ストーリー

 「強い農業」を実現するため、さつまいもに特化し 従来にないスタイルで世界に挑む

青果用さつまいもに特化し、生産・加工・販売・流通に加え、新品種の開発からユニークかつ独自のブランディングによるイメージアップまで「さつまいもに関することなら、なんでもやる」を標榜する、株式会社くしまアオイファーム。宮崎県の最南端に位置する串間市に本社を置く、革新的な農業ベンチャー企業である。2013年、現在代表取締役会長兼CEOを務める池田誠氏が、3名の家族と設立した同社。それが現在では90名を超える従業員を抱えるまでになり、2020年7月期の売上高は13億円を突破。さつまいも栽培を行う農業法人では売上高、輸出量ともに日本一となった。従来の日本型農業の課題を熟知したうえで、その打破を目指し、“強い農業”の実現に挑み続けている同社。さつまいもの可能性を信じグローバルニッチトップ企業へと進み行く同社の展望を、代表取締役会長の池田氏、今年9月に代表取締役社長に就任した奈良迫洋介氏のふたりにうかがった。

強い思いと行動が、「強い農業」を
次々と具現化していった

祖父の代から続くさつまいも農家に生まれた池田氏が、一念発起して農業法人を立ち上げたのは2013年のこと。まだ設立から10年にも満たない企業だが、さつまいもで日本一の会社となった。もちろん偶然でもなんでもない。未来を見据え、「強い農業」を実現するために行った数々の取り組みの結果である。
「私がこの会社を始める前、さつまいもの未来を知るためにいろいろな企業を調べてみたんです。統計によって異なりますが、青果用さつまいもの国内市場規模は200億~300億円と言われていて、さつまいも問屋で50億円規模のところが1社ありましたが、生産法人として10億円を超える規模の農家はなかったんです。これなら一番になれるかもしれない。日本国内において強い企業になれるのではないかと感じました。」(池田氏)

思いの強さが行動を後押しした。アイデアを具現化するため、異業種経験のある若い人材を採用。短期間のうちに、生産から加工・販売まで一貫して自社で行うスタイルを構築した。それらが同社の特徴であり強みとなっている。
生産においては自社だけではなく、優れた栽培技術を持つ複数の生産者と契約することで安定的な出荷を実現。2015年には自社加工場を建設し、焼き芋やスティックポテトなどの製造が可能となったほか、2016年には西日本最大級のキュアリング貯蔵庫、2017年には最大1200トン収容できる大型低温貯蔵庫を新設した。
「さつまいもを収穫する際に傷がついてしまうのですが、そこから菌が入らないように、人間の体で例えるならカサブタをつくって品質を維持して、長く保つ技術がキュアリングです。温度35〜40℃、湿度100%の環境に約100時間おくことでさつまいもが活性化するんです。また、低温貯蔵庫では温度13〜15℃、湿度85%の環境で熟成させます。これによってさつまいもにコルク層が形成され長期保存が可能となり、高品質な状態での周年出荷が行えるようになりました。」(奈良迫氏)
さらには、2017年にさつまいも選果場として日本トップクラスの規模を誇る出荷場を建設。ここから全国各地にさつまいもが出荷されているのだが、その流通ルートも独自に開拓したものだ。卸売業者や小売業者に直接販売することで中間業者へのマージンをカット。それにより消費者にはより求めやすい価格で提供できるとともに、生産農家の利益率アップに寄与している。

壁をつくらない大らかな社風が
遊び心のある取り組みを実現させた

くしまアオイファームの独自の取り組みは、さつまいものイメージ向上を目的としたブランディングにまで及んでいる。
「今までの農業というのは、生産したものを農協や問屋などに卸すところで終わっていましたが、弊社はお客さまに一番近いところまでお届けするという、従来とは違う販路でやってきた経緯があります。他の農業法人がやっていないことにチャレンジしてみようと。私が話したことがかたちになったり、社員からの提案が実現したりとさまざまです。弊社の特徴として、役職の垣根を超えて議論ができる社風があります。その中でアイデアが生まれ、これまでのブランディングにつながっていると思います。」(池田氏)
そのひとつが、さつまいもの品種を擬人化したキャラクター『オイモールガールズ』の作成。同キャラクターのLINEスタンプが作られたほか、その中のひとり『葵はるか』ちゃんをバーチャルユーチューバーにするなど、農業法人の枠にとどまらない試みは各方面から注目されている。ちなみに、代表取締役社長の奈良迫氏は『葵はるか』の存在からくしまアオイファームを知り、入社に至ったという。

