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スペシャルインタビュー
作家 橘玲さんインタビュー リスクが極大化する社会の中で自分と家族を守るためにできること

橘玲 大震災の後で人生について語るということ

金融に関する豊富な知識を背景に、数多くの著作を生み出してきた作家の橘玲さん。その最新著『大震災の後で人生について語るということ』には、震災以降の日本を生きる私たちの新たな人生設計が描かれています。今の日本が抱えるリスクの源泉と、そこから身を守る方法を橘さんに伺いました(このインタビューは2011年9月2日(金)に行われました)。

橘玲(たちばな・あきら)

1959年生まれ。早稲田大学卒業。2002年『マネーロンダリング』でデビュー。同年、「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』がベストセラーに。2006年には『永遠の旅行者』が第19回山本周五郎賞候補となる。

20年続いたデフレで、日本社会は機能不全に

――
今回の著書はタイトルからも分かる通り、震災を契機に書かれたものですね。

震災直後の3月14日(月)から海外に行く予定だったのですが、それをキャンセルし、そのほかの仕事もほとんど断り、しばらくは呆然と過ごしていました。私はこれまで「自由とは人生の選択肢のことだ」と繰り返し書いてきましたが、実際に被災地の避難所にいる人たちを目の当たりにして、多くの人が選択肢など持っていないという現実を突きつけられました。そんな人たちに対して、自由と自己責任を説いてもなんの意味もありません。私がこれまで書いてきたことは、ただの「絵空事」だったのです。

とはいえ、テレビ画面に映し出される被災地の惨状に打ちのめされつつ辿り着いた結論は、それでもこの絵空事を追求するしかないということでした。今はまだ日本にも余力がありますが、次に危機が起こればその余力もなくなってしまうでしょう。絵空事を現実にできる人がいなければ、日本社会はもはや持ちこたえられないのです。そうした思いから、この本を書きました。

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次に起こる危機とは、どのようなものですか。

最も現実的な可能性は、やはり国家財政の破綻でしょう。当然のことながら、国債の発行は永遠に続けられるわけではありません。国民の金融資産や国家の課税権を担保に借金をし、いわば無から有を生み出しているのですから、それが無限に続けられるなら誰も働かなくて生きていける錬金術になってしまいます。

――
それにしても、なぜそのような状況を招いてしまったのでしょう。

一番の問題は、日本の社会システムが機能不全を起こしていることです。その象徴が20年にわたって続くデフレです。

例えば私の学生時代、30年ほど前にはジーンズが7,000〜8,000円はしましたが、今では2,000円以下で買うことができます。不動産賃料も下がり続けていて、いま東京の郊外で駅からバス便のところであれば、2LDKの中古マンションが月4〜5万円で借りられます。これはバンコクやクアラルンプールよりも安い家賃水準です。そう考えると、この20年間のデフレ圧力がいかにすさまじかったかがわかります。むしろ日本はよく耐えてきたといったほうがいいのかもしれません。

結局、日本の社会システムは高度成長期に最適化されていたのです。本の中にも書きましたが、それが「不動産神話」「会社神話」「円神話」「国家神話」という4つの神話です。まず「不動産神話」についていえば、日本の地価は1980年代の半ばまで年率約15%で右肩上がりに上昇してきました。ですから、住宅ローンを組んでマイホームを購入し、値上がり後に買い換えていくだけで、個人の資産は大きく増えていったのです。ところが90年代以降、地価は一貫して下がり続けていますから、80年代後半から90年代半ばに家を購入した人の中には、実質的に債務超過に陥っている人が少なくありません。

大きな会社に就職し、定年まで勤めればいいという「会社神話」や、資産は円で持っておけばいいという「円神話」も同じように大きく揺らいでいます。バブル崩壊後は「会社は絶対に潰れない」という前提が崩れ、何も考えず日本株さえ買っておけばよかった投資環境も180度変わってしまいました。今や私たちが真剣に考えないといけないのは、円資産そのものが価値を失ってしまうリスクなのです。

それは最後の「国家神話」にも関係してきます。定年後は年金で暮らせばいいという神話も、財政破綻のリスクが顕在化することで、すでに崩壊しつつあります。年金は日本国が支払いを保証しますが、国の一般債務は1,000兆円を超えているのが現状です。

未来というのは不確実なものですが、その中で人口動態は確実に予想できる数少ない例外です。日本の人口は2005年をピークに減少に転じており、総人口に占める65歳以上の老年人口の比率も、2005年の20.2%から2050年には39.6%に上昇すると予想されています。日本の年金制度は現役世代の負担で高齢者を支える賦課方式ですから、このままでは制度が立ち行かなくなってしまいます。

