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vol.6 通貨の動きをみる(2)
英ポンドを検証する―2006年の年金制度改革に注目
英ポンドはアメリカに対するヘッジと共に、ユーロに対するヘッジの役割をもつ通貨です。どちらの通貨の動きとも、連動性がさほどありません。それと市場が小さいためか、成熟した国のイメージに反して短期的な浮き沈みが激しいのが特徴です。イギリスにはユーロ参加の是非論がありますが、経済的に差し迫った必要がありませんし、「世界に冠たる大英帝国」という国民感情が残っていますので、当分ユーロ参加はないでしょう。
英ポンドの買い材料としてはまず、イラク戦争を巡るブレア政権への不信感がありながらも、フランスとドイツが内政でつまずいたため、イギリスが欧州における政治的主導権を握る可能性が高まってきたこと。それと、2006年4月の年金制度改革で住宅・不動産価格が再上昇するのではという期待があることです。逆にいえば、今は少し経済の基盤がよくないのです。1990年代末から続いた不動産バブルの崩壊が影響して住宅価格が悪く、景気が減速しています(2005年4−6月期GDPは+0.5%、前年比+1.8%)。
イングランド銀行金融政策委員会(MPC)は、2005年の8月に政策金利を4.75%から4.5%へと1年ぶりに引き下げました。かたや米ドルの政策金利は4%に向かって上昇していくという流れですから、当面は相対的に英ポンドが安くなる可能性があります。鈍化している経済成長を、大胆な制度改革などでイギリスがこれからどう立て直すか。2006年に向けての動きを注目したいところです。
NZドル、カナダドルを検証する―共に資源国通貨、金利動向に注目
NZドルの政策金利は6.75%と、1999年3月の政策金利制度移行後の最高水準。豪ドルと並ぶ高金利通貨です。またオーストラリアは貿易赤字の増大がリスクだとお話ししましたが、ニュージーランドの場合はそれほど大きなリスクではありませんし、政府としても輸出拡大政策を推し進めています。国内の雇用情勢や個人消費はまずまず順調です。
一方、金利上昇の影響で個人消費が冷え込むおそれや、為替レートの上昇によって輸出の伸びが抑制される可能性が高く、カレン財務相やボラード準備銀行総裁はNZドル高への懸念を表明しています。ボラード総裁は「近い将来の利下げは視野に入っていない」とコメントしていますが、インフレリスクは注目しておきたいポイントです。
アメリカが財政赤字と貿易赤字の「双子の赤字」に悩まされている一方で、カナダは財政収支も貿易収支も黒字の国です。政策金利は2.75%とまずまずの高水準。雇用情勢の改善、順調な貿易といった買い要因もあり、カナダ中央銀行のドッジ総裁は2005年3月に「カナダドルが上昇するのは適切である」とコメントし、2005年6月には「カナダの金利は依然、時間と共に上昇する必要がある」と利上げを示唆しました。同じ資源国通貨であるNZドルほどの金利ではありませんが、経済的な基盤は安定しており、全体的にリスクの少ない通貨です。
リスク要因を挙げれば、2005年12月にマーチン首相のケベック州での贈収賄疑惑に関する裁判所の報告が発表されることです。野党保守党が準備を進めていた内閣不信任決議案の提出はなくなった模様で、危惧されていた報告書提出後の総選挙は行われない見通しが強まりましたが、報告書の内容によっては総選挙、という可能性もぬぐえず先行きは不透明です。もし選挙になれば、政権交代のリスクがあります。
年金基金の外貨建て資産の上限枠(現行30%以内)が除去されたことも売り要因です。また、アメリカの金利が上昇することで、カナダに流れていたお金が今後アメリカに戻っていくリスクがあります。
スイスフランを検証する―ユーロと密接な関係の避難通貨
スイスフランは、ユーロと同様に地政学的リスクを避けるため、米ドルからお金が流れてきた通貨です。スイスは永世中立国として有名で、安全というイメージから日本でも投資先として人気を集めているようです(反対に国際情勢が安定すれば、売り要因が高まるということです)。
経済から見てみますと、スイスは輸出先の約60%がユーロ圏で、特にドイツ経済と密接な関係にあるというのがポイントです。したがってユーロ圏の経済が低迷している時は、スイス経済もあまりよくありません。スイスフランの政策金利は0.75%と、今回の外貨預金活用ガイドに取り上げた通貨の中でもっとも低い金利ですから、米同時多発テロ以降急速に高まった人気が去っていく時期も近いかもしれません。2005年の6月下旬に一旦付けた1スイスフラン=85.8円を切る円高・スイスフラン安になった時は要注意です(反対にロンドンの地下鉄テロを契機に、ヨーロッパに地政学的リスクが拡大するなら、再び人気が高まる可能性があります)。
