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第1部講演:世界の政治・経済はこう動く 講師:塩川正十郎氏(元財務大臣)
磐石になった日本経済。その3つの理由

いずれにしても日本経済は心配のない磐石の状態になってきたと思っています。その理由を3つ挙げてみましょう。
まず、1つ目。日本経済は1990年のバブル崩壊後、1998〜1999年が底でした。1998年に北海道拓殖銀行や山一證券の破綻など、日本経済は破綻するのではないかという直前までいった。そこで金融二法(預金保険法の改正及び金融機能安定化緊急措置法の制定)という法律をつくり、国が銀行に積極的に資本参加をし、銀行救済にあたりました。銀行が国からの資本注入を受け入れ、自己資本比率がアップして余力が生まれ、不良債権の放棄や過剰施設の整理が進みました。これは世界的にみても驚くような成果です。
アメリカでは12〜13年前に金融危機が起きた際、税制によって短期で思い切った資本の切り捨てをしました。日本は現金を使った。2000年前後には、過剰な借金が少なくなり、リストラで人員を削減、過剰施設は捨てた。それ以降、新しい設備を取り入れ、グローバリゼーション、国際競争力を持って戦いを挑んできました。
2つ目、日本が幸せだったのは、十数年前、総評(日本労働組合総評議会)が労働界をリードしていた時と異なり、連合(日本労働組合総連合会)を中心とした民間の労働組合の対応が非常に良かったことです。連合は、日本経済が上昇してきたことで、労働分配率の引き上げを要求しました。その際も、生産効率を高めた分をどの程度、労働分配率に還元してくれるかについて労使間の話し合いで十分納得をしたうえで承知をした。そして労働分配の配分についても、現職の労働者のベースアップはできるだけ自制し、新規採用に振り向けることを提案しています。同じ職場で臨時職員として働く人や派遣社員として働く人を見て心痛に耐えないところがある、正規採用を増やしてくれ、という要求をしたのです。当時、臨時雇用の時給は平均820円でしたが、現在は850〜860円になっています。企業にこれだけの体力は十分にあるわけです。正規社員も2005年から増えてきています。
私は今、東洋大学の総長をしており、学生の就職に大きな責任がありますが、3年位前までは就職率も悪く、あらゆる会社にお願いに回りましたが、2006年の就職率は就職を希望する者で見た場合は90%を超えました。また、数年前まで女性の就職率は悪かったが、最近は女性のほうが積極的に意欲を示し、男性より就職率が高くなっています。
企業は過剰設備を整理し、金融機関は力をつけ、新しい技術を採用していった。労働組合の労使協調も進んだ。日本経済は確かな基礎が固まったと思います。
3つ目は、2000年以降、日本企業は不良資産の整理と並行して、労働条件がよく、安く、資源と直結しやすい地理的条件が整う国へ、積極的に投資を行なったことです。資本の投下が多かったのはアメリカ、次いで中国です。件数では中国のほうが多いのですが、金額ではアメリカの方が大きくなっています。
国内では産業の空洞化といった不愉快な思いをしたかも知れませんが、4〜5年たった今日、他国に進出した企業がしっかりと根付き、その国の産業構造を形成する一員にまで育ったものが沢山あります。その結果、たとえばマレーシアのGDP(国内総生産)の4%は日本企業の製品ですし、アメリカにおいても、アメリカの財務省はGDPの2%相当は日本の関係する企業であろうといっております。
そのことにより、日本の経済構造にも大きな変化が生じました。従来は物を作って輸出する、生活の改善・向上は付加価値を稼いだ賜物です。現在もそうであることは間違いありません。
2005年の国際収支は22兆円の稼ぎで、うち10兆円が生産性向上からきたものであり、12兆円は技術や資本で稼いだものです。十数年前からみると画期的な構造の改革です。以前は外国に対し、ノウハウ料や特許使用料などの支払いも多かったが、現在は子会社や合弁会社を作ったところに、本社からノウハウを貸して生産を行なっています。その使用料が入り、投下した資本が利益を生み、配当金が入ってくる。とくにアメリカやイギリス、一部のヨーロッパにおいては3年前に国際租税協定を結び、二重課税の弊害がなくなりました。利益は関係者双方が配当収入としてダイレクトに受け取れるようになり、資本収入が増えてきたことは結構なことです。そういった中で日本経済は構造変化をしてきた。これはいいことだと思います。この傾向をさらに進めることで日本は確実な経済の成長とともに、生活水準を維持していけると思います。

