ストーリー

観客と作り手の共創関係を企む。映画エンターテイメントの理想形を目指す。

原案は江戸川乱歩の『少年探偵団』シリーズ。登場人物の名探偵・明智小五郎、小林少年、怪人二十面相の子孫たちによって紡ぎ出される、葛藤と確執の一大歴史絵巻。その4代目小林少年を主人公に据えた映画『超・少年探偵団NEO −Beginning−』の魅力をダイレクトに観客へ「届ける」ために、コンテンツ企画開発会社のコヨーテはクラウドファンディングに挑戦する。その意図をプロデューサーの原田拓朗氏、本作品の監督である芦塚慎太郎氏にうかがった。

作り手の熱量と作品の世界観をダイレクトに観客に届ける試み

「コヨーテは規模は小さいですが、企画・ブランディングの中枢としての機能を集約した会社です。いわゆる『スタジオ』ではないので、社内で完結できることはほとんどなくて、案件ごとにゼロベースで最適なチームを社外と組む。作品をどう作るか、というところから、出来上がった作品をどのように観客に届けるかというところまで、クリエイティブを軸に責任を持って関わっていくのがコヨーテの役割だと考えています。」

こう話すのは、プロデューサーで同社取締役COOの原田拓朗氏だ。コヨーテは、配信やテレビ展開、映画化を目論んだオリジナル企画を中心に、原作ものの映像化、既存IPのリブランディング企画等を推進するコンテンツ企画開発会社として、2017年8月に設立された。小さく生んで大きく育てることをコンセプトに、プロデューサーとディレクター数名のミニマムなチームで「0→1」を生み出し、社外のパートナーとともに「1→10→100」へと広げていくのが基本コンセプトだ。

「とはいえ、パートナーという言葉の意味が大きく変わってきているとも感じています。」

大資本のパワーゲームで広告を4マス(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)に大量投入し、何百館ものスクリーンをいっきに開けて稼ぐやり方が必ずしも成功しなくなっている一方で、作り手の熱量をダイレクトに伝えることのできる小規模な上映が観客の熱量を創出し、それがSNSなどを介して伝播することで、より大きなムーブメントに育っていくような成功事例が散見されるようになってきた。映画会社やテレビ局、ビデオメーカーなどの伝統的に製作委員会を構成してきたようなメンバーだけがパートナーなのではなく、むしろ一緒に盛り上がってくれる観客の一人ひとりが作品を育てる重要なパートナーと言えるのではないか。

従来の配給スキームでは、どうしても上から情報をシャワーのように浴びせかけ、観客はそれを受動的に受け止める形になりがち。その窮屈さが、むしろ作品の可能性を減らすことにもなりかねないとわかっていても、長年馴染んだやり方はなかなか変えられない。であれば、作り手自らが観客と向き合って、作品を届けていく新しい配給スタイルを、なるべくノイズの少ない形で実現させた方がよい。

「クラウドファンディングはそのための最適な手法だと思い、ぜひ一緒に新しい興行スキームを作りたいとソニー銀行に相談しました。今回のファンドでは、作品の配給・宣伝をサポートしていただきます。すでに作品は完成しているので、あとは全力で観客にこの作品の熱を届けるための場を用意します。東映グループという巨大なエンタメグループを背に、小規模でアグレッシブなベンチャーが前衛で攻める、チャレンジをチャレンジで終わらせない布陣だと思います。」と原田氏。

映画『超・少年探偵団NEO −Beginning−』とは?