香港ドルを検証する―人民元切り上げに備えた碇
補足として、2005年5月に通貨制度が変更された香港ドルについてコメントしておきます。米ドル・香港ドル相場は、1983年10月から1米ドル=7.8香港ドルでほぼ固定されていたのですが、新制度では1米ドル=7.85香港ドルという下限を設けると同時に、上限も1米ドル=7.75香港ドルと設定されました。つまり1米ドル=7.75〜7.85香港ドルの範囲での変動相場制になったわけです。特に7.75香港ドルという上限は、中国政府が人民元の切り上げに備えた“碇(いかり)”のような意味があると私はとらえていました。
香港には、人民元の切り上げを期待して投資家のお金が集まっており、資金のだぶつきがインフレ不安を高めています。そこで、「切り上げがあったとしても、(現在の1米ドル=8.28元から)一気に5元、4元になることはなく、香港ドルと同程度、7.75元あたりまで収まりますよ」といったメッセージを発した、ということです。
そういった経緯の後、人民元は7月21日に、1米ドル=8.11元に2%切り上げが行われました。アメリカの圧力ではなく、中国経済に悪影響を与えない程度の切り上げを自主的に行うという中国政府の姿勢を表明したと見られます。タイミングは意表をつかれましたが、切り上げの幅は予想の範囲内といえるでしょう。今後段階的に切り上げがあったとしても、7.75元という数字はひとつの目安になると思います。
ちなみに香港ドルと円の関係は、香港ドルが米ドル相場に連動しているわけですから、円・米ドル相場と常に同じ動きになっています。中国政府がわずかの幅にせよ人民元切り上げを行ったわけですから、今後も香港ドルへの投資人気は続くでしょう。
まとめ―過去のパターンから相場を読む
通貨の分散投資は、アメリカの通貨政策やリスク要因から考えてみるのが分かりやすいと思います。2001年の同時多発テロ以降、アメリカには地政学的リスク、低金利、双子の赤字などのリスクがありました。しかしアメリカは米ドル高政策と利上げを進め、米ドルの状況は変わりつつあります。原油価格の上昇はアメリカにとっても問題ですが、相対的な優劣が重要な為替の世界で、日本とアメリカのどちらにとって大きなリスク要因かといえばそれは日本です。その一方で、くすぶり続けるイラク情勢や、崩壊寸前の住宅バブルの処理など、アメリカにも依然としてリスク要因があることも頭にとどめておいてください。

最後に米ドル・円相場の統計的なデータ、ちょっとしたジンクスをいくつか紹介しましょう。1973年の変動相場制導入以来、米ドル・円相場は、1974年(304.90円)、1982年(278.50円)、1990年(160.35円)、1998年(147.64円)と、8年サイクルで高値圏に到達しています。その次の8年後にあたるのが来年2006年です。それと、4年連続で同じ年の1月よりも12月の方が円高だったこともありません。実は2002年から2004年までが3年連続でこのケースに当てはまり、過去のパターンからいえば、2005年は1月よりもドル高で終わるということになります。
もうひとつ、大統領選挙の翌年は為替が変動する幅が大きいというデータがあります。1973年以降、過去8回あった大統領選挙の翌年の平均変動幅は約20%。大統領選の年、その2年目、3年目の各平均幅を引き離してダントツです。2005年は1米ドル=102円から始まっていますから、その20%の変動幅であれば1米ドル=約120円。こういったことを偶然と思われる方もいるでしょうが、パターンというのは客観的な数字に残された過去の投資家たちの意思の積み重ねであることも事実です。過去のパターンを知っておくことは、相場観をもつ上で大変重要ですし、投資の楽しみをより広げてくれると私は思います。
この記事はasahi.comに2005年6月27日から2005年8月31日まで掲載したものを収録したものです。
為替レートその他の数字、情報はすべて掲載当時のものです。
- 外貨預金活用ガイド
- vol.1 外貨預金をはじめよう
- vol.2 自分の投資スタイルをもつ
- vol.3 タイミングの分散化
- vol.4 通貨の種類を組み合わせる
- vol.5 通貨の動きをみる(1)
- vol.6 通貨の動きをみる(2)

