ストーリー

「ニットといえばSAWADA」と広く認知してもらえるよう自社ブランドを大切に育てていきたい

古くから繊維の町として知られる大阪府泉大津市。この地で50年前からニット用原糸づくりに始まり、現在では約100社におよぶニット工場への原糸販売、アパレルメーカーのニット製品のOEM生産など、ニットに特化した製品づくりを続ける澤田株式会社。10年前からは自社ブランドを立ち上げ、ニットウエアの開発から製造販売にも取り組み始めた。その背景には、“ものづくり地域”の復興、障がい者やひとり親への支援など、糸を紡いで作り上げるニットのごとく、さまざまな想いが込められている。その熱き想いを澤田株式会社代表取締役社長の澤田誠(さわだまこと)氏、ブランドの企画開発に携わった梅林亮(うめばやしりょう)氏にうかがった。

自社のアイデンティティとなるような製品を生み出したかった

「原糸ビジネスやOEM事業は、どうしても縁の下の力もち的なお仕事ですよね。もちろん、そのお仕事の中で会社として誇れるものはあるのですが、ニット業界という狭い世界の中だけではなく、一般のかたがたにも知っていただけるような、会社のアイデンティティとなるようなものが欲しかった。それが自社ブランドを立ち上げた理由でした。」

そう語る澤田社長が、自社ブランドとしてレディースニットウエア「ADAWAS」を立ち上げたのは2008年のこと。これにより澤田株式会社は、ニット用原糸の企画・販売からテキスタイルのデザイン、ニット製品のOEM生産に加えて、自社ブランドの製造販売に至るまで一貫した機能を有することとなった。ニット業界において、原材料の開発から製品化までの機能を持つ企業はほかにない。これが澤田株式会社の強みであり独自性、自社を“ニットカンパニー”と称する所以である。しかし、自社ブランドを立ち上げたものの軌道に乗るまではそれなりの時間を要した。

「納得のいく売上に到達するまで9年ぐらいかかりました。というのも、新規事業を始めるにあたり、外部から新しい人材を採用するという考えはなく、デザインも含め社内の人間だけで取り組んだからなんです。ほかの仕事と兼任で新しい事業を行うので、当然スピードは上がりにくく、大変な仕事でした。そこは経営者である私自身、理解の上です。しかし、社内の人間だけでやるからこそ値打ちがある。本当に自分たちが作ったものだと言えますし、達成感も得られると思うんです。その結果、時間はかかりましたが、社内のみんなが誇れるブランドへと成長しました。ほかの新たなブランドに関しましても、たとえ時間がかかっても成功するまで続ける。そういう気概を持って社員一同、頑張っています。」

ちなみに、レディースニットブランド「ADAWAS」は日本のみならず、現在では欧州を中心に世界15カ国で販売されている。

ニットの新たな可能性に挑戦した4つの新ブランドが誕生

「ADAWAS」に続き、2011年に誕生したのが子供服ブランド「ami amie」。ニットは洗濯しづらいという従来の常識を逆手に取り、「洗える」をコンセプトに、カラフルな色合いの商品ラインを揃えたブランドである。

「洗濯しにくいというイメージからニットの子供服は敬遠されがちなんですが、だからこそニットに特化した会社としてチャレンジする価値があるだろうと企画しました。当社が持っている洗えるニット素材を使ったり、カラフルな色目やアニマルモチーフを用いたりするなど、ほかのニットウエアにはない個性を打ち出して商品開発を進めたブランドです。海外では分かりませんが、国内でニットに特化した子供服ブランドはありません。ですから『ami amie』はニットブランドのオンリーワンなんです。」

なお、このブランドには同社が開発した、洗濯機で洗えるという機能を持った原糸が用いられている。ニットに関する確固たる技術力と開発力を併せ持つ同社だからこそ可能なチャレンジだったといえるだろう。

また、2015年に日本文化と四季を巡る豊かな色彩の表現をコンセプトに商品化されたのが、ニットストールブランド「marusawa」。このブランドは、澤田株式会社を中心に、同じ大阪南部に所在する特殊なレースを製造している工場、最新鋭のプリントマシンを有するプリント工場が協力し、3社合同による地域創造・産地発信にこだわった商品となっている。なお、「marusawa」はインバウンドのほか、将来的にグローバル化を目指したブランドでもある。

そして、創業事業である「糸」を一般消費者向けに発信する手芸糸ブランドとして誕生したのが「SAWADA ITTO」。通常、ニット製品工場に原糸を卸す場合は1kg巻きのコーンで販売するが、それを50gに小分けして一般消費者向けのB to C製品として開発されたものだ。

