ストーリー

システム開発にとどまらず、社員の多様性を生かして異業種にも取り組む、冒険心あふれるITベンチャー

スマートフォンアプリケーション、業務系Webシステムの開発を主要業務としながら、スマートウォッチ用のアプリやNintendo Switchゲーム『ALPHA』の開発からキャラクターデザイン、イラスト制作など多様な業務を展開している株式会社要。漢字一文字で「要(かなめ)」とはソフト開発会社らしからぬ社名ではあるが、そこには顧客とエンジニアなどの関係者をつなぎ、ITを用いて何かを成し遂げる存在になりたいという、代表取締役の田中恵次氏の熱い思いが込められている。2020年に会社設立から10年目を迎え、次の10年に向けて新たな一歩を踏み出すために掲げたビジョンが「MAKE HAPPY AND BE!」。幸せをつくり出すことで周りを豊かにし、自分たちも豊かであろうという思いを、この言葉に込めたという。そんな要の業務は、いまやIT系にとどまらない。ユニークな経歴を持つ社員たちのアイデアを生かした異業種にも参入している。変わることを恐れず、常に挑戦し続けることを理念とする株式会社要の新たな取り組みを代表取締役の田中氏にうかがった。

社員の自由な発想と熱い思いが
新しい価値を生み出してきた

約15年間、IT企業でプログラマーや営業職を経験した田中氏が、独立して会社を立ち上げたのは2010年。その背景には、2008年に起きたリーマンショックが関係しているという。
「IT業界への影響は大きく、当時在籍していた会社も業務縮小を余儀なくされました。私が持っていた部門も縮小されることが決まったのですが、懇意にしていたお客さまや外注として仕事を依頼していたエンジニアのかたがたに迷惑をかけてしまうような状況だったため、『じゃあ自分でやろう』と考えて独立しました。しかし、ひとりでできることは限られています。まして私自身は開発者ではありませんから、自分が要となり、お客さまとエンジニアをつなぐことでビジネスを成立させる。そんな形からのスタートでした。そのうちに、気づいたらどんどん社員という仲間が増えて、現在の形になっていきました。」
業務全体の8割以上が業務系のシステム開発だというが、この業務を柱にしながら、社員たちのアイデアをもとにさまざまなチャレンジを行っている。
「自分たちでプログラムを作り出そうとスマホアプリを開発したり、任天堂のゲームを作ったりと、アイデアあふれる若い社員を中心にいろいろなチャレンジをしています。最新のものでは、元バンダイのおもちゃクリエイターで、『∞(むげん)プチプチ』という大ヒット商品を作った高橋晋平さんと一緒に取り組んでいる『MouMa』があります。これはいま、イチオシですね。」
『MouMa』とは妄想商品マーケットの略で、「こんな商品があったらいいな」というアイデアを19文字以内で投稿し、好きな値段で出品することができるプラットフォーム型のWebサービス。何の枠も規制もなく、自由な発想から生まれた、まさに妄想商品を発表するものだという。このユニークさは、要の社風にも通じるものがある。一般的なシステム開発会社であれば、社員はエンジニアが中心となるが、要は未経験者歓迎。そのため多彩な経歴を持つ社員で構成されている。
「美容師をやっていました、自衛隊にいました、タクシー運転手をやっていましたとか、さまざまな経歴を持つ人が集まっています。そういう意味では、めちゃめちゃ多様性のある会社なんですよ(笑)。スキルはないけれど、思いはある。ITで何かを成し遂げたいという思いをもって集まった集団なんです。だからこそ、すごく頑張ってくれますし、社内に多様性があることで新しい価値が生み出されることも体験しました。それが会社の根幹になっている気がします。」

ネパール人社員の思いが会社を動かし、
新規事業の創出につながった

株式会社要の社員の多様性は、異業種からの転職者だけではなく国籍にも見られる。2017年には国内のIT系専門学校を卒業したネパール人のパールザパチ・スサン氏が入社。彼の存在が異業種に取り組むきっかけとなった。
「スサンには、将来ネパールに帰国して起業し、祖国のために頑張りたいという思いがあるんです。それまではネパールに関する知識はほとんどなかったのですが、彼から話を聞く中で、まだまだ発展途上にありたいへんな暮らしをしている人がたくさんいることを知りました。彼が帰国するのは何年後になるかわかりません。それまで何もしないのではなく、小さなことでもいいからネパールと日本の懸け橋となるようなビジネスはできないかと彼に提案したんです。」
田中氏の提案を受け、スサン氏はネパールから数種類の商品を取り寄せたが、文化の違いや品質の問題などもあり、ビジネス化は難しいと判断された。そんなことを繰り返す中、「実は最近、ネパールでコーヒー作りが流行っている」というスサン氏の言葉から、ネパール産の『HIMALAYAN COFFEE』の輸入販売事業が実現。その中心的な存在を担ったのがスサン氏だった。

