ストーリー

「現代の北前船」をテーマに、さまざまなプロダクツやサービスを発掘し、地域と世界をつなぐ

アルミ産業の盛んな富山県高岡市に本社を置き、約40年にわたってアルミをはじめとする金属商社として活動を続ける、ホクセイプロダクツ株式会社。高純度アルミの加工製品、医薬品包装材に代表されるアルミパッケージ製品などの企画・販売を主要業務としているが、約10年前から取り組んでいるのが、「地域の価値を世界につなぐ」をビジョンに掲げたライフスタイル事業。全くの異分野、ゼロからのスタートではあったが、その小さな芽は着実に育ちつつある。「地域社会への貢献」を基本理念にあらたなビジネスに挑戦する熱い思いを、ホクセイプロダクツ株式会社代表取締役の冨田昇太郎氏にうかがった。

多様性を受け入れ、ローカルとローカルをつなぐ
ダイレクト・トレーディングに取り組む

大学卒業後、三井物産、日本軽金属を経て、1999年にホクセイプロダクツに入社するとともに代表取締役に就任した冨田氏。家業を継承したかたちになるが、若い頃から海外とのビジネスに携わりたいという強い思いがあったという。
「商社に就職したのも、世界を相手にビジネスがしたい思いからでした。自ら起業することも考えたのですが、そのときに周りから『家業があるのだから』とアドバイスされたんですね。なので、家業を継いだと言うより、私の方から経営に携わらせてほしいとお願いして入社したようなかたちでした。」
しかし、すぐにライフスタイル事業をスタートさせたわけではない。故郷・富山県の経済が低迷する中、基幹事業であるアルミ分野を支えることが重要課題となった。その現状打破を目的にフィンランドとスウェーデンに進出したが、思うような結果が得られなかったことが、ライフスタイル事業を始めるきっかけになったという。

「もともと私たちがやっていたことは、金属関連の材料をBtoBでつなぐ仕事でした。その延長で海外拠点を作っていったのですが、地域と何の関連もない日本の会社がいきなりビジネスを始めようと思っても、そこにはいくつもの壁があるわけです。人と人との結び付き、信頼関係を築かなければビジネスは成立しません。そこで、アイテムにとらわれることなく自由な発想で、自分たちがその地域の人たちのために何ができるかを考えてみました。例えば、その地域に眠っている価値、それを製品と置き換えるとわかりやすいのですが、私たちが製品を調達して輸出することで、地元の人たちに対して、今までにないチャンスを創出できる。結果、先方から感謝されるようになります。つまり、ライフスタイル事業は、金属のビジネスがうまくいかなかったことの逆転の発想から生まれた事業なのです。また、スウェーデンのローカルな町で作られた製品を、私どもの会社がある富山のローカルな町が買う。すなわち、ローカルとローカルをつなぐ、ダイレクト・トレーディングを行うことからスタートしました。」

「人の役に立つこと」「社会課題の解決」を目的に
ソーシャルビジネスに挑戦

現在、ライフスタイル事業は、北欧事業・北米事業・北海道事業・沖縄事業・伝統工芸(富山県高岡市)と、ホクセイプロダクツが拠点を置く地域が連携しているが、日本から海外へ輸出する製品は地域を限定せず、全国が対象となっている。取扱製品は多岐にわたっており、アイテム数は年々増加している。その理由は、ホクセイプロダクツが商社として単なる輸出業を行っているだけではなく、「人の役に立つこと」「社会課題の解決」を目的にソーシャルビジネスに取り組むようになったためである。

「海外拠点においては、現地に精通し専門領域を持った現地スタッフを必ず雇用しています。そのスタッフを通じて、ただ製品を購入するのではなく、現地の人とコラボレーションしながら一緒に仕事を作り上げていく。そういう取り組みも行っています。例えば、北海道のスタッフとアメリカのスタッフが連携し、アイヌの伝統工芸品をオレゴン州に輸出したことがありました。この伝統工芸品はポートランドにある広大な日本庭園で特別展として開催されたのですが、その展覧会に弊社も協力しています。また、弊社のある高岡市は400年の歴史を誇る高岡銅器や高岡漆器といった伝統工芸品が有名で、その海外進出のお手伝いも行っています。ただ、当初は現地の人からあまり良い反応が得られず苦労しました。でも、私自身が何度も現地に足を運び、高岡の歴史や職人のストーリーを交えて話すうちに少しずつ反応が変わっていきました。そこでまた、製品を売るだけのビジネスではなく、文化をつなぐことの大切さを感じることができたのです。」
このほか、アメリカのオレゴン州ポートランドの現地法人と富山のスタッフが連携してオレゴンのフルーツピューレを日本に輸入。それを、富山のクラフトビールメーカーが活用してあらたなクラフトビールを製造したところ、このビールが世界の大会で金賞を受賞したこともあった。また、2017年に大阪の阪神梅田本店で開催された「ポートランドフェア」では、出展企業の選定から、フェア当日の販売活動までをホクセイプロダクツがサポート。国内外を問わず、まさに「地域の価値を世界につなぐ」活動を積極的に行っている。

ハイブリッド企業として富山から世界を目指し、
地域と地域をつなぐ存在に

金属商社、ライフスタイル事業と銘打ったソーシャルビジネスを展開するハイブリッド企業のホクセイプロダクツには、もうひとつの顔がある。それは、SDGsに積極的に取り組む先進的企業としての側面である。その活動も多岐にわたり、17項目の目標中、9つのテーマに取り組んでいるという。中でも、『つくる責任、つかう責任』に関しては、すでに長年取り組んでいる。その活動事例が、大手飲料メーカーが市中から回収した大量のアルミ缶を購入し、協力企業にて再生アルミ地金にリサイクルするというもの。このほかに、高校生のグローバル教育用奨学金の支援や、環境問題に取り組む団体などの支援も行っている。
これらの活動すべてに通じるのは、人や地域社会にとって役に立つ企業でありたいという思い。それが原動力になっているのだ。

「好きな人、好きな地域の役に立ちたい。その想いと想いが通じた地域がつながってビジネススキームが生まれる。それを私自身がライフスタイル事業を通じて、実際に経験したことが大きいと思います。人と人のつながりが、大きな力を生むと信じていますし、これはSDGsの目標達成にも必要不可欠ではないでしょうか。とは言うものの、ライフスタイル事業の売上規模は全体の10%程度。まだまだ努力が必要だと感じていますが、将来的には基幹事業であるアルミ関連と同じぐらいの規模にすることを目指しています。そして、かつての北前船が、日本各地に大きなパワーを運びつないだように、弊社も地域の価値を世界につなぐ、現代の北前船となれるよう尽力していきます。」
穏やかな波ばかりが続く航海ではないだろうが、それを乗り越えて進んで行く気概を感じさせてくれる会社である。