ストーリー

紙くずからエネルギー 害草からもエネルギー

岐阜エリアを中心に、主に企業や行政からの古紙や古着などの回収を手掛ける株式会社サンウエスパ。1969年の創業以来、地域に根ざしたリサイクル・リユース事業を展開している再生資源卸売企業だ。近年は「Recycle Revolution(リサイクル・レボリューション)」を経営理念に掲げ、従来の資源回収に加えて、2016年より新時代に向けたリサイクルとして「バイオエタノール事業」をスタート。シュレッダーダストからバイオエタノールを抽出し、エネルギーとしてリサイクルするという新しい挑戦は注目を集めている。新しいリサイクルの形としてエネルギー事業へと踏み出した思いと展望を、代表取締役の原有匡(はらともただ)氏にうかがった。

古紙回収業社から環境企業への脱皮を目指して

「私が入社した2011年の株式会社サンウエスパは、古紙回収と卸売が売上のほとんどを占める、典型的な古紙屋でした。従業員の大半が古紙回収トラックのドライバーだったため、プレハブの延長のような社屋には日中人がおらず閑散としていて、正直、当初は長く働ける自信がありませんでした。」と代表取締役の原有匡氏。しかし、入社時より大叔父からの後継者として社を担うことが決まっていた原氏は、自身が面白みを持って長く働くためにはどうすればいいかを考えるように。いつしか〝興味〟というアンテナに引っかかる情報に対してさまざまな思想を巡らせ、そのひとつひとつにアクションを起こす習慣が身に付いていた。

マイクロプラスチック問題やバーゼル条約の厳格化など、リサイクル業界にも時代や世界情勢に連動する変化の波がある。さらに、ブームやトレンドのように扱われるようになった「エコロジー」という言葉の氾濫は、世間の目がリサイクルに向く誘因にもなった。そんな業界の動勢に対して、原氏は「これからのリサイクル業界はどうなっていくのだろうと想像したとき、エネルギー事業とグローバル化が軸になるのではないかと思い、そこに資本を投入し、あらたな事業として自社を支えるものに成長させたいと考えました。そして、古紙の回収と卸売だけではこの先企業としての飛躍はないため、自社の中核となるリサイクル事業においても、集め方や売り方を変革する必要があったのです。」と話す。

リサイクルのグローカリゼーション化を実現するために

そこで、2013年から無人回収施設「エコファミリー」の設置を開始。地域のごみ減量に貢献し、世界規模のリユースを実現する入口として現在は岐阜県を中心に70カ所以上が設置されており、24時間365日いつでも無料で利用できるリサイクルステーションとして地域住民に広く浸透している。さらに回収にIoTを活用することで、定期的なルート回収ではなく、必要に応じた回収で省人・省エネ化にも取り組んでいる。
また、「エコファミリー」では、古紙以外に古着の回収もしている。これは、原氏が新しいビジネスチャンスを探るべく、まだ大企業の進出が少ない東南アジア圏へ頻繁に足を運んでいた際、当時のマレーシアでは古着に関税が掛からず、日本で不要となった古着の買取価格が日本の約15倍の相場であることを知ったのがきっかけだった。サンウエスパはウエス原料の回収も行っていたため〝商品〟となる古着はすでに持っており、「エコファミリー」設置数も増加している現状を踏まえると、長期的な輸出も可能であると判断。すぐに世界中の古着選別工場が集まるマレーシアで現地の古着業者とのコネクションを築き、直接貿易の道筋を作り上げた。現在では古着だけで年間3,000万円以上の売上を実現している。

「この事例は、不要となったものでもそれを必要としている地域や売り先を見つけることで、ひとつのものにあらたな価値が生まれるという、自分のビジネスマインドの変換ポイントでした。これ以降は、無価値なものや未利用なものに、どうやって価値を付けるかを中心に物事を考え、取り組んでいます。」

エネルギー事業参入のきっかけは、マリアナ海溝のエビ

サンウエスパでは、同時期に海外事業と並行してエネルギー事業参入への準備も始まっていた。難再生古紙とされているシュレッダーダストを使って、紙に含まれるセルロース(細胞壁)を酵素で糖化し、発酵・蒸留することでエタノールを抽出。それを再利用するという計画である。具体的なビジネスイメージのひとつとして、電子カルテ化が進む病院の紙カルテのシュレッダーダストを回収し、それを原料として製造されたエタノールを医療用として病院に卸すというリサイクルスタイルの構想も持っている。

きっかけはある新聞に掲載された「マリアナ海溝に棲息するエビから、おがくずや紙を効率よく分解する酵素が発見された」という記事を原氏が目にしたことだった。「紙をエネルギー資源に変えることができれば、私たちのような古紙回収業社が近い将来エネルギー事業へ進出する可能性は大いにあるはずだと考えました。原材料となる古紙は、まさに山ほどありますからね。」と話す。

具体的に調べてみると、酵素を使って古紙からバイオエタノールを製造するという技術は昔からあったが、コスト面で折り合いがつかないため、まだ国内では事業化に至っていないことがわかった。同時に関西大学でセルロースをバイオエタノールにする際のコストにフォーカスを当てた研究をしている教授の存在を知ることに。さっそくアポイントを取って話を聞き、共同研究をスタート。さらに、偶然にも岐阜県内に必要機器を保有しているベンチャー企業があったためレンタル契約も締結した。これが2016年のことである。

