ストーリー

今ある家電を、そのまますべてスマート化。『eRemote pro 』が架け橋である理由

外出先から自宅の家電を操作できる。IoT事業定番のビジネスモデルだ。しかしリンクジャパンの『eRemote pro』は、性能とフィロソフィー、そして優位性でそれらとは一線を画すという。代表の河千泰 進一(かちやす しんいち)氏に話を聞いた。

20年前のエアコンもスマホで動かせる

「私たちの目指す役割は、架け橋になること。それに尽きるんですよ」
リンクジャパン代表の河千泰氏は、そう言いながら、白い箱をこちらに指し示した。
『eRemote pro』。 IoTデバイス専門のファブレスメーカーである同社が今春プロトタイプを完成させた、まったく新しいプロダクトである。

仕組みはこうだ。
自宅にあるエアコンのACアダプターとコンセントの間に『eRemote pro』を直差しで接続。すると赤外線を発信できるようになるため、自宅にあるテレビや照明、ステレオといったあらゆる赤外線リモコン付き家電を、一括して操作できるようになる。

実際のリモコン操作はユーザーがスマホにダウンロードしたアプリで行う。アプリからはクラウドを経由して自宅のWi-Fiに接続。これだけで『eRemote pro』の赤外線をコントロールできるようになる。仕事場や旅行先からでも、エアコンのオン/オフや温度設定の変更、照明のオン/オフや照明の明暗設定の変更など、ほとんどの家電がコントロールできるようになる、というわけだ。

モノをインターネットに接続して利便性を高めるIoTの動きは、すでに家電業界で活発だ。もっとも、そのためには必ずエアコンやテレビなどの家電本体にセンサーなどを搭載させる必要があった。しかし、赤外線センサーをコントロールする『eRemote pro』は、それを必要としない。今それぞれの自宅にあるエアコンやテレビ、仮にそれが20年前に買ったものだろうとスマホで制御。スマートデバイス化してしまうからだ。

「こうして家中の家電を一つにつなげることが、まず“ 架け橋“になるということ。ユーザーの方々の生活がより豊かに、便利になるお手伝いができます。もっとも、『eRemote pro』には、本邦初の画期的な機能がついています。それこそが既存製品と違う大きなポイントなんです。」(河千泰氏・以下同)
その名を「アンサーバック」機能という。

足踏みするIoT の弱点を、新機能で消す

実は、同品と同じような機能を持つ既存のスマートリモコンは「実際に家電の操作が実行されているか否か」の確認が不可能だった。
スマホで赤外線リモコンの操作まではできたが、その先にあるエアコンやテレビにはセンサーなどはない。果たして、スマートリモコンの操作は一方通行となり、操作どおりに機能したか否かは確認できなかった。たとえば「ちゃんと冷房のスイッチが入ったか」「設定した26℃できっちり稼働しているか」を確かめる術がなかったのである。

「ユーザーの方々にとっては使い勝手が悪く、少し不安もありますよね。実際、こうした稼働確認の機能がないため、本来、もっともスマートリモコンが活躍するであろう福祉サービスや介護施設などが、導入に二の足を踏んでいた、という現実もあったんです。」

何とか解決する術はないか――。
そんなとき河千泰氏が出会ったのが「電流センサー」の技術だった。
これは電流の流れる量を測ることで、そこに繋いだ家電がどんな機能を働かせているかを測るセンサーのこと。電力会社が各家庭に設置している電力メーターのような仕組みを、この小さなデバイスに取り入れた。そこで測った電流の消費量と、エアコンの稼動状態のデータをひもづける。こうしてデータを蓄積、分析することで「エアコンが今稼働しているかどうか」「弱か強か、どれくらいの性能を発揮しているか」がリアルタイムでスマホにフィードバックされる。これがアンサーバック機能であり、日本で初めて搭載させることに成功したのである。

「だから本品はコンセントに直挿しして使用します。ここから電流を直接、センシングして、そのデータをフィードバックさせている、というわけです。交流の強い電力をダイレクトに利用することになり、発火リスクを抑えるために難燃性の高い素材を開発するなど苦労はありましたが、結果として安全性も極めて高い製品を作ることができました」
こうして『eRemote pro』は、これまでスマートリモコンの導入に二の足を踏んできた、福祉サービス、介護施設などにまでリーチできるポテンシャルを手に入れた。

もちろん利便性と共に安全・安心を手に入れた同品は、「帰宅前に部屋を涼しくしておきたい」「寝たきりとなっている家族の見守りとケアに活用したい」「日中、部屋で過ごすペットのために使いたい」といった従来の個人ユーザーのニーズも多いに満たすことになるはずだ。

「今こうした家庭用のIoTはAmazon Echoをはじめ『スマートスピーカー』に注目が集まっています。一つのデバイスで家電などをすべて動かす……という発想は同じですが、あれもやはり家電に ネットワーク機能がついていなければ利用できない。今ある家電がそのまま使える『eRemote pro』の気軽さは圧倒的だし、すべての世代を網羅できるスマートデバイスだと自負しています。Amazon Echoとの連携も進めているので、完成すれば、eRemote経由で家電を声で制御できるようになります。」

