プロを訪ねて三千里【第12回】栢森加里矢氏(QUOINE株式会社 代表取締役CEO)
仮想通貨の今とこれから 進行中の地殻変動

インターネット上でやり取りを行う仮想通貨への関心がにわかに高まっています。世界では投機対象としてだけではなく、すでに決済の手段としても普及しています。

ただ、日本では代表的な仮想通貨であるビットコインの消失問題などもあり、十分に理解されていないのが現状です。ビットコイン取引所を運営するQUOINE(コイン)の栢森加里矢・最高経営責任者(CEO)に仮想通貨の現状や将来性などを聞きました。

栢森加里矢(かやもり・かりや)氏 プロフィール

QUOINE株式会社
代表取締役CEO

東京大学法学部卒業、ハーバード大学MBA取得。三菱商事、Globespan Capital Partners、ソフトバンクグループにてシニアロールを歴任する中、日・米・アジアで投資・IT・ベンチャーに携わる。2014年11月にQUOINEを共同創業、2016年4月よりCEO。

対談日:2017年8月22日

マウントゴックス事件で関心が高まる

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  • 尾河QUOINEは「B to B」に特化しているといいますが、個人投資家からすると、ビジネスモデルにはわかりにくい面があります。
  • 栢森

    当社は仮想通貨とブロックチェーンを基盤に金融サービスを手掛けています。顧客どうしが売り買いをする場で、日本に多く存在する顧客と事業者が取引をする場とは異なります。

    現在は「B to B」に力を入れていますが、「B to C」の事業も行っています。将来は「B to C」の領域でしっかりとしたブランドを構築していきたいと考えています。

  • 尾河昨年3月に本社をシンガポールから日本へ移転しました。
  • 栢森

    QUOINE創業時にはソフトバンクでシンガポールに駐在し、アジアを統括していました。そのとき、同じくシンガポールに駐在していた共同創業者と知り合いました。仮想通貨とブロックチェーンの破壊的なイメージに共鳴し、会社を立ち上げようということになりました。

    創業後、気がついてみると日本円とビットコインの通貨ペアの出来高が全体の9割近くを占めるようになっていました。日本はもともとリテールのFXで世界一。ロイヤリティーポイントなどへの親近感もあり、ビットコインなどの仮想通貨は日本人にとって身近な存在だったのでしょう。

    2014年2月にはマウントゴックスによるビットコインの消失事件が表面化しましたが、日本での認知度はこの事件によってむしろ向上しました。FXに慣れ親しんだ人の多くは「新たな投資機会」と受け止めたのです。事件はビットコインの交換所のセキュリティの問題であり、ビットコイン自体に問題があったわけではなかった。事件をきっかけに個人投資家が相次いで取引へ参入しました。

    一方、日本では仮想通貨交換業者の取扱いを定めた資金決済法が国会を通過。それに合わせる形で本社機能を東京に移しました。昨年6月には20億円の資金調達を行い、日本での本格展開に至っています。

海外では「暗号通貨」もしくは「トークン」

  • 尾河確かに日本では多くの人がFX取引に参入しています。これに対して、ビットコインの売買を活発に行っている人が多いという感じはしません。
  • 栢森逆に言えば、それだけポテンシャルがあり、裾野の広がる可能性があります。登録事業者が存在していないにもかかわらず、これだけ出来高が膨らんでいるのがその証拠。一般の投資家を呼び込むには今後、どこで取引ができるのか、分別管理はしているのか、セキュリティ対策は講じられているのか、といった点がカギになるでしょう。
  • 尾河FXが日本で立ち上がった当初も多くの業者がいました。その後は淘汰され、レバレッジ規制も導入されて現在に至っています。
  • 栢森

    ご指摘のように、FX取引では始動時に数百の業者が存在し、200倍といった高いレバレッジでの取引サービスを提供するところもありました。現在は売買の多くがトップ20の業者に集約されています。スプレッド、約定のスピード、カスタマーサポート、ユーザーエクスペリエンス、パソコンとモバイルのいずれにも対応できるのか、といった物差しを基準に業者の絞り込みが進みました。

    仮想通貨はその前の段階です。レバレッジも決まっていません。当社は個人顧客に最大25倍、法人には同50倍のレバレッジを提供する予定です。

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  • 尾河日本の投資家の一部には「こわい」という割にリスクの高いところに資金を振り向ける傾向があります。
  • 栢森お金儲けをしたいという気持ちは結局、万国共通。日本人は表だって言いませんが、FXが大好きなのも実はそう考えているからです。株式投資で儲けるにはそれなりに努力が必要ですが、たとえばドル・円ならば結構、身近なものと感じることができる。その延長線上に仮想通貨があるということでしょう。
  • 尾河「仮想通貨」というネーミング自体が怪しさを想起させるのではないでしょうか。
  • 栢森海外では一般的に「クリプト・カレンシー(暗号通貨)」や「トークン」と呼ばれています。「仮想通貨」とは言いません。