「目指したのは、ゴミとされるものが価値のあるものに変わる、誰が見てもわかりやすい理想的なリサイクルの形です。どんなものに変わるのが見え方としてかっこよく美しいかと考えたとき、エネルギーしかないと思いました。」

厄介者のホテイアオイに見つけた価値と「相利共生」の思い

古紙回収業から環境企業への脱皮を掲げ、エネルギー事業へ取り組む道を進みはじめたサンウエスパは、黒字化が難しいとされる古紙からのエタノール抽出の問題解決方法を模索することになる。「すでに古紙回収のノウハウや人材、場所は持っているため、ゼロから始める企業よりも有利な条件からスタートする土壌はあります。であれば、作ったエタノールを一般的なエネルギー資源として市場に流すだけではなく、別の利用方法を見つけて、回収から提供までをひとつのビジネスモデルにしてしまえば、問題点が解決できるのではないかと考えました。」と原氏。この発想の延長が、カンボジアにおけるホテイアオイからのバイオエタノール製造事業である。

東南アジアへの視察中に多く足を運んだカンボジアは湿地帯が多く、いたるところに群生しているホテイアオイがもたらすさまざまな弊害に悩む現地住民の声もよく耳にしていた。ホテイアオイは10日で倍、7ヶ月で200万倍になる繁殖力を持つ植物で、現地ではまさに厄介者である。特に100万人以上いるとされるトンレサップ湖の水上生活者は、移動手段であるボートの行く手を阻まれたり、ボートのエンジンにからまったりと、生活を支える漁業をはじめ日常に大きく響いている。さらに湖の生態系にも影響を及ぼすなど、そのダメージは大きい。しかし、現地住民は特に対策をとっていないという。

「ホテイアオイの茎で作ったフロアマットやバッグが土産物として売られていることはありますが、その程度の消費ではホテイアオイの繁殖力にはかないません。地元の方は邪魔だと思いつつも生まれたときからの環境であるため、何かを変えようという考えは持っていないようです。しかし、何度も足を運んで話を聞くうちに、乾季に干上がったホテイアオイが天然の堆肥となり、その土地で農業をする人がいることや、ホテイアオイの花を食べる習慣があることを知りました。食べる習慣があるということは、口にすることに抵抗がないということです。ここから、燃料用エタノールの100倍の付加価値がある飲料用エタノールの製造と、抽出後の残渣(ざんさ)を堆肥にするアイデアが生まれたのです。」

折しも、この計画の根幹はJICA(国際協力機構)の中小企業海外展開支援事業に案件化調査として採択されることになり、カンボジアの社会発展も見据えたプロジェクトへと成長を遂げていく。

構想は、大きく三つである。一つ目としては、ホテイアオイを原料とした濃度99.5%エタノール製造である。これは、水上生活者の移動手段となるボートなどに使う燃料として用いる。二つ目が濃度95%エタノールの製造であり、こちらはクラフトジンをはじめとする飲料用アルコールの原料とする。飲料用とすることにより、付加価値を燃料用としたときの100倍にまで押し上げ、利益の確保に繋げる。さらに三つ目として、エタノール残渣を堆肥化し、農業利用することである。ここでは日本で不要となった中古農機具を輸入し、生産性が高い日本の農業技術と合わせて普及することに努めるという新プランも付け加えた。もちろん、農機具も将来的にはエタノール燃料の使用を想定している。

他にも、農業技術のデモンストレーション用農地ではクラフトジンに使用するスパイスやハーブなどのボタニカルを栽培したり、現地に自社クラフトジンのコンセプトバーを出店する計画も進行中だ。近い将来にはジンに使用するスパイスやボタニカルをフェアトレードするインターネット通販も予定しており、プロジェクトはサンウエスパの理念である「Recycle Revolution」や「相利共生」の思いとともに、少しずつ確実に形作られている。

リサイクルの新しい形を探し続け、日常からゴミという概念をなくす

今後日本の人口が減少することで、不要なものをリサイクルしても使い切れなくなるのはそう遠くない未来の話だろう。そうなれば、地産地消で進んできた地方のリサイクルバランスにも歪みが生まれることは考えるに容易い。

「価値のないとされているものに価値を見出し、必要としている地域に向けて適切に物を動かしていくことがこれからのリサイクルの大きな課題です。」と語る原氏は、リサイクルのグローカリゼーション化によって、2028年度の売上目標を2018年度の1.7倍にあたる15億円に設定し、社会的課題解決と増収増益の両立を目指している。原氏は「このプロジェクトで非可食性植物をエタノールに変える実績を作れば、今までは減容か埋め立てしかなかった日本の植物性産業廃棄物の処理法にあらたな選択肢が確立されるかも知れません。そうなれば排出事業者が処理費用を負担することになり、将来的には国内だけでも充分に収益性が確保できる事業として成り立っていくだろうと考えています。」と話す。

その一環として始めた、カンボジアのホテイアオイを原材料としたエタノール製造事業は、現地新設会社の登記を進めており、2020年夏頃には第一次事業年度をスタートさせたい意向だ。すでに現地における市場調査や政府等の関係者へのヒアリング段階は完了しており、現在はより新事業に的を絞った調査や取引先の選定、コンセプトバーの物件契約など、準備は着々と整いつつある。岐阜から世界へ。サンウエスパは今後も自ら変化し、挑戦を続けることで、古紙回収業社から循環型社会の一翼を担う環境企業へと進化を続けていく。