「ネパールのコーヒー農場とつながりがあったわけではなかったので、どうしたらいいかを考えてネパールの情報を調べてみたんですよ。そこから20~30社にメールを送ったんですが、何も返事が来ない。たまたま1社から返事がありまして。そのかたは、コーヒーの品質管理を専門に行っていたんです。そこからメールのやり取りを行い、サンプルを送ってもらい、2018年の7月ぐらいから取り引きが始まりました。」(スサン氏)
流暢に日本語を話すスサン氏は、国内での営業も担当。サンプルを持って都内の焙煎コーヒーショップを訪ねたという。
「その頃はコーヒーに関して本当に素人だったんですよ。営業に行きながらプロのかたたちの話を聞いて、逆に学んで帰って来る状態でした(笑)。でも、ネパールのコーヒーに興味を持ってくれるお店も多いですし、高評価も得られました。量はそんなに多くないですけど『買わせてください』と言ってくれるお店もあって、少しずつ個人経営のお店とつながりができていきました。」(スサン氏)

日本ではネパールのコーヒー豆がほとんど出回っていないことから希少性も高く、まろやかな味わいは日本人にも好まれるはず。そう考えてコーヒー豆の輸入販売を事業化した田中氏だが、これはひとつのきっかけに過ぎないという。
「コーヒー自体、すごく価値がありますし、人を惹きつける魅力を持っていますが、僕らはコーヒーを売りたいわけではなくて、ネパールを豊かにしたい。そのために少しでも貢献したいと考えているんです。もともとネパールは紅茶の名産地ですし、前にネパールへ行ったときに味わったハチミツも、これまで食べたことのないような刺激的なものでした。まずは、そういった食材を通じてネパールに親しんでいただこうと考えて、ショップをオープンしました。」

そのショップとは、2020年10月31日、宮城県仙台市にオープンしたアンテナショップ『HM’s(ヒマラヤンズ)』である。同店では、コーヒー豆、紅茶、ハチミツ、ピーナッツバターの4種類を販売。地元の新聞に取り上げられるなど、市民から注目を集める存在となっている。今後、店舗数を拡大するなどの可能性もあるが、それはまだ先の話。だが、要が展開するネパール支援のための事業は、こればかりではないのだ。

ネパールと日本の懸け橋になるために
コーヒー事業の拡大を目指す

株式会社要では、ネパールのコーヒー農園と小口で契約を結び、自家農園として運営できる、コーヒー農園シェアサービス『Coffee Farm Share』を2020年10月にスタートさせた。最小単位の敷地面積500㎡をひと口、7万5,000円(税別/初期費用等は別途)から利用できるものだ。この新規事業は、コーヒー豆を卸している店舗の店主たちの言葉がきっかけになったという。

「弊社が卸売をしているお客さまは、都内の焙煎コーヒー店。それも最近流行りのスペシャルティコーヒー店をオープンされたかたが多いんですね。お店にうかがってお話をしていると『いずれは自家農園、個人所有の農園を作るのが夢なんです』という声をたくさん聞いたんです。しかし、海外の農場との契約は言葉の壁や商習慣の違いがありますから、個人で行うのはハードルが高い。弊社はネパールのコーヒー農園とつながりがあるので、うちが畑を借りて、それを小口にして利用しやすい価格帯にして提供すれば、店主さんの夢を叶えてあげられるのではないかと思ったんですよ。結果、畑が広がればネパールの農家さんも豊かになっていく。まさに、Win-Winの関係が作れると考え、実施することにしたんです。」

現在は、コーヒー店を経営するプロを対象としているが、将来的にはより規模を小さくして、コーヒーの木を1本単位で所有できる個人向けサービスの展開も視野に入れているという。
ネパールのコーヒー農家と日本とをつなぐ、「要」の存在となる。そして、「MAKE HAPPY AND BE!」幸せをつくり、みんなで幸せになる、という企業理念の実現に向けて、さらに一歩踏み出そうとしている株式会社要。多くの人に、その活動を知ってもらいたい会社である。