ストーリー

一流ブランドからも信頼される販路管理を誠実に行い創業から13年で国内最大手に成長。次のステージはASEAN諸国へのボランティア支援

「アパレル製品の在庫処分は社会貢献といえる事業だと確信し、志を持って突き進んできました。」と語るのは、株式会社shoichi代表取締役CEO、山本昌一(やまもとしょういち)氏だ。大学在学中に起業し、独自のノウハウによってアパレル業界に欠かせない存在となった今、「これからは服で恩返しをしたい」と、在庫処分事業をASEAN諸国へのボランティア活動に結び付けたCSR活動を展開している。

アパレル流通の一角に絶対に必要な役割

「洋服は好きですよ。ショップスタッフに選んでもらい、いろいろなアドバイスをもらうこと自体が好きですね。私は、洋服はきちんと定価で買うことにしています。この服が商品になるまでに多くの人々が働いてきたことを知っているし、服に対して愛情がありますから。」

こう語る山本氏は、多くのアパレル企業の在庫処分を引き受ける株式会社shoichiのCEOだ。shoichiが買い取るのは有名ブランドの余剰在庫だけでなく、下請けである中小の縫製メーカーが抱えるB品や、検品に合格せず買い取りを断られた在庫品なども含む。山本氏のモットーは、これらの在庫品を必ず現金で買い取ること、そして独自の販売チャネルで販路管理をしながら売り切ることだ。「ブランドやメーカーは余剰在庫を抱えているだけで倉庫代がかかるし、焼却などの処分をするにも費用と手間がかかる。だから、どんなに大量であっても当社は即金で買い取りをしています。」

では、“販路管理”とは、なんだろうか。
「かつては多くの在庫処分業者が存在しましたが、こうした業者が引き取った新古品がさまざまな流通ルートに乗ってしまい、思わぬ場所で安価で販売される例が多かった。こうなると正規店舗の売上に影響があるだけでなく、ブランド価値の毀損にもつながってしまいます。」
こうした事態を防いで、厳しい“ブランド管理”を徹底するためには、やはり焼却処分もやむを得ない、という考えに至るケースがあることは理解できる。しかしshoichiが創業当初から行ってきたのは正しい販路管理、すなわち、タグをはずして自社サイトで販売をすることだ。
「ブランド管理に協力し、焼却も防ぎ、必ず売り切る。それを実現するためには、誰かが余剰在庫を買い尽くすしかない。それをウチがやりますよ、ということですね。」

山本氏は最近、ある有名ファストファッションブランドから30万点の新古品の買い取りを頼まれたという。それらはわずか2日間で検品を行い、即金で買い取った。これができる在庫処分業者は、今の日本にはshoichiしかないという。量に対応し、即金で応え、販路管理を誠実に行ってきた結果、口コミで業界内に噂が広がって、次第に一流ブランドからも買い取りを頼まれるようになったのだ。
「何のノウハウもないところから事業を始めましたが、アパレル流通の一角には当社のような役割が絶対に必要だという信念を持って取り組んできました。その結果が、こうした信頼を得ることにつながったと思っています。」

廃棄在庫に海外での新しい販路と未来を

そんな山本氏が発案し、取り組んでいるプロジェクトがある。それはカンボジアなどのASEAN諸国へ、衣服の余剰在庫を提供、あるいは販売することを通じてさまざまなボランティア活動を支援するCSR活動『TASUKEAI 0 PROJECT(助け合い ゼロ プロジェクト)』だ。

そもそもの始まりは、「余剰在庫を廃棄するくらいなら、寄付した方がいいのでは?」という発想だった。しかし、カンボジアの産業構造の現実、ボランティア活動の実際などを知っていくうちに、「販売を行うことで利益を出しながら送料などのコストを相殺し、最終的には現地の人々の自立を支援する活動を行う」という方向性を見出すに至った。現在では、この理念に賛同するさまざまな企業や団体とのコラボレーションが生まれている。買い取り金額の一部はNPOを通じて、孤児院の運営、女性の就労支援、子ども達への食糧支援、HIV撲滅プロジェクト、日本語学校プロジェクトなどに活用されている。

山本氏は、ASEAN諸国を中心とした海外への販路拡大も『TASUKEAI 0 PROJECT』の活動の一環として行っている。現在、カンボジアでは直営2店舗を運営しているほか、小売店卸も開始。小売店卸においては、販路を明確にするために小売店側に「TASUKEAI SHOP」の販促ツールの使用を義務付け、CSR活動との紐付けを行っている。タイでは、日本商品のテストマーケティングモール「JapanVillage」内で『TASUKEAI 0 PROJECT』商品を期間限定で展開。ベトナムでも、日本のアパレル商品を扱うショップ内で『TASUKEAI 0 PROJECT』商品の取り扱いを行っている。

『TASUKEAI 0 PROJECT』に協力するアパレルブランド各社は、各国での販売にあたってタグカットなどの販売条件を指定するだけでなく、販売国の選択もできる。売上の一部はNPOを通じて各種活動の支援に使われるが、その内容について報告を受けることができるのだ。

