プロを訪ねて三千里【第6回】伊井哲朗氏
不確実な時代の生活防衛
「しなやかで強い」企業への投資で世界の成長を取り込む

英国EU離脱、トランプ新政権など世界は不確実性を増しています。そんな中、日銀も物価2%目標を掲げ、異例の金融政策を継続中です。こうした環境下、個人投資家はポジティブに生活防衛をする重要性が増していると、コモンズ投信の社長兼CIO(最高運用責任者)、伊井哲朗さんは指摘しています。

日本は先行き人口減少が見込まれ、日本企業の成長余地は限られていると見られがちです。しかし、環境変化を成長のバネに変える「しなやかで強い」企業に投資すれば、先行き3%成長が持続すると予想される世界経済の成長を取り込むことも可能とのことです。

伊井 哲朗(いい・てつろう)氏 プロフィール

コモンズ投信株式会社
代表取締役社長 兼 CIO(最高運用責任者)

愛知県名古屋市生まれ。1984年 関西学院大学法学部政治学科卒業後、山一證券入社。営業企画部に約10年間在籍し、マーケティングなどを担当。その後、機関投資家向け債券営業。1997年 メリルリンチ日本証券の立ち上げに参画し、同社および三菱UFJメリルリンチPB証券にて法人営業およびプライベートバンキング業務を約10年間経験。2008年 コモンズ投信株式会社を創業し、代表取締役社長に就任。2012年6月よりCIO(最高運用責任者)を兼務。

対談日:2017年2月17日

トランプ政策は経済成長にポジティブ

  • 尾河アラン・グリーンスパン元連邦準備制度理事会(FRB)議長が、今後の米国ではインフレになっても需要が弱いスタグフレーションに向かい得る、と指摘しています。トランプ政権の米国について、どのように見ていますか。

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  • 伊井

    どちらかといえば、ポジティブに見ています。リーマン・ショックを起点に、アラブの春やイギリスの欧州連合(EU)離脱があり、トランプ米大統領の誕生がありました。行き過ぎたマネー経済や資本主義に対しての大きな揺り戻しの渦中にあると思っています。

    今年1月のダボス会議でも、あらゆる所得階層の成長を促す「インクルーシブ・グロース(包摂的な成長)」がキーワードになりました。リーマン・ショックまでの成長の果実を享受した人たちだけでなく、取り残された人たちも成長できるようにすることが重要というわけです。安倍政権の「一億総活躍」も、同じ文脈であり先取りしていたともいえるでしょう。

  • 尾河トランプさんが勝っただけでなく、議会も共和党がとったことがサプライズになりました。
  • 伊井ねじれがなくなりますからね。共和党が掲げていた減税や規制緩和が進みやすくなって、金融業界はじめ多くの企業がサポートされます。経済成長にとって、ポジティブな政権といえるでしょう。
  • 尾河そうですね。今でも米経済は悪くないのですから、さらに景気を吹かすとなれば、もっと良くなるでしょう。
    心配のタネは、やはり保護主義の側面ですね。中国やメキシコの安いコストを活用し、グローバリゼーションの恩恵を最も受けていたのは米企業だった。その流れが逆流することによる米経済への影響は、予測しにくいです。
  • 伊井保護主義的な面が全面に出てくると、先行きは怪しくなってきますね。すでにそういう動きはあります。製造業を保護するということはつまり、新規参入させ難くするという意味でもあります。米国のダイナミズムであるイノベーションが起こりにくくなるのです。このため、シリコンバレーはトランプ政権にネガティブな反応を示しているのです。
  • 尾河米国は政権交代したばかりですし、欧州も政治リスクがくすぶっています。こうした中で、日本は投資先としてポジティブといえますか。
  • 伊井基本的にはポジティブですね。今、世界を見渡してもリーダーがいません。トランプさんは世界のリーダーシップをとる意思がなさそうですし、欧州もこれからリーダーが交代する可能性が高まっています。ロシアのプーチンさんも中国の習近平さんも、世界が納得するリーダーではない。となると、安倍首相の安定感が際立ちます。在任期間がG7各国の中で一番長くなる可能性があります。株式市場も海外投資家も関心を高めてきています。トランプ・ラリーでも、日本株を買っていたのは、ほとんど外国人でした。消去法的に、ではありますが。

