を後押しした

現在、同社が取り扱う家具は、BoConcept、マルニ木工、HAWORTHなどをはじめとする600ブランド、11万種類にのぼる。さらには家具のみならず、BALMUDAやcado、TWINBIRDの最新家電も取り扱っている。高級家具・家電を取り揃えながら最低月額500円から利用でき、利用期間は3ヶ月から24ヶ月で延長も可能。豊富なブランド数(すべて新品を提供)と定価を超えないビジネスモデルが同社の強みであり急成長の要因であると町野氏は分析する。当初、取引先となるメーカーの開拓は町野氏自身が行っていたという。

「2018年の5月ぐらいから1社1社プレゼンをさせていただいたのですが、家具メーカーさんも新しい販路を模索している状況だったこともあって、サブスクという新しいビジネスを否定されるケースは少なかったですね。決して楽だったとは言えませんが、情熱を持って説明させていただくことで、多くの家具メーカーさんのご理解とご賛同をいただくことができました。まだ事業がスタートしていない状況でしたから売上でビジネスは語れません。ビジネスを通じて何を目指しているのか、メーカーさんと一緒に成長していきたいという思いが伝わったのではないかと思います。」
しかし、創業から数年は資金繰りが大きな障壁となった。と言うのも、『subsclife』は月額払いのサービスだが、契約が決まったメーカーに対しては仕入れ値を一括で支払っていたからである。だが、サービスを利用するユーザーだけではなく、取引先となるメーカーも大切にするこの姿勢が信頼を生んでいった。さらには、3つの追い風が事業の急成長を後押ししたという。

「1つ目は2019年の春にサブスクブームが来たことです。トヨタ自動車がサブスクを始めて、テレビCMでサブスクという言葉が使われて一般に浸透していきました。その中で弊社は日本で初めて家具のサブスクを行っている企業として多くのメディアに取り上げていただけたんです。おかげで業界での知名度が上がり、交渉をスムーズに進められるようになりました。2つ目の追い風が新型コロナウイルスによる生活様式の変化です。リモートワークによって家で過ごす時間が増えたことで、仕事用のイスを購入するなど家の中に投資し始めましたよね。企業にしても縮小移転したりサテライトオフィスを設けたりするようになりました。結果、オフィス家具の需要が生まれるわけです。そこで余計な資金を使わず、なおかつ良いオフィス家具を求める企業がサブスクを利用してくださるようになりました。そして3つ目の追い風が環境問題への意識、SDGsブームです。実は家具の廃棄方法は焼却するのではなく埋立地への処分なんです。今後は家具の処分方法も問題になると思うのですが、弊社は家具を再利用するしくみを持っていますので、すでにSDGsへの意識からご発注いただいているお客さまもいらっしゃいます。この流れは来年以降、非常に大きい追い風になると思っています。」

理想の未来を実現するために生まれた新しいビジネスモデル

株式会社subsclifeでは、2021年1月から新サービス『新中古家具のオフプライスシェアマーケット subsclife SHARE』をスタート。このサービスは『subsclife』での利用から戻って来た家具やメーカーの在庫家具をオフプライスで販売するもの。いわば、アウトレットやセカンドハンドの家具版である。
「1月にサービスを開始しましたが想定の倍以上で業績が伸びています。2021年12月には参画社数が100社を超え、取り扱い点数も2万点を超えています。『subsclife』は企業のお客さまが圧倒的に多いのですが、こちらのサービスに関しては企業と個人が半々の状況です。まだ新しいサービスなので今のところ首都圏中心ではありますが、全国で利用されていますね。近年、セカンドハンドの市場が活況を呈していますが、環境問題を考えると再利用に着目せざるを得ない時代ですから、さらに成長が期待できると思っています。」
現在、同社が取り扱う製品は家具・家電が中心だが、将来的には品目をさらに拡大していく予定だという。

「それこそ家の中にあるものは全部サブスクで利用できるようにしたいと考えているんです。まだ取り扱い数は少ないのですが雑貨や照明器具も扱っていますし、スピーカーなどの音響機器もあるでしょうし、なんでもやっていこうと思っています。結果、我々が考えるインテリアや家具の利用のしかたが社会的に一般化することで、廃棄物が最小限になる社会を実現したいですね。また、僕自身は家具職人ではないので家具をつくることはできませんが、崇高なものづくりをされているかたがたのたいへんさは理解しているつもりです。情熱を持って良いものづくりを続けているメーカーさんをサポートしてユーザーとマッチングさせる。それによってサステナブルな社会の実現に貢献できたなら…そんな未来を見てみたいですね。」
株式会社subsclifeが目指しているのは自社の成長だけではない。契約する各種メーカーが、ものづくりに注力できる環境のサポート。そして、その製品を利用するユーザーの心豊かな暮らしをバックアップすること。同社の事業は、そんな理想的な未来の実現を感じさせるビジネスモデルであり、理想を理想で終わらせない情熱を感じさせてくれる会社である。