「ビットコイン発明以来の危機」は杞憂

  • 尾河ビットコインをめぐって最近、分裂騒動がありました。その影響でビットコイン相場は乱高下しました。
  • 栢森

    心配する必要はありません。分裂問題はパソコンのソフトウエアのバージョンアップというイメージです。「ウィンドウズ95」が登場したのをきっかけに、パソコンが身近な存在になった。その後、「ウィンドウズ2000」が出てくると、そちらに乗り換える人もいましたが、「95」を使い続けた人もいました。

    ビットコインもそれと同じこと。進化、発展のためにはアップグレードする必要があり、それをめぐって話し合いを重ねてきました。最近出てきた案件ではなく、2年前から議論されていました。ただ、ブロックチェーンはそもそも中央集権的なものではなく、分散された仕組みの中で出てきたもの。つまり、誰かのトップダウンではなく、あくまでもコンセンサスで物事が決まります。取締役会もなければ、株主総会もない。

    全員がバージョンアップに賛同すればいいが、賛同しない人たちも出てくるはず。そうなると、分岐・分裂のたびにいろいろなバージョンが残っていくということです。バージョンアップ型の分岐は今後も起きるでしょう。

  • 尾河今回の分裂騒動を受けて、「気を付けないとおカネがなくなる」などと警鐘を鳴らす人もいます。

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  • 栢森

    それは誤解です。「ブロックチェーン」はまさにブロックが鎖のようにつながった状態。「分岐」とはブロックが2つに分かれていく。完全に分岐するには時間がかかります。その過程でヤマタノオロチのように首はたくさんあるが、胴体が一緒という状態になる可能性もあります。そのときにビットコインを送金すると、胴体はつながっているのでビットコインから分裂して誕生したビットコインキャッシュまで一緒に送られてしまうかもしれない。

    分岐が完了していないと、ビットコインは手元に残したいがビットコインキャッシュは売却しようといったときにビットコインまで売却してしまうおそれがあるのです。だから、取引所や交換所などが分岐日の前後で一定期間は入出金をしないなどとルールを決めれば、そうした心配もない。「ビットコイン発明以来の危機」などという報道もありますが、きちんと管理されているので問題ありません。

  • 尾河法定通貨と違って中央銀行が存在しないとなると、何か問題が起きたときに大丈夫かという不安はありませんか。
  • 栢森

    日本人の間では法定通貨に対する信頼が高い。ドル、ユーロ、円、ポンドなどは信頼の高い通貨と言えるでしょう。だが、全体でみれば、世界に174の法定通貨が存在する中で、信頼のあるものはかぎられています。インド人は自国通貨のルピーを信用していません。アフリカには自国通貨が不安定で廃止してしまった国もあります。ジンバブエには自国通貨が存在しません。

    そうした国々ではビットコインに対する信頼がむしろ高い。国によっては法定通貨よりもビットコインの価値が高いところもあります。韓国がそう。北朝鮮のミサイル発射など地政学リスクを反映した価格形成といえます。世界的には中銀の発行する紙幣への信頼が高いとは一概にいえません。

    ビットコインが誕生したのは2009年。前年のリーマンショックで中銀や大手銀行などに対する信頼が揺らいだ際、中央集権的ではない貨幣システムがあってもいいのではないか、との考え方が登場の背景にはありました。それ以来、ブロックチェーンは今まで一度も取引が止まっていません。銀行だと定期的なメンテナンスなどのためにシステムを止めますね。FXのサービスも週末はストップします。これに対して、ビットコインならば24時間、365日、売りたいときや買いたいときにいつでも取引できます。利便性や信頼性、安全性は高いと思います。

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  • 尾河中国の人民元が売られるとビットコインが上昇するという状況が一時期続いていました。人民元や自国経済に対する信頼の欠如がビットコイン人気につながっている面がありそうですね。
  • 栢森

    自国の法定通貨を持ちつつ、ビットコインを保有するのもロジカルな動きだと思います。中国は人民元をコントロールしているので、その対象ではないビットコインへのニーズがあるのは事実です。中銀である中国人民銀行は規制に乗りだし、これを受けてビットコインの価格は急落しました。しかし、禁止はしなかった。ということは、当局が認めたということ。そこから、ビットコインは大幅に反発しました。分裂騒動のときもそうです。

    ビットコインの価格はマウントゴックスの事件以来、長期上昇トレンドを描いています。現在は登録事業者が1社もないので、買いたい人はもう少し待っていてもいいかもしれません。これからはFX業者のトップ10のほとんどが参入してくるはず。オンライン証券も続々、手を挙げるでしょう。手掛けなければ顧客がほかへ行ってしまう。だからこそ、当社は「B to B」のビジネスをコアに位置づけているのです。

決済手段として定着には要時間

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  • 尾河大手の家電量販店がビットコインによる決済サービスの全店導入を公表しましたが、ほかに対応している企業などは少ないのが現状です。
  • 栢森

    決済手段として定着するには時間がかかるでしょう。家電量販大手が全店で対応することには正直、驚かされました。

    マウントゴックスの事件が起きたとき、痛んだ日本人はほとんどいませんでした。多くはビットコインを持っていなかったからです。マウントゴックスにビットコインを預けていた顧客全体の97%が日本人以外でした。