米国も「投資大国」ではなかった

  • 尾河金融庁のアンケート調査の結果を見ると、若い人がNISA(少額投資非課税制度)を利用しない理由として「投資は難しそう」「投資に対するネガティブなイメージがある」といった回答が目立ちました。米国など他の先進諸国に比べると、投資への向き合い方がずいぶん消極的な印象です。
  • 伊井

    確かに米国では、2世帯に1世帯が投信を保有しています。日本では1割にも満たないため、随分違うといえますね。ただ、米国にしても、実は1980年ごろの個人金融資産の構成は、今の日本とあまり違わなかったんです。現預金が多く、株式や投資信託はわずか。あとは保険でした。35年前の米国人の投資リテラシーが高かったかというと、必ずしもそうではなかったのです。

    1970年代の後半から確定拠出年金などの制度が始まったことが転機になりました。自分で運用しないといけなくなったため、やむにやまれず個人も投信を手がけ始めるようになりました。

    日本でも確定拠出年金が導入されて10年ぐらい経ちます。この間に積み立てていた人の間からは、資産が増えたことで投資に関心を持つ人が出てきています。かつての米国と同様の流れが、生まれてきています。

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  • 尾河日本の金融庁は以前、「貯蓄から投資へ」の掛け声を打ち出していましたが、今では「貯蓄から資産形成へ」に視点を変えましたね。
  • 伊井

    顧客目線のサービスが足りないということで、フィデューシャリーデューティー(受託者責任)を重視する政策にも乗り出しています。

    日本では、2014年からNISAが始まり、子ども向けのジュニアNISAが16年から始まりました。17年からは確定拠出年金も拡充されています。数十年後に振り返れば、14年から「貯蓄から資産形成へ」の流れが本格的に始まったと言われるかもしれませんね。

  • 尾河しかし日本の投資家には成功体験がありません。これも株を買わない背景にあると思います。米国の株価は長期で右肩上がりですが、日本はバブル崩壊のショックを未だに引きずっている印象です。さらに人口減少もあって、経済が縮小するなら成長もない、といったイメージもあるでしょう。
  • 伊井

    やり方はいろいろあります。例えば株を安く買って高く売らないといけないとなると、経験の乏しい投資家は、外部環境が不確実な中では動きようがないでしょう。でも、世界の成長をキャッチアップするような銘柄を組み込んだ投資信託を毎月積み立てていくだけでも、資産は増やせるのです。

  • 尾河仕事をしている若い世代は、勤め先から支給される給与所得で生活に必要なキャッシュフローをまかなっています。シニア層とは違って、投資による収益を過度に重視する必要はないともいえます。
  • 伊井

    それでも、ある程度は世界経済の成長を取り込んでいこうとすることも重要です。日銀が2%の物価目標を打ち出していますね。この目標が実現するなら、生活者は少なくとも2%の所得向上が維持できないと、実質的に賃金が目減りすることになります。

    手取りの賃金が伸びない分を投資で補おうとするなら、世界の成長を取り込めるような投資信託に投資するのもひとつの手です。

    世界経済は2050年までの長期で、年平均3%程度の成長を維持していくという海外の大手シンクタンクなどの推計もあります。世界の人口が増加するとの見立てが前提になっています。ともあれ、人口増とともに世界経済が大きくなっていくなら、それを享受できるような資産を保有することは、個人にとっても合理的といえるでしょう。

「企業にリスク管理を任せる」という発想

  • 尾河人口が減っていく日本の企業より、世界の株式を組み込んだ投信に投資した方が見込みがあるということですか。
  • 伊井

    いつの時代も、世界の成長を取り込むことは資産形成の王道です。まずは、世界の株式市場へ投資をする世界株式のインデックスファンドが考えられます。近年は、もう一つの方法があります。世界の成長を取り込む企業に投資をして世界の成長を効率的に取り込む方法です。