リスクを回避するためには、世界市場全体に投資する

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高度成長期には最も効率的な人生設計だった「4つの神話」が、すべて崩壊してしまったわけですね。それでは、私たちはこれからどのようにすれば自分や家族を守れるのでしょう。

私たちは「人的資本」「金融資本」「社会資本」という3つの資本を用いて生きています。市場でお金を稼ぐ方法は、働く能力である「人的資本」を労働市場に投資するか、「金融資本」を金融市場に投資するかのどちらかしかありません。「社会資本」は人間関係のネットワークで、失敗したときのセーフティネットの機能を果たします。この社会資本がほとんど存在していないことも、今の日本の大きな問題です。

例えば中国では、世界中に中国人のコミュニティ(チャイナタウン)があって、血族や同じ郷土の出身者に最低限の生活を保障してくれます。これは中国という大陸国家が遊牧民などの外敵と絶えず戦い、土地を奪われ家族を失うような経験を繰り返してきた結果として生まれた安全保障です。こうしたコミュニティを、多くの民族が持っています。

ところが日本では、島国という地理的要因もあって、そこまで強固な安全保障システムは必要ありませんでした。しかも日本人は窮屈なムラ社会を嫌っていて、明治以降は地方から都市にどんどん人が流出し、地縁・血縁のコミュニティを捨てていったのです。

とはいえ、人間は社会的な動物ですから、共同体に属していなければ生きていけません。そこで日本人は、たまたま一緒になった人たちとコミュニティを作りました。それが学校や会社で、日本ではそれ以外のコミュニティはありません。そのため、会社を退職したりリストラされたりすると、人的資本ばかりか社会資本まで失ってしまうのです。

少し前に「年越し派遣村」がニュースとなりましたが、そこから見えてきたのは、頼るべき親や兄弟、友達、恋人もいない若者たちの姿でした。職を失った結果、いきなり路上生活になってしまう人たちがこれほどいるという現実は衝撃的でした。けれどもこれは決して特別なケースではなく、日本はもともと“無縁社会”なのです。

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人的資本と社会資本を同時に失うリスクがあるからこそ、金融資本の役割はますます大きくなるといえるかもしれませんね。

人的資本や社会資本は日本の構造的な問題に大きく左右されますが、金融資本は国家のリスクから比較的容易に切り離すことができます。つまり個人が自らの努力で守ることができるわけで、どのような戦略を選択するのかが重要になります。

これまでのデフレ経済では、現金を持っているのが最も賢い投資戦略でした。ところが資産を預金だけで持っていると、その預金は銀行を経由してほぼそのまま日本国債に投資されるわけですから、すべてのリスクが日本国の信用に集中することになります。かつて最適だった戦略が、今では国の財政破綻リスクと直結してしまい、それが大きな不安の源泉になっているのです。

――
そうしたリスクを回避する方法はありますか。

地震と違い、財政破綻は突然起こるわけではありません。国債の暴落から始まり、その後は金利の上昇、円安、インフレと続くことになります。もっともそれまでにはタイムラグがありますから、決して慌てる必要はないことをまず知っておくべきでしょう。

「国家破産」のリスクは、資産が円に集中していることから生じるのですから、それを分散させるのがリスクヘッジの基本です。しかも単にドルやユーロを持つのではなく、個人投資家にとっては、世界の株式市場全体に分散投資するのが最適戦略だと思います。

この投資法では、株式市場の時価総額に応じて通貨も分散されることになりますから、為替リスクに対して中立です。グローバル市場がこれからも成長するほうに賭けるのなら、理屈のうえでは世界株への分散投資が最も保守的な投資法となります。そしてこの投資により、個人の金融資本のリスクを国家のリスクから切り離すことができるのです。

経済的な混乱は政治的な混乱と違い、誰もが一律に被害を受けるわけではありません。私は昨年の暮れに財政破綻したギリシャに行ってきましたが、そこで目にしたのは高級デパートでショッピングを楽しみ、名門ホテルのパーティでシャンパン片手に歓談する人たちの姿でした。彼ら富裕層は、外貨建ての資産を持っていたり、海外からの収入があったりするので、国がどうなろうと関係ないのです。しかしそこから少し離れた場所には、家のない人たちがたむろする一角があったのも事実です。

同様に、日本でも財政破綻が起こるとしたら、待っているのは敗戦後の焼け野原ではなく、格差がさらに拡大した理不尽な世界でしょう。経済的な混乱で日本人の1割が“被災”するとしても、その規模は1,000万人を超えますから、想像を絶する事態です。そのような不幸を起こさないためにも社会のリスク耐性を高めていかなくてはなりませんが、それだけではなく、なにが起きても自分と家族を守れるだけの準備をしておくことが大事なのではないでしょうか。

――
本日はありがとうございました。

(終わり)

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