ストーリー
福井県において50年以上にわたり、上下水道工事・電気工事などの設備工事を手がけ、高い施工管理能力と実績を持つテラオライテック株式会社。現在は、ライフスタイル事業として、リフォーム事業、アパレル、飲食業、学習塾、福祉施設の運営など他業種の事業も精力的に展開。一方、2019年からは環境問題や社会課題の解決と経済成長の両立を目指すSDGsにも取り組んでおり、カンボジアをはじめとするアジア各地で、水と衛生に関わる支援事業『National Pride Project』をスタートさせた。多彩な事業展開は一見関連性がないようにも思えるが、根幹には経営者の理念があり、その思いと行動は日本国内を超えて海外にも向けられている。同社にてライフスタイル事業を牽引する代表取締役会長の寺尾忍氏に、これまでの経緯、現在、そして未来への思いをうかがった。
会社の未来を考えたとき、エンドユーザー向けの
市場を切り開いていく必要があった
創業家の3代目となる寺尾氏は、入社6年目の2009年に代表取締役に就任するや、すぐにライフスタイル事業部を立ち上げ、住宅リフォーム分野へ進出した。
「もともと当社は、上下水道のインフラ整備がメイン事業でした。道路の水道本管の工事、建物の給排水、空調工事、電気工事も行っていましたが、要はBtoBであるとか公共工事を担っていたのです。しかし、全国的に同じ流れだと思いますが、人口は減り続け、税収も減り、公共工事も減少していく。まさに先が見えない状況でした。そこで、これまで経験はありませんでしたが、BtoC、エンドユーザーさん向けの市場を切り開く必要を感じて参入しました。」
第一弾として始めたのが住宅リフォーム事業。水回りや空調・電気工事など従来の事業を生かせる分野ではあったが、当然ながら異業種への進出には、いくつもの障壁があったという。
「物事の進め方が全然違うので、かなり大変でした。他にも業者がたくさんいる中で、うちは誰に対して、何を売っていくことができるのか。他にはない、うちの付加価値とは何かということをゼロから作り上げていったので、そこでの生みの苦しさはかなりありました。社内には、そういった仕事に慣れているスタッフがいませんので、人材もゼロから集めてのスタートでした。」
だが、住宅リフォーム事業を通して同じ顧客から、キッチンや浴槽の入れ替えといったニーズが生まれるのは、10年以上先の話になる。また、その際に顧客が自社を選んでくれる保証はない。寺尾氏には、地域に密着しながら、人と人のつながりを大切にして、一回関わった顧客には生涯の顧客になってもらいたい思いがあった。アパレルや飲食など異業種への参入は、その思いを実現するためのものだったのだ。
「リフォーム工事が終わり、仮に15年間そのお客さんと何の接点もなければ、ニーズが発生したときに当社を選んでいただけるかどうかわかりませんよね。それならば、アフターフォローはもちろんですが、接点を持てるチャンネルを作ればいいのではないかと考えました。衣食住に関わる分野であれば、すべての人に共通して接点が持てる。ひとりのお客さんに対して接点を増やし、関係を続けていけるようにと。最初はそんな発想からの異業種への参入でした。」
同じ目標、価値観を共有するスタッフの成長が、
企業の成長にもつながることを実感
約10年前にスタートした異業種への参入。当初は厳しい状況もあったが、いずれもが順調に収益を伸ばしているという。その背景には、寺尾氏の経営哲学や人材登用・人材育成の考え方が大きく作用しているように思える。通常、異業種に参入する場合、その業種のノウハウを持つ経験者を採用するケースが多いが、寺尾氏の考えは違う。
「もちろん経験者でもいいのですが、私が面接をした経験者のかたたちの多くは考え方が凝り固まっていました。それまでの考え方から脱することができていませんでした。私は事業を立ち上げる際に、事業自体の存在意義やビジョン、ミッションをしっかり考えるんです。それを面接の場で伝えて、同じ目標を目指し、同じ価値観を持って取り組んでくれる人を優先して採用してきました。今、福井市内でアパレルショップを2軒運営していますが、店長は2人ともアパレル経験はゼロだったんです。この2人に対しては目指すところを最初に示し、服を売るのではなくカルチャーを作っていけと伝えました。ただし、達成するための方法には口を出さないので、自分で考えて個性を発揮してほしいと。そうすると、私には考えつかないような企画をどんどん上げてきて、もっとお客さんに喜んでほしいと使命感を持って頑張ってくれる。成功体験が仕事のやりがいにつながり、さらに積極的になる。その結果が実際に収益として現れています。飲食業でも他の事業においても、この私のスタンスは変わりません。」
会社から言われたことに従うだけではなく、自発的に考え行動する。それによる成功体験が自身のPrideになる。この寺尾氏の思いは、アジアで展開している支援事業『National Pride Project』にも通じるものだ。
カンボジアにおける『National Pride Project』は、
現地の人々が自立するための支援事業