    スイスの例がわかりやすいと思います。日本に先立ってマイナス金利になりました。預金だけでは資産は増えません。国内景気が悪くなれば勤労所得も減ってしまいます。そこで注目されたのが、スイスの食品大手のネスレ株への投資です。

    ネスレの売上高を見ると99%がスイス以外です。利益も98%が海外です。正にグローバルトップ企業ですね。ネスレ株に投資すれば、スイスの人たちは為替リスクなどを直接的には気にする必要はありません。ネスレがリスクを管理しながら、世界の成長を取り込んでくれるからです。その上で、配当や株価の上昇として、家計の金融資産に貢献してくれるのです。

    日本でいえば、ソニーさんも似たような位置づけで期待されますね。

  • 尾河ソニーもグローバル企業でございますから!
  • 伊井

    新興国の成長を取り込むには、新興国の株式を買うのもいいでしょうが、新興国の株式指数(インデックス)は、いわゆる地場産業が上場しているので業種が限られていて、その国の経済実体を必ずしも反映していないんです。

    例えばベトナムの人はベトナム製の車に乗っているのではなく、日本やドイツ、アメリカの車に乗っていますよね。医薬品なども同様です。

    世界の企業の売り上げをすべて足し合わせると、新興国での売上高は3割を超えていますが、新興国のインデックスのシェアは1割程度しかありません。つまり、新興国のインデックスに投資してもその国の成長を十分にカバーできないのです。

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  • 尾河市場で生じる様々な動きを自分で判断するより、優れたグローバル企業に投資して、リスク管理を任せた方が良いというわけですね。
  • 伊井実はソニー銀行さんでも購入できる「コモンズ30ファンド」というのは、そういうファンドになってるんです。
  • 尾河そうおっしゃると思いました(笑)。いつの時代も、どういう会社がリーディングカンパニーか、という議論があります。少し前なら「エクセレント・カンパニー」という言葉が流行りましたね。「コモンズ30ファンド」はレジリエント・カンパニーの株式で構成されているとのことですが、どういうことですか。
  • 伊井

    レジリエント・カンパニーとは「しなやかで強い企業」を指します。今は、世界中がかなりグローバル化し、ITも進化しました。一方、不確実な時代でもあります。変化への耐性が強かったり、変化をバネにできるような企業が強い企業といえるでしょう。

    とりわけ現役世代は、仕事や家事、育児が忙しく、市場の価格を追いかけるのは大変です。市場変動のリスクを乗り越えるのは自分ではなく、30年勝ち残れそうな「しなやかで強い企業」30社に、リスクテークを任せようというコンセプトです。

  • 尾河グローバルな大企業が中心になりそうですね。
  • 伊井

    不確実な時代に、多くの事業選択肢をもつ企業となると結果としてそうした企業が多くなります。30社選んだうち19社で海外売り上げが50%を超えています。全体の3分の2の企業は、海外売上のほうが国内売上より多いということです。そのうち10社は海外売り上げが70%を超えています。日本企業はそれほど、グローバル化しているということですね。

    典型的な例は、ユニ・チャームです。1960年代には、新生児が200万人以上いましたが、今は100万人を切るほどに少子化が進んでいます。ユニ・チャームは、人口増が見込まれるアジアへの進出に1980年代から力を入れ、日本の少子化の流れに備えた布石を打ってきました。海外売り上げの比率は2010年ごろに30%程度でしたが、足元では60%程度に高まっています。リーマン・ショックや東日本大震災といった不測の事態や、1ドル75円の円高という逆風も乗り越えて、連続で最高益を出しました。

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  • 尾河不確実な時代でも、頑張ってくれる会社はあるということですね。
  • 伊井30年程度の期間を乗り越えて、長期的に成長が見込める企業に投資すれば、途中で株価の変動があっても、結果的に資産は増えていくことでしょう。
  • 尾河30年という枠組みには、何か理由があるんですか?
  • 伊井企業の寿命が30年といわれます。そういうサイクルを乗り越えても成長できるかどうかという目線を重視しています。個人にとっても、一世代のサイクルに当たります。次の世代を見据えた資産形成に取り組んで欲しいというメッセージも込めています。

