ストーリー

カジュアルさと遊びゴコロ、作業着としての機能も盛り込んだ、高機能スーツ専業ブランドを目指す

スーツに見える作業着「ワークウェアスーツ」が大ヒットしている。製造・販売するオアシスライフスタイルグループの創業事業は水道工事。若手の採用促進のため作業着をリニューアルした社内施策がアパレル事業の発端だ。そのスーツに企業・個人から引き合いが殺到した。2018年11月からは、新ライン「YZO(ワイゾー)」を投入し、高機能スーツ専業ブランドとしてのポジションを狙う。その開発秘話と戦略を、グループ代表の関谷 有三(せきや ゆうぞう)氏とオアシススタイルウェア代表・中村 有沙(なかむら ありさ)氏に聞いた。

若手採用の課題から、ヒット商品が誕生

スーツに見えるがあくまでも作業着。だからこそ、機能性を重視した。毎日、丸洗いができて、たった3時間の部屋干しで乾く。形状記憶でアイロンは不要。撥水加工で水濡れにも強く、ストレッチが効いて動きやすい。小道具を収納するためにスーツの上下合わせて12のポケットがある。胸ポケットにはデジカメやスマホが落ちないようにジッパーが付いている。

「ワークウェアスーツ」を製造・販売するのは、水道工事からスタートしたオアシスライフスタイルグループ。代表取締役の関谷氏が、大学卒業後、実家である栃木県の、社員4人の水道工事店の手伝いからはじめ、28歳でマンション向けの給水管洗浄とメンテナンス事業を起業した。現在は、200社以上のマンション管理会社と提携し、全国展開へと飛躍。国内市場シェアは6割を超えるトップ企業だ。そう、スーツに見える作業着「ワークウェアスーツ」には、水道工事現場のノウハウが反映されているのだ。とはいえ、アパレルとはまったくの異業種からの参入だ。

「オアシスライフスタイルグループ全体のビジョンは、衣食住を中心に世の中のライフスタイルに新しい価値を提供することです。水環境ソリューション事業、タピオカミルクティー発祥で知られる『春水堂(チュンスイタン)』を運営するカフェ事業に続く、第3の事業がアパレルです。衣食住の分野で3本柱となる事業が確立すれば、どんなに時代の変化が起きても、100年以上続く企業になれると思っていました」(関谷氏)

機は熟した。2018年3月に発売をスタートさせた「ワークウェアスーツ」のヒットを受け、市場に潜在するニーズに応えていくために、アパレル事業を担う子会社・オアシススタイルウェアが設立された。ここからは、その代表取締役を務める中村氏に話を聞こう。

「『ワークウェアスーツ』誕生の背景には、人材採用の課題がありました。水環境ソリューション事業は、建設業界に入ります。業界全体で働く人の平均年齢が55歳といわれ、私たちも若手の採用に苦戦していました。何かいい方法はないかと考え、他社との差別化をはかるためにユニフォーム(作業着)をリニューアルしようという話が持ち上がったのは、今から2年前のことでした」と話す中村氏は、当時の人材採用担当者だ。

スーツに見える作業着のアイデアに行きつくまでには、実に半年以上の時間を要した。若者が着たいのはどんな服か。現場の若手社員を含むプロジェクトが立ち上がり、外部のデザイナーからもアドバイスを受けて検討するも、なかなかいい考えは浮かばなかった。ストリート系のつなぎという案も出たが、どうもピンとこない。

きっかけは、現場社員の一言だった。
「営業は仕事着のまま遊びに行けていいな」
実際、現場の社員が仕事帰りに遊びに行くときは、着替えを持って出勤していたという。

「仕事が終わったあとにそのままデートに行ける服を考えたとき、私が一緒に行く立場なら、相手がジャケットを着ていたらちょっといいお店にも出かけられていいなと思いました」(中村氏)

