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巨大な労働人口は強みかリスクか
インドの就労人口(20〜39歳)は2025年には4億3,200万人に

(資料:U.S.Census Bureau, International Data Base 2000年)
今年の初めにインド中央銀行の総裁が、「人口の半分が若者です、力です。人口による恩恵に預かれる。でもそれはリスクにもなる」といっています。毎年1,200万人の労働力が生まれてしまう。シンガポールの人口は400万人ですから、全人口の3倍の労働力です。きちんとした職場を与えられないと、社会争乱になります。首相は、「これからは製造業の基盤整備に力を入れます」と、インドものづくり向上委員会を作りました。
2006年2月、ジェトロ主催で中堅中小のオーナー70名ほどがインドを訪問し、応対したインドの商工大臣は「今はIT産業ばかりで頭でっかちになっているが、我々は大変な問題を抱えている、製造業を伸ばすために教育してくれる先輩たちが必要だと。日本にノウハウや人的資源を提供してほしい、賛同してくれるかたにインドを見て欲しい、知って欲しい。一緒にできること、助けていただけることがあったらお願いしたい」という要請をしたのです。インドの政治家がきちんと手を打ち、外からの応援を得て、経済を運営する政策を履行していけるか。それをみていく必要があります。
インドのIT産業を育成する基となった人物はアメリカのケネディ大統領です。
ハーバード大学の教授だったジョン・ガルブレイス氏を、1961年にインド大使として送り込みました。この時に設立したのが、MIT(マサチューセッツ工科大学)を真似て作ったIIT(インド工科大学)です。インドには人も金もない。そこでアメリカは当時のお金で10億ドルの予算をつけた。1960年代はそこを出た人に適した職場がなかったので、アメリカへの頭脳が流出します。その人たちがアメリカで累積し、1970年代後半から1980年代にかけてアメリカで起こったのが、シリコンバレーのIT革命です。ITはインフォメーション・テクロノジーですが、語呂あわせをすると、インディアン・テクロノジーです。ケネディ大統領が1961年にシリコンバレーのIT革命を頭に描いていたかは分かりませんが、結果的に長期戦略が成功する形になっています。
日本はODAでインドに1,500億円位お金を出していますが、橋など、インフラに投資しています。人には投資していない。
民間ではトヨタ自動車がインドにトヨタ学園を作ります。2007年7月に開校し、1期生として高卒の人を80名、3年間訓練し、希望者は現地のトヨタの自動車工場に入ってもらう。インドのトヨタの初代工場長は「磨かれる機会がなく、磨かれてもそれを発揮する機会が与えられていない若者が世界で一番いる国」とインドを表現しました。
ジョン・ガルブレイス教授は2年でインドから離れましたが、経済だけでなく文化にも造詣が深く、インドに関する本を書かれるなど、優秀なかたでした。アメリカは莫大なお金を使ってそんな人を送り込んだのです。そしてインドの頭脳がアメリカに流出し、シリコンバレーで花を咲かせ、そして再びインドに戻ってきたのです。
外資の進出とボーダレス化するマーケット
インドと中国は犬猿の仲だと思われる向きもありますが、モンマハン・シン首相は中国の温家宝首相と会談しています。両国とも人口が10億人を超え、核保有国です。人口の半数を若者が占める、これからの国です。日本とインドの貿易は50億ドル位で変化がないのに対し、中国とインドは2005年136億ドルで、2007年200億ドル、2010年には500億ドルになると予想されています。アメリカのある経済学者が19世紀初頭に「今は政治が経済の枠組みを決める。これからは経済が政治を変える」といっている。まさにそうですね。
アメリカにはNPT(核兵器非拡散防止条約)に加盟しない国に核技術を供与することを禁止するアトミックローという法律があります。しかし、ブッシュ大統領は今年3月、NPTに加盟していないインドに核技術を供与する合意をしました。インドは、経済成長と人口増加に伴うエネルギー需要の増大を、原子力発電によって賄う計画を持っています。アメリカとしては、インド市場への参入は経済的メリットが大きいうえに、インドとの関係改善は中国への牽制にもなるといわれています。さらには、アメリカはインドが原子力発電によるエネルギーを確保することにより石油争奪戦争を回避できると考えているようです。
従来は政治が経済の枠組みを決めていたが、これからは同じ延長線上で物を見ていると間違える、ということです。新聞をお読みになるときには、そこにある意味や背景を考えながら読むことが大切だと思います。
インドとタイは3年前にフリートレードアグリーメント(FTA)を結び、今年の9月からは82品目について関税がゼロになり、同一マーケットになります。2005年、タイで自動車製造が80万台、インドが120万台。これがひとつのマーケットになると、世界有数の規模となります。タイで作ったトヨタのエンジンがインドへ関税ゼロでいく。インドからはトヨタのトランスミッションがタイに関税ゼロで輸出されます。ボーダレス化によって、この地域の経済が活性化されることでしょう。
共存共栄がアジアの平和、世界の平和にもつながる
インドの経済が本物かどうかはこれまでお話したことから皆さんにご判断いただきたいと思います。あと30年でインドが日本のGDPを抜き、世界の三大経済国はアメリカと中国、インドになると分析する機関もあります。G7に対してE7という言葉あります。Eというのはエマージング(新興国)で、BRICsの4カ国にインドネシア、メキシコ、トルコをプラスしたものです。あと半世紀経つと購買力ではE7がG7を抜いてしまうともいわれています。
2006年2月、私も一緒でしたが、インドでスズキ自動車会長の鈴木修氏、バルガバ氏とお会いしました。バルガバ氏はスズキの子会社をインド最大の企業にしたかたです。元々、国家公務員で、工業省の局長でしたが、インドの上級国家公務員試験で1番、悪くても工業次官、うまくいけば官房副長官になれた人です。それが鈴木氏に見初められて辞め、スズキの子会社の社長になり、インド最大の会社にしました。鈴木社長はインドに身も心も捧げたといっています。ここまで力を尽くしたら、そこがインドでなくとも、ほかの国であっても成功しただろうと私は思いました。トップが全身全霊をかけ、行った国で仕事をする。いい人材を選んで、全幅の信頼をおいて活躍してもらう。そういうことではないかと思います。
「インドビジネスの要諦」を挙げましたが、「理解してもらうよりも、まず相手のことを理解する」ということが重要です。
インド人は自己中心的で傲慢だといいますが、イギリスに征服され、イスラムに征服され、抑圧された背景があります。自分を売り込む必要があり、日本人からするとあつかましい印象を受けますが、背景を知っておけば理解ができると思います。
最後に私の好きな言葉をご紹介します。ひとつは「今世紀の経済システム成功には、自由貿易と直接投資、情報・ヒトの移動の自由を確保することが重要」。もうひとつ、クリントン大統領に乞われてハーバード大学から労働長官になられたロバート・ライシュ氏の「人的資本への投資こそが経済活性化のカギ」という言葉です。
以上、申し上げたことを参考にインドに関する理解を深めていただければ幸いです。マクベスの中でシェークスピアはこういっています。「傑作は混沌の中から生まれる」。ぜひ皆さんも頭の中を混沌とさせ、その中から素晴らしいものを生み出していただきたいと思います。
日本とインドは共存共栄する必要があります。自分にないものを借りる、与えられるものを与える。そうすることでアジアの平和、世界の平和にも繋がっていくのではないかと思います。多角的で、バランスの取れた視点でインドを見ていただければ幸いです。長時間のご静聴ありがとうございました。
- はじめに
- 首都の空港に灯りがない国にビジネスはあるか
- 巨大な労働人口は強みかリスクか

