ストーリー
2018年10月より、TOKYO MX、BS11ほかにて放送および配信される新作オリジナルアニメ『ひもてはうす』。この作品を制作する株式会社バウンスィは、アニメをはじめ声優が出演する動画配信番組などを手がけるクリエイティブカンパニー。制作費調達のために『ひもてはうす』製作委員会の設立に加え、一般の方々からもクラウドファンディングを通じた調達を計画。その真意を代表取締役の江口 文治郎(えぐち ぶんじろう)氏、取締役であり企画・演出・脚本を担当する石ダテコー太郎氏にうかがった。
あえて投資型クラウドファンディングに取り組む理由
「アニメ制作における資金調達方法としては製作委員会方式が一般的です。最近では海外向けの動画配信サービスが制作資金を用意する形も増えてきています。また、制作側がプレゼント型のクラウドファンディングを利用するケースも多く見受けられますが、おそらく投資型のクラウドファンディングに挑戦している会社はまだないと思うんです。それもまた、新しいことに挑戦するのが得意な僕ららしいなと思いますし、応援しようと投資してくれた方へ、作品がヒットしたならお金でリターンするというのは、すごくシンプルで良い仕組みだと思うんです。僕は、今回の作品『ひもてはうす』がヒットする自信を持っているので、応援してくれる方々に迷惑をおかけすることもないだろうと(笑)。それもあって投資型のクラウドファンディングに取り組んでみようと決めました」
と語るのは代表取締役の江口氏。キャラクタービジネスを手掛ける株式会社ディー・エル・イー在職時には『秘密結社 鷹の爪』の事業責任者として辣腕を振るったプロデューサーでもある。
江口氏がプロデューサーとしてビジネス面を担当する一方、クリエイティブ面を担うのがビジネスパートナーである石ダテ氏である。アニメーション監督も務める石ダテ氏は、モーションキャプチャーを駆使し、3DCGアニメキャラクターをリアルタイム(生放送)で動かすという手法の先駆者であり、声優のアドリブを積極的に取り入れる斬新な演出方法が高い評価を得ている。
「プレゼント型のクラウドファンディングって、それはそれで素敵なシステムだとは思うんです。ただ、作品を見てくれるお客さんの中に序列を作ってしまうような気がしていて…。エンドロールに名前が入ったり、何かしらの返礼品がもらえたりして楽しそうだったりすると、そこに参加していないファンの人たちは蚊帳の外のような感覚になると思うんですね。それはエンターテインメントとしてどうなのだろうか、という思いがあって二の足を踏んでいたんです。でも、投資型のクラウドファンディングなら、ファンの間に熱量の格差みたいなものをつくりませんし、疎外感を与えることもないのではないかと。それが可能になるならば良い方法だと思って、チャレンジすることにしたんです」
クリエイティブとビジネスセンスの両輪が「挑戦」への原動力
東京・中野にあるシェアハウス、通称「ひもてはうす」で共同生活を送る3姉妹と末っ子の同級生2人、そして言葉を話す猫。そんな個性豊かなメンバーが「どうしたらモテるようになるのか?」と日々悩みつつ過ごす、ちょっと生々しいイマドキ女子たちの共同生活コメディ。ただし、この5人と1匹は不思議なチカラを持っていて…というのが、アニメ『ひもてはうす』の概要。
※ 制作中のイメージです
「イマドキの等身大の女子像みたいなものをアニメ作品として描くわけですが、この作品がアニメじゃなきゃいけない理由が何かなければいけない。そこで、オーソドックスな手法ではありますが、ファンタジー要素としてキャラクターたちが不思議なチカラを持っている設定にしてあります。ただし、実生活の中では全然生かせない、むしろ女性としての幸せをつかむには邪魔にすらなっているかもしれない、という設定。こういう形にしておけば、最近のアニメに詳しくない人や海外の人でも親しみが湧くようなショートアニメになるのかなと」
と語る石ダテ氏。これまで特定のファン層をターゲットにした作品を多く作ってきたが、『ひもてはうす』では、より幅広い層に楽しんでもらうことをテーマにしているという。そのため、キャラクターデザインやアートディレクションも今まで以上のクオリティを目指しているとか。