衣服を必要とする人々へ、助け合いの輪を通じてしっかりと届ける。廃棄在庫に海外での新しい販路と未来を用意して再び輝かせ、余剰在庫の廃棄ゼロを実現する。それが、『TASUKEAI 0 PROJECT』のコンセプトだ。

廃棄ゼロが子ども達の未来を創る

山本氏が初めてボランティア活動を経験したのは、自身の拠点である大阪市内の孤児院だった。「当時、自分を変えるきっかけを探してあらゆることにトライしましたが、何をやってもスイッチが入らない。そこでボランティアでもしてみようかと、孤児院を訪ねました。その頃は、ボランティアをする人って不思議だなと思っていたんですよ、何が目的なのかなって。」

当時、すでにマスコミに取り上げられ、存在を知られていた山本氏を受け入れてくれる孤児院はすぐに見つかった。「月1回、半日ほど一緒に遊んで、寄付をして、帰る。それだけですが、2年半続いた。自分は本質的にボランティアが好きなんだなと思いました。しかし、施設の運営にはお金がかかるという現実もわかった。そこで、自分の在庫処分事業を結び付けて、施設が利益を得ていく形を作れないかと考えました。この時は製菓メーカーが協力をしてくれて、施設への特別価格での商品供給が実現しました。」

その後カンボジアに行く機会があり、現地でボランティア活動をする多くの日本人に出会った。内戦を経たカンボジアでは産業構造が根本から瓦解している現状があり、さまざまな問題が山積していた。仕事がなくゴミ山で働く人々、ウイルスに感染する子ども達、教育を受けられない孤児たち……。

「たくさんの日本人に話を聞きましたが、みんな最初は、ちょっといいことをしたい、という気持ちでボランティアを始めていた。しかし教育や物資を与えるだけの一方的な支援をしているうちに、次第に問題の本質に気付き始めるんです。支援だけではダメだ、最終的にはこの人たちが自立できるように仕事の仕方を教え、収入を得る方法を学べる環境を作らなければ、と。」

個人やNPOのこうした活動に強く共感した山本氏は、shoichiの事業との連携を模索し始める。ところがアパレル業界のある人に「余剰在庫をカンボジアに送ってはどうか」と提案したところ、「わかってはいるが、カンボジアへの送料は70万円。焼却費用は30万円で済む」と返答された。そこで山本氏は、現地で販売をすることで利益を出し、送料などのコストをカバーする方法を考えた。さらに、ショップの運営や小売卸のチャネルを開設することによって、現地の人々に雇用の場を提供することも可能に。山本氏は、最終的には現地の人々が日本語を学び、将来は日本とカンボジアがビジネスで相互に協力できるようになることが理想形だと考えている。

「現地で学校を運営している日本のボランティア団体はたくさんあります。しかしカンボジア式の教育を行うだけなので、グローバルな思考は育たない。私は、せっかく日本人が運営する学校なのだから日本語も教えることが大事だと思います。そうすることで彼らの視野は広がるし、将来は日本で教育を受け、就業のチャンスも得られるでしょう。それは将来的に、カンボジアの産業を立て直すことにつながっていくはずです。」

「廃棄ゼロが子ども達の未来を創る」。これが、『TASUKEAI 0 PROJECT』のスローガンだ。

商品を捨てず、燃やさず、必要な人へ

山本氏が在庫処分事業を始めたきっかけは、学生時代に小遣い稼ぎで始めたネットオークションだった。最初は自分の古着を売っていたが、手応えを得て以降はフリーマーケットで仕入れをするようになり、企業の余剰在庫を仕入れる方法を知った。

「こんなルートがあったのか!と天啓のように感じ、一生この仕事をしよう、と思いました。私は、ブランドが大量生産をして余剰在庫を抱え、最終的に廃棄してしまうことは致し方ないことだと思います。縫製スタッフは数をこなすほど熟練度が上がってミスが減り、製造時間がどんどん短縮される。だから結果的に大量生産をすることでコストが下がる。消費者が良い製品を安く入手できるのはそのおかげです。」

昨今の報道によって、多くのアパレルブランドが廃棄処分を行ってきたことが一般消費者にも知られるようになった。マスコミではこれを問題として論じるケースが多い。「しかし、ブランド価値を保つために大量生産体制が必要だという側面があることは確かなのです。ならば、ブランド側はそれを続ければいいし、消費者はその恩恵として多様なファッションを楽しめばいい。その結果として余剰在庫が発生したなら、そこには当社の存在が意味をなすわけです。当社はさまざまなチャネルを通じ、ブランド価値を毀損することなく販路管理をしながら、必ず売り切ります。製品の価値を最後まで最大限に生かします。」

商品を捨てず、燃やさず、必要な人へ。在庫を処分したメーカーも製品を手に入れた人も、その流通に携わった人々も、必ずメリットを得られるのがこのモデルなのだ。

「目指すは廃棄ゼロ。在庫処分は社会貢献といえる事業だと確信し、志を持って突き進んできました。」と語る山本氏。大学在学中に起業してから13年、今や業界最大手といえる規模に成長した。

「これまでは服で食べさせてもらったので、これからは服で恩返しをしていきたい。今はそんな気持ちで、『TASUKEAI 0 PROJECT』の新しい活動に取り組んでいます。」