これら3ブランドとは少し趣を異にするのが、廃材ニットのアップサイクルブランド「KNOT YET !」である。

KNOT YET !

marusawa

ami amie

SAWADA ITTO

アップサイクルブランドが紡ぐ「Amime no Wa」プロジェクト

澤田株式会社では、春夏シーズン・秋冬シーズンの年2回、原糸のカラーブックやニットのサンプル生地を自社で企画開発して、アパレルメーカーやニット製品工場への営業活動を実施しているほか、拠点となる大阪本社・営業所、東京営業所に加え、香港・上海・ニューヨークにある現地法人にも展示用テキスタイルが送られる。1つのサンプルに対して10mほどのサンプル生地が作られるため、その量は膨大になる。しかし、ファッション業界はトレンドの変遷があり、常に新しいデザインを提案しなければならないためサンプルを使い回すことはできない。結果、シーズンが終わると大阪本社に大量のサンプル生地が戻って来る。貴重なものではあるが、備蓄スペースの問題やそれにかかるコストを考えると、ごく少量をストック用として残し、ほとんどを廃棄せざるを得ないという。この現状を前に、これまでは廃棄されていたニットのサンプル生地を、違った形で消費者の目に触れる機会を作りたいと「KNOT YET !」を企画したのが、サンプル生地のデザイン、製造に携わっていた梅林氏だった。

「私たちからすると、自社にある編み機を使って作り上げた宝物のようなサンプル生地を廃棄するのは、本当にもったいないことだなと以前から考えていました。毎年作成するサンプル生地は、我々の汗と涙の結晶でもあるので。世の中的にも、サスティナブルであるとか大量生産・消費への懸念が取りざたされている中、アップサイクルという考え方に共感いただける方々が多少なりともいるのではないかと思い社長に提案したところ、即答で『やってみろ』と言っていただけて、2015年にスタートしました。」

「KNOT YET !」は、残糸、残布を用いたバッグ、ポーチやシューズなど1点物のニット小物製品のアップルサイクルブランドであり、社会福祉活動「Amime no Wa」プロジェクトとも連動している。役目が終わって廃材になるはずだったニット達が、 新しい芽となって、輪になって社会の中で繋がって欲しい。そんな想いから、網目の(目)と(芽)を掛けて名付けられた。同プロジェクトは、製品の作成を障がい者支援施設に依頼し、澤田株式会社が100パーセント仕入れて「KNOT YET !」ブランドとして販売。その売上の一部を病児保育支援活動に役立てるというもの。このプロジェクトも梅林氏が立ち上げたものだ。

「何のツテもないところから障がい者支援施設をリサーチして、相談するところから始まったのですが、事業を進める中で良いご縁をいただき、趣旨に賛同いただける施設も出てきました。いろいろお話を伺うと、厳しい条件のもとで作業している環境もゼロではありませんでした。当社では、作っていただいた製品はすべて購入し、不良品を返品するようなことはありません。また、自由な発想でモノを作っていただくことで機能回復や社会進出につながるチャンスにもなるのではないでしょうか。実際、作業を『楽しい』と言っていただけていますし、自分たちが作ったものが誰かの役に立っていることを実感していただける。そこに自社の商材が役立ってくれたなら嬉しいなという思いでやっています。」と梅林氏はプロジェクトへの思いを語ってくれた。

現在、3つの障がい者支援施設が「Amime no Wa」プロジェクトに参加。今後はピアスやイアリングなどの新商品販売も検討している。だが、まだまだ認知度が低いため、どう営業活動を広げ、事業として確立していくかが課題であると梅林氏は語る。

世界で認知される日を目指して「SAWADA」の挑戦はつづく

「弊社の経営理念である『継続は力なり 和は力なり』のように、新規事業をどう継続させていくか。そのためにも社外の協力者をどれだけ増やしていけるかが、これからの課題でありチャレンジだと思っています。規模は小さいかもしれませんが、『ニットといえばSAWADA』と言っていただけるような会社を目指し、社員一丸となって頑張っていきます。」

澤田株式会社のニット用原糸はすでに東南アジアからアメリカまで広範な市場を持っており、主力のエコロジー糸(和紙を撚り込むことで軽量化と同時に優れた通気性と吸水性を実現し、洗濯機でも洗える機能を持つ)や技術力を生かしたニット製品についても海外マーケットを視野に入れて進出を始めている。歩みはゆっくりかもしれないが、確固たる技術とノウハウ、人や社会への優しさを力にしながら、大阪・泉大津市発のニット製品が世界で認知される日がやって来るかもしれない。いや、そうなることを予感させる企業である。