また、アニメ作品の制作だけに留まらないのが、株式会社バウンスィの真骨頂。アニメ放送に先駆けて、WEBラジオ@文化放送「超!A&G+」にて、プレスコ音源(動画に先行してセリフや音楽を収録したもの)を公開する『洲崎綾の「ひもてはうす」ぐいぐいプレゼンラジオ』が放送中。その仕掛けも同社が自ら行っている。
「アニメだけではなく、宣伝活動やファンを盛り上げるためのラジオ番組やイベントなど、周辺コンテンツも全部自分たちで作ることによって、お客さんに深い満足度を与えられるところが他のアニメ制作会社とは違う、うちの特徴であり強みだと思っています」
加えて、先のラジオ番組は今回のクラウドファンディングにあたり、事前に作品内容を知る術、判断材料にもなると石ダテ氏は語る。
上述したとおり、『ひもてはうす』は投資型クラウドファンディングだけでなく、製作委員会も設立される。
その理由を江口氏は次のように語る。
「当社が製作委員会を立ち上げるのは2回目なのですが、一番の目的はやはり、資金調達です。原作のある作品とは違ってオリジナルアニメは、すごく資金集めが難しい。何しろ紙切れ一枚で営業することになるので(笑)。ただ、石ダテの過去作品がしっかり実績を挙げているので、そこを評価していただけましたし、僕自身、以前の会社で何度も製作委員会方式を実施しているので、お付き合いのある企業さんが多く、結果、ありがたいことに皆さんから製作委員会への出資を得ることができました。また、餅屋は餅屋じゃないですけれど、製作委員会方式の利点は、協業パートナーさんたちが、例えばブルーレイやDVDの販売、グッズの販売など各々が担当する役割を担ってくれることです。本来製作委員会はコンテンツを大きくしていくためのグループ組織のようなものなんです」
投資型クラウドファンディングから得られる個人投資家の直接的な応援によるファン層の拡大と、製作委員会で得られる協業パートナーのビジネス展開の相乗効果を狙ったビジネス戦略はさすがであると言わざるをえない。
作品のクオリティの担保は石ダテ氏が担い、ビジネス面での仕掛けを江口氏が担う。この「両輪」が機能する株式会社バウンスィには、新たなことにぐいぐいと挑戦しつつも結果を残していける力がある。
世界で愛される日本のアニメを守り続けるために必要なコト
アニメーションではなく「アニメ」が世界の共通語となっているように、海外では日本発の文化としてアニメが認識されている。その一方、アニメーターなど実制作に携わるスタッフの労働環境や賃金へのマイナスイメージから“アニメ業界はブラック業界”などと言われることもある。さらには、これまで日本の仕事を請けていた海外のアニメ制作会社が力を付けて来ているだけではなく、中国では国産アニメが増えて来ていることもあり、制作の第一線が徐々に中国に移行し始めている現実もある。その現状に石ダテ氏は危機感を抱いているという。
「このまま行くとアニメはもう日本のものではなくなってしまうような気がするんですよ。でも、日本製のアニメはまだまだ素敵な部分があると思いますし、将来のグローバルなアニメ産業の中においても日本はアニメ母国といいますか、文化的な立ち位置を持ち続けていてほしい願いもある。だからこそ、みんなで日本のアニメを応援して、守れるシステムを何かしら構築していかなければいけないと思うんです。マネーゲームとしてではなくアニメを応援する気持ちで制作現場に直接投資ができる仕組みとして、この投資型のクラウドファンディングが、その可能性の一つになってほしいですね」
また、江口氏は今回のクラウドファンディングを、ある種の試金石と考えているという。
「僕らのオリジナルアニメ『ひもてはうす』に資金が集まり、ちゃんと収益上の成果が出せたなら、他のアニメ制作会社さんにも新たな資金調達方法として投資型のクラウドファンディングが広がって行く可能性があるなと感じています。それだけに、重要な取り組みになるのではないかと。絶対に成功させなければいけないという責任感もありますね」
良い作品を作ったからといってビジネス的な成功が得られる時代ではない。ヒット作品を生み出すには、さまざまな仕掛けも重要となる。その点、『ひもてはうす』という作品は、事前の告知的なラジオ番組をはじめ、作品の世界観を生かし広める仕掛けがいくつも用意されている。だが、その仕掛けづくりが可能なのは株式会社バウンスィがアニメ制作会社ではなく、“アニメ制作も行う”クリエイティブカンパニーであるからに他ならない。