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第1部講演:世界の政治・経済はこう動く 講師:塩川正十郎氏(元財務大臣)
今後の経済政策の課題と提言
今後の経済政策で何が一番大事かといえば、技術の開発・向上と資本の有効利用です。技術の向上のために学問の領域もそれなりの展開をしなければなりませんし、人材の育成もしなければなりません。資本の有効活用については企業の問題もありますが、より重要なのは税制の改正です。日本の税制は今後、従来からの直接税中心の税制から、多角的な税制に変え、高度資本主義との整合性をとらなければなりません。
経済の基盤については自信を持っていいと思いますし、またそうでなければなりません。残るのは、社会保障制度をいかに持続的な安定したものにするか、同時に科学技術の進歩のために、少子化対策にも効果のある教育制度を作るかという問題です。
現在の社会保障制度は保障というより保険です。年金も健康保険も1960(昭和35)年安保の翌年、池田内閣発足時に所得倍増、福祉国家を宣言。福祉国家になるために世界に先駆けてすべての国民が年金、健康保険に加入する国民皆保険皆年金という制度をとりました。北欧諸国は福祉国家ではあるけれども、外国の人や長期労働者を区別しています。日本では永住権のある人はすべて国民として扱うという徹底した制度で、それが今日まで続いています。
以前、日本では60歳以上を老人とし、人口の5%が老人という若い国家でした。40数年経った現在は65歳以上を老人とし、人口の19%を占めています。もはや保険で維持するという原理は通用しません。保険は掛ける人が多く、受ける人が少ないから有効に作用するのであって、逆になれば、保険の原理が適用できないのは当然であります。北欧諸国においては1975年から1980年にその状況が顕著になったため、保険制度を改定し、高齢化の進行で年金給付が増える、あるいは医療が進歩して医療給付が増えるといった当然増に対しては国民すべての負担にしよう、つまり税で賄おうと考えました。国民が公平に負担するのは消費税だということで、1975〜1980年にかけ、欧州諸国では一斉に社会保険制度から社会保障制度に切り替えたのです。
たとえばスウェーデンでは20年近く保険料の自己負担分を変えておりません。その代わり、15%でスタートした消費税は22〜23%に上がっています。国民は安定した保障制度に信頼をおいており、負担はきついけれども納得したうえで負担しています。日本もいずれそういう時期がやってくるでしょう。
日本の社会保障制度には共済、政府管掌(厚生年金、健康保険)、市町村主体(国民年金、国民健康保険)があります。
共済には、若い人が多いので、給付についても余裕があります。1951(昭和26)年恩給制度を廃止し、共済制度に切り替えた際、恩給で将来給付すべき見込み額を全額国が拠出しましたので、当初から財政は豊かでした。一方、市町村主体は1961(昭和36)年発足当時から薄い制度で、年金については年4,800円の掛け金で60数%の所得を保障する、年金というよりも所得保障制度だったのです。ところが年金の掛け金も健康保険の掛け金も上げることに躊躇し、財政はすべて政府の負担において辻褄を合わせてきましたので、財政状況が非常に悪い。その中間にあるのが政府管掌です。まずは各制度を統一する必要があるのです。
欧州諸国においてもまず、制度の統一をしました。私も現地に行った際に担当者に話を聞きましたが、非常に難しい大変な作業で、訴訟問題もあったけれども、それに耐えて切り替えたといいます。日本では厚生年金の運営の一部を企業が代行してきた部分がありますが、会社が苦しいために、また会計基準からしてもその必要があり、代行分を国に返納し、政府管掌へ切り替えました。その際に各社とも大変な苦労をした経験があるのですから、制度の一本化もできるわけです。
共済は個人に帰属する財産と思われる分があれば、交付公債や将来の年金の前払いに使うなど三保険の調整については、様々な方法があります。いろいろな知恵を絞って西洋諸国はやってきた。役人は財政がもつまでやっていればいいなどといっていますが、現行制度を続ければ、数年で掛け金を上げる、給付を減らすという方向に行かざるを得ない。現行の制度は安定した、持続性のある、信頼できる制度ではない。社会保障制度に切り替える必要があると思います。政治リーダーシップが必要となる部分です。
少子化対策のカギは社会保障やワークシェアリング、教育の充実にある

少子化対策については、金を出せばいいという考え方はおかしいと思っています。
一つは高齢化と関連しています。北欧3国では70歳以上に年金を給付しており、65歳から給付している日本は遅れている状況です。日本でも70歳までは働いて貰えばいい。その代わり60歳で定年などとせず、経済的な条件、社会的な環境を整えればいいのです。
もう一つ。欧州では家庭で子供を育ててもらうために、女性の産休を3年間保障し、給与を全額保障、なおかつ復職できるということを法律で保障しています。給与を貰いながら安心して家庭で子育てができ、子どもと共にボランティア活動をしています。そういう政策をとっているのです。
大学は6年制にしているところが多く、大学院制度を幅広く活用しています。若い人にはできるだけ学業に精を出してもらうなど、ワークシェアリングの対象を広く考えています。日本ではワークシェアリングが進んでいませんが、経団連(日本経済団体連合会)の御手洗新会長もワークシェアリングによって就労形態を増やさなければいけないといっており、今後は進むと思っています。
そのためには大学を6年制にすることと、育英資金の支給が関係してきます。日本の育英金は困ったから貸すという制度で、平均10万円以下、返済は10年。非常に返済期間の短い貸し方です。欧州諸国では学費プラス生活費を育英資金として貸し出し、返済は本人の希望に応じて30〜40年。ドイツでは青年に対する国家の投資と考えている。今いる若者を優秀な人材に育てるという視点がなぜないのか。結婚や出産だけを考えるのではだめだと思います。
親によって一番精神的な負担になっているのは、子の教育です。親は自分のこと以上に競争意識を持って子どもの勉学に向き合っている。子どもも歪んできますし、親も精神的に耐えられないような圧力を感じている。そのうえ、東京都の例では家計の25%程度が教育関連支出となっており、年収600〜700万円の世帯では大変な負担です。出産に慎重にならざるを得ません。競争社会における苦しみをどうするか、その解決を考えなければ、少子化対策は成功しないだろうと思います。もっとおおらかな社会を作ること。教育の多様性を図ることではないかと思います。今の大学では教養課程がない。本当に残念です。高等学校では受験勉強ばかり、大学では実務的なことばかりを教えています。人間の教育、教養の教育など、ほとんどない。経済力のついた日本なのだから、少子化や高齢化対策について従来の路線を改め、新しい対応をする必要があるだろうと思います。