こうしてスーツを作ることになったわけだが、そこからは、機能性をどう高めるかを追求してきた。そこで、次のハードルとなったのが素材の選定だ。洗濯機で毎日丸洗いできて、速乾性があり、シワにならない素材を見つけることは想像以上に大変だった。作業着としてのストレッチ性、スーツとしての形状記憶を兼ね備え、現場で水がかかってもいいように撥水・防水加工も必須だ。日本全国からいろいろな素材を取り寄せて、ようやく条件に合った素材を製造している国内の生地メーカーを探し出した。

「スーツ用の生地という考え方を転換することが必要でした。最終的にスポーツウェアに使われている生地を使用して、スーツの機能性を高めるアプローチで試作を進めました」(中村氏)

試作は現場の作業員が実際に着用して問題点をフィードバック。中村氏も現場で作業を観察して改良点を洗い出した。何度も試作を重ねて、ついに現場の若手社員が着たくなるスーツに見える作業着が完成したのは、ユニフォームのリニューアルを検討し始めてから1年半後のことだった。しかし、あくまでも社内向けのプロジェクト。対外的に販売することなど全く考えていなかった。

法人・個人のニーズを捉えた、スーツ型作業着

スーツに見える作業着の運用を社内で開始すると、思いがけない反響があった。非常に軽くて着心地がいいからと営業職もそれを着用するようになり、取引先からもユニフォームとして採用したいと引き合いが相次いだのだ。そこで、企業の人材不足解消に貢献しようと、オアシスライフスタイルグループは「ワークウェアスーツ」を商品化・事業化することを決定した。

「ワークウェアスーツ」を商品化しようにも、同社にはそのノウハウがない。アパレルメーカーに相談すると、口をそろえて「そんなものが売れるわけがない」という言葉が返ってきた。それでも諦めず、社内で手探りの開発を続けてきた。

「ワークウェアスーツ」は、今では高級レジデンスの管理会社、ファッション商業施設、ゴミ回収など、さまざまな業種でユニフォームとして採用されている。また、同社が水道工事のイメージを変えようとしたように、農業のイメージを変えようと山形県でスーツを着て米作りをしている齋藤聖人氏ともタイアップして、「ワークウェアスーツ」を農業現場でも活用してもらっている。実際に採用したどの企業でもイメージや注目度アップに繋がり、オアシスライフスタイルグループでは採用の応募が3倍に増えた。

そして、また思いがけない反響が。法人向けに販売したところ、個人からの問い合わせも多かったため、ECサイトで販売を開始した。すると、発売後1ヶ月で目標の5倍の売り上げを達成。ファッション系eコマースサイトのロコンドでは全17万のアイテムの中で月間売上1位を獲得する大ヒット商品となった。その人気を受けて次には女性用の「ワークウェアスーツ」が投入された。現在の売上は法人と個人がおよそ半々だ。スーツに見える作業着「ワークウェアスーツ」は、ビジネス情報番組や経済雑誌などのメディアでもたびたび取り上げられ、イギリスをはじめ海外12ヶ国でもニュース配信され、グローバルに話題を呼んでいる。

「IT企業や広告制作会社などで、普段はTシャツとジーンズで仕事をしているけれどお客さまと会うときはスーツやジャケットを着用しなければならない場面もありますよね。イベント運営会社からは、会場設営は作業着で行い、開演したらスーツに着替える必要がなくなったという声も聞かれます。それから、カメラマンや照明さんなどは、しゃがんだり膝をついて仕事をしたりすることが多く、『ワークウェアスーツ』の取材後に個人的に商品を買われるかたが多くいます」(中村氏)

中村氏の話に思わず納得。仕事柄、スーツを着なければならないが堅苦しいのは苦手。私服で働いているけれども商談などでスーツを着る場面も多いという人に、「ワークウェアスーツ」はまさにコロンブスの卵のように、今までありそうでなかった、ジャストフィットする服だったのだ。