先行して 3年前から、電流センサーなしのシンプルなスマートリモコン『eRemote』などを製造販売。リンクジャパンは、すでに15,000台以上販売している実績を持つが、今回の『pro』に関しては、100万台の普及を一つの目標数値としている。

目標値が高すぎるかもしれないが、スマホでワンタッチで外からでもあらゆる家電が操作できる。その利便性は一度体験すると、離れられなくなるほどだという。すでに『eRemote mini』の販売で先行し、ユーザーからの支持を実感している同社は勝算はあると見込んでいる 。
また加入者や居住者へのサービスとしてすでに販売チャネルとして名乗りをあげているインターネットプロバイダや、不動産デベロッパーもいるという。
桁違いの普及予測の実現可能性は思いの外、高いのかもしれない。

中国と日本の架け橋としての実績

ところで、ユニークなデバイスを作り上げた河千泰氏だが、そのプロフィールも実にユニークだ。

1979年に中国で生まれ、16歳で日本に移住した。20歳でプログラミングを独学で学び、並行して通訳の国家資格を習得。最初は日中の政府会談や企業の商談の通訳としてキャリアをスタートさせた。その後、Eコマース事業などを手がけて、2013年に運命的な出会いから、IoTのファブレスメーカーとして起業するにいたる。

「運命的な出会いというのが今の『eRemote』シリーズのもとになったスマートリモコンとの出会いですね。オーストラリアで博士号をとったCEOが開発した中国製品で、先述した既存の家電品を網羅的に、赤外線というレガシーな技術で繋ぐというもの。それを展示会で発表していたのです。実は最初は私個人が『これ、ほしいな!』と思ったことがスタート。ただ冷静に考えてみたら『自分がほしいということは、他の皆もほしいのでは』と考えました。」
自分を含め、日本にはスマートリモコンのニーズがこれから高まるはず……。それももちろんチャンスを見出した理由だったが、河千泰氏にはもう一つ、大きな思いがあった。

「日本の家電メーカーの技術はやはりすばらしく世界に誇れるものがある。しかし、どうしてもプロダクトアウトで、単品主義が強い。『素晴らしく機能的なエアコン』や『画質と操作性にこだわったテレビ』など、それぞれの商品カテゴリーで品質を研ぎすませている一方で、それらの優れた製品を“繋ぐ”という意識がやはり薄い気がしました。それこそエアコン、テレビ、照明と、それぞれにネットワーク機能を入れて……というブラッシュアップばかりに力が入って、全体を網羅的に、効率的に繋ぐという動きがあまりないんです。」
Eコマースなどを手がけながらエンドユーザーにより近いところにいたこと。それが、極めてマーケットインな視点と着想を育んだようだ。

後に提携先となるその中国企業のプロダクトも「製品としてはまだまだ作りが甘い」という考えから、企画・デザインを河千泰氏から提案。こうした迅速な行動力も、世界に先駆けて、この画期的なデバイスのファブレスメーカーとなる礎となったに違いない。何せ、製造を委託する中国の工場も自ら探して、発注したほどだ。
ちなみに、ここでは日本と中国を知る者であること、そして通訳士だった経験も活きたという。

「ご存知の通り、こうしたデジタルガジェットは台湾や中国の工場に発注するのが世界的にスタンダード。弊社のみならずユニークな着想でIoT製品を手がけるスタートアップ企業はゴマンとあります。しかし、アメリカのクラウドファンディングなどに顕著ですが、企画とプレゼンは華やかなのに、製造のフェイズに入ってつまづく。中国の工場とひと口にいってもレベルは玉石混交だし、商慣習の違いも含めて、ハードな交渉なども必要になります。しかし、私は日本の市場を知ったうえでこうした中国の質の高い工場と繋がりを持てました。これは中国生まれであることと通訳の仕事で得たコネクションのおかげですね」

日本の優れた家電を美しくつなぐ“架け橋”であり、また日本のアイデアと中国の製造現場をうまく結ぶ“架け橋”にもなっている。
こうして『eRemote pro』は磨き上げられ、唯一無二のプロダクトとして生まれるのだろう。

「架け橋としてもっとも役割を果たしたいのは、『素晴らしい技術』と『ユーザーの方々』を繋ぐことなんです。世界には、素晴らしい技術やアイデアがまだたくさんある。それを埋もれたままにさせるのはあまりにもったいない。両者を繋げて始まったばかりのIoTを牽引していく存在になっていきたいですね」

なるほど。河千泰氏とリンクジャパンは、今と未来を繋ぐ架け橋なのかもしれない。

株式会社リンクジャパン

CEO 河千泰 進一(かちやす しんいち)

「通訳案内士」の資格活かし、中国VIP客対象に通訳や観光案内業、メディカルツーリズム事業などに従事。一方でITにも興味があり、iPhoneの初代モデルから利用し、プログラミングを勉強した後、Eコマース事業に携わる。
そのような中、スマートホーム事業で世界的にも有名なBroadLink社のCEOと出逢い、これからはIoTの時代が来ると確信。日本市場でスマートホームを広めマーケットリーダーになるべく株式会社リンクジャパンを設立。