映画の原案となった『少年探偵団』シリーズは、江戸川乱歩が戦前から戦後にかけて執筆した少年・少女向けの怪奇探偵小説。1936年に雑誌『少年倶楽部』(講談社)への連載にはじまり、今もなお読み継がれるロングセラーだ。戦後はスクリーンやブラウン管にも登場し、1975年は特撮のテレビシリーズ(日本テレビ)が大ヒット。その後も映画やドラマなどで繰り返し映像化され、世代を超えて親しまれている。

2016年にパブリックドメインになったこの作品を元に、主要キャラクターである明智小五郎、小林少年、怪人二十面相、それぞれの子孫たちが何世代にもわたって繰り広げる葛藤や確執の歴史絵巻を企画・構想した。今回の映画は、4代目小林少年が主人公。映画の撮影・編集はすでに完了している。

「私たちはこの作品を、単に一本の、単発映画として考えているわけではないのです。」
何世代にもわたるサーガとしての世界観はこの映画を起点に、たくさんのサブストーリーや他の世代の話に伏流していく。

「私たちがやりたいのは、一本の映画を作って終わりではなく、一つの世界観を構築して、その先へ、そのまた先へとその世界観でずっと楽しんでいけるような展開をしていくことです。これはその第一弾。この世界観にシンクロして一緒に盛り上がってくださる、いわゆるコアなファンをどれだけ集められるかがとても重要です。」と原田氏。

「『スター・ウォーズ』シリーズがその例だと思います。映像製作をルーカスフィルムが一括して行い、一つの大きな世界観に基づいて、30年、40年にわたって新しい作品を世の中に出し続けていますよね。これが映画エンターテイメントの一つの理想形なのかなと思っています。」と語るのは本作品の監督、芦塚慎太郎氏だ。
その『スター・ウォーズ』シリーズも、最初は全米の大学のSFサークルでの、かなりマニアックな熱狂をベースにムーブメントが生まれた。

「製作委員会方式ではない」ということ

近年の映画製作は複数の企業による製作委員会方式が一般的だ。資金を集めるだけでなく、それぞれの強みを持つ企業がDVD製作やテレビ放映、商品化などを担う強力なビジネススキームでもある。しかし、そのためには、出資企業の意向を製作物に反映させることも必要になる。製作費を回収する側の会社がクリエイティブの主導権を持つことも多いだろう。

「製作委員会を構成する企業の都合を『大人の都合』として楽しむ見方もあるだろうけど、それはもう十分ではないかと。企画・クリエイティブに軸足が置かれるべきだし、作り手の熱量のないものは結局観客にバレてしまう。たくさんのエンタメが溢れている中で、あえて時間を割いてまでそのような作品を選ぼうとは思わないでしょう。」と原田氏。

「製作委員会がフィルターのようになって、観客と作り手を分断してしまったり、熱量を削ぐようなことになってしまうなら、製作委員会はコンテンツ製作にとって良いしくみではなくなってしまう。製作委員会方式だから絶対にダメとか良いとかいうことではないけれど、少なくとも企画との相性とか、向き不向きはあると思います。」

本作品は、委員会方式によらずに製作することで、作り手がある意味「むき出し」になって上映の仕方、楽しみ方を真剣に考えられる体制が実現した。
「観客に熱量を伝える上で非常に有利な条件が整っていると思います。」

その先の物語にワクワクする体験を作っていく

「作品のサブタイトルを「Beginning」としたことからもわかるように、すべてのはじまりがここにある。明智小五郎、小林少年、怪人二十面相。三つ巴の因縁の対決は、三代目、四代目に端を発する確執として後世に受け継がれていくことになる。劇場にどれだけ観客を集め、その先に起こるドラマにどれだけワクワクさせられるか。つまりちゃんと「Beginning」として機能させられるかがプロジェクトの肝だ。

「作品のテーマはアイデンティティの確立です。少年が多感な時期に葛藤に苦しみながら、自分が自分であることを認めて大人になっていくという話。僕もそうでした。ずっと映画監督になりたかったけれど言い出せず、高校2年生の夏に三者面談があり、ここで言わなければ普通に大学に行ってやりたくもない勉強をしなくてはいけない。自分の親に初めて話しました。映像の専門学校に行かせてほしいと。学校の先生にはとりあえず大学に進学して……とは言われましたけど。だから、10代の悩んでいる子たちに、大人や周囲の人にどう思われようと自分のやりたいことを素直に言うことが正しいと共感してもらえると嬉しいですね。」と芦塚氏はメッセージを送る。