    しかも、参入してきたのは事件発覚の後。長期保有していれば含み益がかなり膨らんでいる状態です。そうなると、物の購入や食事の支払いに充てたいといった「使いたい気持ち」が湧いてくる。今は使えど使えどビットコインの価値が上がるという「打ち出の小槌」の状態。ビットコインをチャージできるような会社などへのニーズも出ているのもそのためです。

    決済手段としての導入には加盟店の獲得などにも多くの時間が必要です。ただ、五輪も控えており、QRコードだけで支払いを済ませることができるのは外国人には魅力的です。2020年に向けてどこまで広がるのか注視しています。

  • 尾河仮想通貨はビットコインのほかにもイーサリアムなどいろいろありますが、投資家には「何を買ったらいいの」という疑問もあります。
  • 栢森

    ビットコインの最大の問題は「容量」です。取引記録をテキストベースで台帳に記録することは可能ですが、たとえば「1週間後にこういうサービスをしてくれたらビットコインで支払う」といった契約書をブロックチェーンに書き込むことはできません。それに対応できるのがイーサリアムです。

    イーサリアムはいわゆる「スマートコントラクト」。保険契約もできれば、トークンを発行することも可能です。イーサリアム上でトークンを作っている会社は世界で数百社を数えます。ビットコインよりもイーサリアムのほうが成長の余地は大きいでしょう。

  • 尾河仮想通貨が数多く登場してくると、それぞれの価値が下がってしまいませんか。
  • 栢森

    各仮想通貨がパイを分け合うのではなく、全体のパイが大きくなるとみています。株式のマーケットで上場企業が増えると、市場全体の時価総額が膨らむのと同じことです。むろん、中には怪しげな通貨があったり、実証実験段階のものも存在したりするでしょう。そうした中で、投資家が自らのリスク許容度をにらみながらビットコインとイーサリアムを併せて保有するといった具合に、いろいろな買い方が出てくると思います。

    これからは現物だけでなく先物、オプションなどデリバティブも出てくるはずです。ただ、今はイノベーションに規制が追いついていません。そうした状況は当面続くでしょう。

  • 尾河日本には仮想通貨の登録業者が存在していないといいますが、それでも諸外国と比べると進んでいるのでしょうか。
  • 栢森

    世界で最も進んでいるのが日本です。取引量で世界のトップ3に位置しています。米国には州レベルでの規制があるため、全国でビジネスを展開しようとすれば50州でライセンス登録する必要があります。これに対して日本には国レベルの規制しかありません。今後、金融庁で業者登録の承認が得られれば、どこでも事業を手掛けることが可能です。

    ただ、日本では各登録業者に対し、どのような仮想通貨を扱っているかといった点まで細かくチェックする方針です。そうなるとイノベーションが遅れかねません。投資家を保護しようとするあまり、規制を厳しくするとイノベーションが遅れてしまう。非常に難しい問題ですが、日本が「ガラパゴス化」してしまうのは避けたいところですね。

ICOはB to B の「キラーアプリ」

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  • 尾河投資家が資産の一部を仮想通貨に置き換え、仮想通貨がいたるところで決済手段としても使えるようになると、法定通貨はいらなくなるのでしょうか。
  • 栢森

    たとえ法定通貨が完全にはなくならなくとも、並行して仮想通貨が使われるようになるケースは十分考えられます。キャッシュベースエコノミーは法定通貨で対応し、旅行するときには仮想通貨で支払いをするといった状態です。

    仮想通貨の発行体もさまざま。ただ、そうした仮想通貨が世界中で使えるかといえばそうではない。その点、ビットコインならばどこでも使うことができます。「価値媒体」としてさまざまな仮想通貨が登場し、その一部はユニバーサルコインとして広がりをみせる可能性もあるでしょう。

  • 尾河これからのビジネスのビジョンを聞かせて下さい。
  • 栢森

    コンシューマー向けの仮想通貨のキラーアプリが何かと言えば、「運用」や「投資」です。一方、ビジネス向けのキラーアプリはこれまでありませんでしたが、ここへきて登場してきました。新規仮想通貨公開(ICO)です。

    仮想通貨を発行することで世界中から資金調達ができるようになりました。ベンチャー企業などが自らイーサリアム上でトークンを作り、投資家に買ってもらうことで資金を調達する。これは画期的なことです。

    「仮想通貨は有価証券に該当しない」というのが現在の法律上の解釈。新規株式公開(IPO)だと購入する投資家は国内に限定されますが、ICOは世界中の投資家が対象です。法整備などが追いつかない状態でも、こうした流れはもはや止めることができません。

    仮想通貨やブロックチェーンの技術はまさに「地殻変動」です。凄まじい勢いで創造的なイノベーションが起きているのです。これから仮想通貨を絡めたさまざまな金融サービスが登場してくることでしょう。毎日ワクワクしながら仕事をしています。

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