新ラインを立ち上げ、機能性スーツ専業メーカーのポジション確立へ

2018年11月、オアシススタイルウェアは、「ワークウェアスーツ」に続く新ラインとして「YZO(ワイゾー)」を発売する。コンセプトは「ヒゲとスニーカーに合うスーツ」。「ワークウェアスーツ」の機能性はそのままに、ヒゲに合うファッション性、スニーカーに合うカジュアルさが特徴の新感覚のビジネススーツだ。オフィスワークはもちろん、自転車通勤から、外回り、品出し作業、終業後のデートや休日の私服としても使える万能なアイテムだ。

「YZO」の商品サンプルをいくつか見せてもらったが、どれも遊び心があって、スーツの堅苦しいイメージはない。たとえば、ポケットにオレンジ色の隠しジッパーのあるスーツの裏地には、同じオレンジ色のパイピングが施されている。裏地がメッシュの迷彩柄というデザインもある。マチ付きのカバンの発想で、サイドのジッパーを開くとストリート系のワイドパンツになるものも。

「新感覚のビジネススーツ『YZO』の認知をいかに広げていくかが、今後の課題です。カッコイイだけでなく、ぜひ着心地のよさや便利さをいろいろなかたに知っていただきたいです」(中村氏)

商品はまず自社ECサイトで販売。セレクトショップでの展開も目指している。PR活動として立ち上げイベントを開催し、Facebookで広告を打っていく予定だ。

「スマートカジュアルが浸透して、ビジネスリュックも定着しています。出勤の際にスニーカーを履き、自転車通勤する人も増えています。しかし、そこに特化してベストマッチするスーツは今までほとんどありませんでした」と中村氏は事業計画の核心に迫る。

紳士服市場は年々縮小している。スーツ販売の主戦場はスーツ量販店からカジュアルブランドやセレクトショップへ移行している。一方で、アウトドア/スポーツメーカーの機能性セットアップ(スーツ)の人気が高まっている。しかし、これらのショップでもスーツはスタンダードなデザインが多く、バリエーションは少ない。そこで、オアシススタイルウェアは、次の戦略を打ち立てた。

――機能性をいちばんの強みに、豊富な価格帯とデザインラインアップを取りそろえ、高機能スーツ専業ブランドとしてのポジションを早期に確立させる――

「ワークウェアスーツ」をスタンダードに位置付け、新ラインの「YZO」は、機能性を保持しながら、カジュアルさと遊び心をつけ加えた大人の仕事着として展開していく。今後、モード系の新ブランドを立ち上げる計画もある。「ワークウェアスーツ」は、法人がメインだったが、「YZO」は個人をメインターゲットに、コーディネートできるTシャツやコートなどもラインアップする。価格帯は5万円前後となる予定だ。

「アパレル会社ではなくて異業種から参入したベンチャーだからこそ、スーツに対して自由な発想ができたと思います」と中村氏。「私たちがやりたいことは、働く人の意識を変えることです。働いている時間は1日の中でも長いですよね。だからこそ、働くことを遊びのようにより楽しくなるという価値を、衣服を通じて作っていきたいと思っているんです」

グループ代表取締役の関谷氏にアパレル事業の展望を語ってもらって締めくくろう。

「僕らは『世界一やりたいことができる会社』をグループの経営ビジョンとして掲げています。今では大成功しているカフェ事業もはじめはゼロからでした。アパレルもやったことがありません。まったく何もないところから事業を立ち上げるなんて、そりゃ困難の連続です。でも、困難だからこそ面白いし、やる意味がある。僕らの挑戦は波乱万丈で、まさに小説やドラマのような毎日ですが、結末は必ずハッピーエンドで終わると決まっています(笑)」

水環境ソリューション事業、カフェ事業を軌道に乗せ、その経営を優秀な後進に任せてアパレル事業に挑む――関谷氏はヒゲとスニーカーが似合う経営者。既成概念を取っ払ってしまう「YZO」世代だ。