自分探しは世代を超えた普遍的なテーマでもある。物語の主人公、初代・小林少年のひ孫にあたる小林芳狼は16歳の高校2年生。演じる高杉真宙は、撮影当時20歳。少年から青年の顔つきに変わりきる、ちょうどそのタイミングで撮影した。キャストのファンにとっては貴重な映像になることは間違いない。

劇場の没入感で盛り上がる、映画「体験」のあり方を追求

「この作品で『ジャンルレス』というジャンルを作りたかったんです。20代前後の役者が出ている映画は、大体においてキラキラ系のラブストーリーだったりします。恋愛もの、青春ものなど、宣伝のためにカテゴライズしやすいジャンルを設定しがちですが、この作品には、ホラー、ファンタジー、青春、友情、アクションなどいろいろな要素が盛り込まれていて、あえて恋愛だけがない。若者向けといえば『恋愛』みたいな状況は、もうそろそろ食傷気味かなと思ってそこだけ外しました。僕が子どもの頃に観た『グーニーズ』とか『ぼくらの七日間戦争』などのジュブナイル映画の荒唐無稽さというか、設定の無茶苦茶さ。非日常な世界だけどワクワクする映画は、2000年代になって極端に見かけなくなりました。子どものときに観ておもしろかったなと思ったものを少し取り戻したかったんです。」と芦塚氏。

音楽は、スクリーモ(激情)系のロックバンドa crowd of rebellion(ア・クラウド・オブ・リベリオン)が担当。音響スタッフも音楽の魅力を最大限に引き出すべく、音作りにこだわり抜いた。その結果、ライブのような臨場感がある音響が実現した。また最強のCG・VFXチームを擁する白組が担当した二十面相の心象映像も相まって、没入感を強く誘発する。

「ものすごく音圧を感じる曲です。テレビのスピーカーでは再現できない音作りをしているので、ぜひ映画館で観てほしい。怪人二十面相とのシーンに観客が没入できるように作り込んでいます。」とは芦塚氏。

「上映方法にもこだわりたい。応援上映は、観客が勝手に始めた部分とそれを意図的に誘導するプロデュース側の共犯関係で盛り上がっていった、幸せな例だと思うんですよね。作り手と観客の共犯関係はヒットの重要な要素です。観客が盛り上がれる体験としての上映スタイルを提案していきたいですね。」とは原田氏。

映像コンテンツを単に楽しむだけならスマホ画面でも構わないのかもしれない。配信全盛の現代、むしろその方がメジャーになってきた感もある。しかし、その一方で応援上映や爆音上映というスタイルが生まれてきたように、観客は作品との一体感や一緒に盛り上がるライブ感覚を求めてもいる。しかし、そういう熱量を持った作品がまだまだ足りないのではないか。『超・少年探偵団NEO』は、幅広い世代が自由に入って盛り上がることのできる作品として作られている。

「そもそも江戸川乱歩の少年探偵団の一作目から小林少年が大仏に変装して隠れたり、女装が得意だったり、それに気づかない怪人二十面相っていう荒唐無稽さがあります。」と芦塚氏。本作品にも突っ込みどころは満載だ。
そうした「破綻」も含めて、たくさんのネタを発信していくことで、いろいろな入り口と楽しみ方を提案したい。

「さらに、スピンオフのドラマシリーズや他の世代のストーリーに広げていきたい。実写、アニメ、2.5次元、コミックでもなんでもできるし、やるつもりでいます。どの順番でどの切り口から始めていこうか、準備をしているところです。」と原田氏は展望を語る。

「すでにパート2、3の構想はあります。さらに五代目の話も考えています。」というのは監督の芦塚氏。四代目の小林芳狼と明智小夜が結婚して、二人の間に子どもが生まれて離婚もする。そして舞台は上海へ。目が離せない展開が暗示されている。

「意見する人が多いほど、作品の角が取れて丸くなってしまいます。この作品は少人数のプロフェッショナルな集団がやることによって、角を残したおもしろい作品になっていると自負しています。」と芦塚氏。どんな作品に仕上がっているのか楽しみだ。公開は2019年初夏を予定している。