「外資系商社でさつまいもを輸出する仕事に携わっていたのですが、その部門が閉鎖となり、別部署への異動が決まったんです。ただ、そのときには日本のさつまいもの可能性、ポテンシャルの高さを身をもって感じていたので、なんとかしてさつまいもに携わりたい、もっと世界に広げたいと考えるようになっていました。そんなとき、海外出張先のスーパーマーケットで目に飛び込んできたのが、さつまいもの棚で微笑む葵ちゃんでした(笑)。その瞬間にこの会社で働こうと決めて一方的にラブコールを送り、なんとか入社することができました。」(奈良迫氏)

実はその当時、くしまアオイファームでは採用を行っていなかったという。まだ社員は10数名の規模でしかなく、すでに海外への輸出は行っていたものの全体の出荷量からみると微々たるものでしかなかった。
「最初は迷いました。会社として彼の能力をフルに発揮してもらう自信がなかったんです。でも、いろんなバックボーンを持つ社員が増えるにしたがって、できる仕事が増えていくんですね。そこで、採用してから仕事を増やす、事業を拡大させる流れになりました。現在の先行投資気味に人材を確保するスタイルは、彼の採用がきっかけだったと思います。」(池田氏)
池田氏は会社を設立する前から、地元以外からも若い人材をたくさん集め、今までにないような農業法人を作りたいと考えていた。その思いが少しずつかたちになっている。正社員の平均年齢は32歳、幹部人材のほとんどが地元以外の出身者であり、池田氏の考えに賛同して入社する人も少なくないという。
池田氏が掲げる大きな目標を社員も共有し、楽しみながら汗をかく。すべては夢の実現のため。会社の財産ともいえる社員の存在もまた、くしまアオイファームの大きな強みといえるだろう。

世界一のさつまいも企業の実現に向け、
さらなる海外展開を目指す

「さつまいも王になる」。会社設立当初から池田氏はこの言葉を標榜し、その実現に向けて自ら海外視察にも赴いている。現地で好まれる品種をリサーチし、輸出用に小さなサイズのさつまいも栽培(小畝密植栽培)や大型低温貯蔵庫の新設などに取り組んできた。その結果、新型コロナウイルスの影響から航空便を利用するヨーロッパへの輸出は一時的に止まっているが、船便によるアジア向けの輸出は好調に推移。定期的に輸出している先は、香港、台湾、シンガポール、タイ、マレーシアの5ヶ国・地域となっている。この海外輸出の強化こそが目標実現のカギを握っている。そのためには安定した周年出荷が条件となる。そこで今期から取り組むのが、通常よりも早い12月に植付けを行う越冬栽培である。

「一般的にさつまいもの植付けは3月の終わりから6月上旬にかけて。収穫は8〜11月に行われます。これは日本全国どこも同じです。ただ、気候が温暖な串間市や高知県の一部では1月の後半から植付けを開始して、5月から7月ぐらいまでに収穫する栽培体系が可能になっており、弊社でも一部、1月末に植付けを行っています。しかし、1月末植付けで栽培面積を拡大しようとすると業務の偏りが起きてしまう。12月植付けの越冬栽培に取り組むことで業務の偏りを防ぎつつ在庫を確保できればさらに周年出荷が安定し、海外輸出を強化できると考えています。」(奈良迫氏)

世界一のさつまいも企業になることは、くしまアオイファームにとっての目標ではあるが、日本の農業ベンチャーの道しるべのような存在になることも大きな目標だという。

「もともと私は普通の農業者だったんです。日本には、かつての私と同じような境遇の農業者さんがたくさんいます。私は短期間のうちに若い人材を集めて会社を立ち上げ、さつまいもの輸出において日本一になることができました。しかし、弊社がさらに成長することによって存在が知られるようになり、私たちのような農業ベンチャーが日本全国に増えてほしいんです。その目標となれるような会社を目指して頑張っています。」(池田氏)

宮崎県の地から日本の農業に一石を投じる。そんなチャレンジ精神とエネルギーに満ちた人たちが集まる会社。それが、株式会社くしまアオイファームである。