投資は「継続する人が得をする」

  • 尾河投資信託にも、もちろんリスクはあります。個人投資家には、どういう心構えが必要でしょうか。
  • 伊井

    基本的には慣れることです。子どものころ、初めて自転車に乗るときには、最初は怖かったことでしょう。それでも、慣れてしまえば、どうということはないはずです。

    タイミングを捉えて売買しようとすると、あらゆるニュースをチェックして、チャートを駆使して、とハードルがかなり高くなります。ですから、月々の積み立てを利用してほしいと思います。バランス型ファンドなり世界の株式なり、2本程度の投信を、経済的に無理のない範囲で積み立てるのです。ソニー銀行ではいくらから積み立てできるのでしょうか。

  • 尾河投資信託は1,000円から、ですね。(編集注:円預金は1,000円、外貨預金は500円から)
  • 伊井

    なるほど。1,000円から始められるわけですね。それでも最初のうちは、損失が出ないかとハラハラすることでしょう。でも、だんだん耐性が身につきます。慣れてきたら、積み立て額を増やせばいいのです。

    重要なのは、継続することです。例えばリーマン・ショックの際には、ショックの直後に投信を解約した人が結果的に、一番損をしました。一方、積み立て続けた人は、その後の相場の戻りとともに損失も徐々に縮小しました。100年に一度のショックと報じられたこともあって、積み立て額を増やした人もいます。それで、半年ぐらいの短期間で損失を取り戻した人もいます。

    毎月の給料からいくらか積み立てるわけですから、あるとき明細を見たら元本が減っていた、となれば嫌な気分になるのも当然です。それでやめる人もいます。しかし、積み立てを続けると決めた人にとっては、相場が崩れたときはむしろ、安い価格で数量を多く(積み立て額が一定なので)買えるチャンスでもあるのです。実は「得をしている」と捉えることもできるでしょう。

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  • 尾河とはいえ、始めどきが気になるのも人情です。
  • 伊井気持ちはわかりますが、思い立ったらすぐにでも始めることをお勧めします。積み立て回数が多ければ多いほど、資産は積み上がりますから。
  • 尾河そのときの相場の状況は関係ないのですか。
  • 伊井例えば5年間積み立てると決めたなら、積み立て回数は60回です。積み立て始めの2、3回のときに相場が高かったり安かったりしても、あまり関係ありません。むしろ、迷っているうちに半年、1年と、時間だけが過ぎていってしまいます。
  • 尾河積み立てを始めれば、それまで気にしていなかった経済ニュースなどにも関心が向かうようになりますね。
  • 伊井ポジションを持つことで、意識は変わりますよね。手前味噌になりますが、アクティブファンドに関心を持てば、そういう「気付き」が、より多いと思います。ファンドに組み込まれている企業の何が評価されているのかがわかれば、日々の仕事で役立つ場面があるかもしれませんし、将来のキャリアデザインについて、子どもにも助言できると思います。
  • 尾河フィンテックなどの技術革新も、投信市場にインパクトがありそうですね。
  • 伊井フィンテックの進化とともに、金融機関よりもマーケティング力が高くサービス意識も高い事業会社の参入も見込まれます。多くの金融機関では、本来もっとも資産形成のニーズがあるはずの若年層への取り組みが手薄でしたが、これからはそこが主戦場になるでしょう。10年後に振り返ってみると、投信の保有比率や市場規模は、2-3倍に増えるのではないかと期待しています。

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対談内にも登場した「コモンズ30ファンド」の詳細はこちら!

販売手数料0円コモンズ30ファンド

コモンズ30ファンド

ファンド概要

  • 30年目線の長期的な視点で銘柄選択を行います。
  • 世代を超えて進化し続ける“強い企業”約30社に集中投資することで、高い運用成果を目指します。

運用会社:コモンズ投信株式会社