現在、テラオライテックがカンボジア王国プレアビフィア州にて行っている支援事業『National Pride Project』は、かつて寺尾氏が専務理事を務めていた日本青年会議所の『スマイル・バイ・ウォーター』キャンペーンの事業モデルを引き継いだもの。その内容は、現地で食用淡水魚の養殖事業を行い、その収益を原資に上下水道のインフラ整備を実施。それに伴い、現地の人たちへの技術支援や衛生教育も含めてカンボジア人による産業と町の自立化を支援していくプロジェクトである。
「2016年に実施された日本青年会議所の『スマイル・バイ・ウォーター』キャンペーンは、魚を養殖して得た利益で井戸を掘削し、安全な水を手に入れるというものでした。ただ私自身は、このキャンペーンには携わってはいなかったんです。2017年に日本青年会議所を卒業したのですが、私も水の事業に携わる者として世界の水問題に関心がありましたし、自社でも同様の事業ができないかと考えたんです。そこで、日本青年会議所の当時の担当者に相談したところカンボジアを勧められ、その担当者と一緒にカンボジア視察に行ったことが『National Pride Project』のスタートでした。」
初めて訪れたカンボジアで目にした光景は、寺尾氏の想像とは違っていた。日本青年会議所が行った事業は、1年後に州政府へと譲渡されたが、実際には事業としての体をなしてはいなかったのだ。
「日本青年会議所としては持続可能なしくみを作ってはいたのですが、そのスキームが回っているとは言えない状態でした。何とかしろと言ったところで、やる企業はない。そこで『じゃあ、俺がやる』と変な男気を出して引き継がせてもらうことになったんです(笑)。その後、州政府と契約を結び、当社に事業を譲渡してもらうことになりました。まずは、養殖した魚を売った利益を政府に寄付して、政府からの発注でインフラ整備を進めています。コロナの影響で思うように進まない現実もありますが、最終的には上下水道の整備を行い、各家庭で蛇口をひねれば水が出る状態を作ることを目指しています。」
ただし、テラオライテックが実施しているのはボランティアのような一方的な支援ではなく、現地の人々が自立するための支援だという。
「私たちが思う豊かさを一方的に提供しようとは思っていません。彼らが自分たちの財源と技術を持ってして水を確保できる状態にしてあげなければ、国としての発展はない。彼らが自立するための支援を行おう、と決めました。人間として当たり前の生活を誰かから与えられるのではなく、自分たちで作り上げることができて初めて自国の文化や歴史にも目を向けられるようになり、自分の国って良いなと、感じられると思うんですよ。だから本当のゴールは、自分の国に誇りを持てるようになること。『National Pride Project』の名称は、そこから発想したものなんです。」
プロジェクトの最終ゴールは
世界の水問題を解決し、多くの命を救うこと
現在、テラオライテックはカンボジアの他に、ブータンとウズベキスタンにおいて、日本の浄化槽システムを用いた排水処理プロジェクトも進行中。このプロジェクトは、寺尾氏の思いに賛同してくれた国内の浄化槽メーカーとの共同事業である。
「飲み水の確保の次に取り組まなければいけないのは排水の処理です。汚水が適切に処理されていないことで水質汚染が起こり、人の体を蝕んでしまいます。そこで今、ブータンとウズベキスタンで取り組んでいるのは、日本の浄化槽システムの販売です。莫大な資金を投下して大規模な下水道システムを整備しなくても、浄化槽システムを用いれば個別処理ができることをブータン、ウズベキスタンの中央政府に対して提案し、準備を進めています。ただ、私が考えているのは単なるビジネスではなく、排水の処理を通した自立支援なんです。ウズベキスタンは国内産業がないため、国民の6割が国外で働いているといいます。しかし、この浄化槽事業が進めば、現地に浄化槽の製造工場を作ることができます。そうすると、『作る・販売する・工事する・メンテナンス・定期検査』のための5つの産業が作れるわけです。その利益を元に国が抱えている他の課題に取り組んでいけば発展につながると思うのです。今、当社ではカンボジア、ブータン、ウズベキスタンから人材を迎え入れて技術指導を行っているのですが、現地法人を設けて彼らが帰国後のポジションも用意する予定です。そこで彼らが主役となり、国の発展に寄与してもらえればと考えています。そして、『National Pride Project』の最終ゴールとして描いているのは、今も水が原因で毎日多くの命が失われている現実がありますが、その1パーセントだけでも当社が救えるようになることです。こんな地方の中小企業にそれができたならば、ひとつのモデルを作って突破口を開いたならば、あと100社が同じことをやってくれれば世界の水問題は解決するはず。そう信じて頑張っています。」
世界の水問題解決までの道のりは、険しく厳しいものであることは想像に難しくないが、寺尾氏が語る言葉は決して夢物語ではない。揺るぎない信念と行動力でひとつずつ壁を乗り越え、日本人、日本企業のPrideを見せてほしい。そう強く感じさせてくれる会社である。