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第3章 為替相場の変動の仕組みとその要因
10. 外国為替相場の決定理論(2)国際収支説(国際貸借説)(3)為替心理説
【国際収支説】
外国為替相場が変動する要因が国際収支にあるという説です。この国際収支説は1861年に英国の銀行家で政治家でもあったG・Jゴッシェンによって確立された理論で、相場は外貨に対する需要と供給により決定され、その需給を決定するのは国際貸借関係であるという説です。19世紀後半から第1次世界大戦に至る金本位制時代に支持された古典的な理論の一つであり、当時の国際収支は大半が経常収支であったため、経常収支だけ見れば為替の需給関係が把握できた時代を背景にしていたものです。(本章の6の(2)参照)ところが、1980年代以降から、国際収支の中で外国への直接投資や証券投資などによる資産と負債の変化をあらわす資本収支の占める割合が大きくなり、最近では経常収支と資本収支のバランスを見て判断するようになってきています。
為替マーケット基礎講座の第3章の1でも、「為替変動に最も大きな影響を与えるのは需給」であるとし、その例として現在の日本の経常収支の黒字額について取り上げましたが、まさにそのことを裏付ける基盤となる説です。但し、この理論の難点として良く挙げられるのは、現在の相場では需給関係が*リーズ・アンド・ラグズ(leads and lags)により変化してしまうために国際収支だけでは相場を判断できないのではという点です。また、データの信頼性という面では、国際収支のデータ収集方法は各国の統計データに誤差があり、本当に需給関係を反映しているかどうかという問題点も指摘されています。しかし、いずれにせよ、需給が為替変動に大きな影響を与えるとしている点で非常に評価されるものです。
【為替心理説】
為替相場は、信頼感、人気、投機、予測などといった心理的要素によって変動すると考える理論です。フランスの経済学者のA・アフタリオンが1927年に唱えた説で、思惑が相場を動かすことがあるとする説です。また外国為替相場は購買力平価とか国際収支の動向では理解できないものと考え、現代のような情報社会では重要な説とも言えます。本章の7で説明した「選挙」「有事と戦争」「うわさ」「投機と仕掛け」の基礎となっているものであり、政治情勢、軍事情勢などのニュースが流れると相場が大きく変動する現象を説明している理論です。「サプライズ」「パニック」などが相場を急変動させることもあり、超短期的、一時的な反応を説明する上では説得力があります。
外国為替相場の決定理論として、前回の購買力平価説、今回の国際収支説、為替心理説を解説しましたが、それらの説が唱えられたのはいずれも1800年代後半から1900年代前半にかけての非常古いものです。従って、現在のようなスピードのある情報化時代には一説だけですべてを説明しきれないのは当然であり、あくまでも理論としてそれぞれの特徴を知っておくことが重要です。次回は為替市場が変動相場に移行した1970年以降の新しい理論を紹介いたします。
*リーズ・アンド・ラグズ(Leads and Lags)
Leadsとは早める、Lagsとは遅くするという意味で、相場の予測を基に売り買いの時期を早めたり、遅くしたりすること。たとえば、代金を6ヵ月後に米ドルで支払う契約を結んだとすると、現時点で6ヶ月の先物予約にて米ドルを購入することも可能であり、また6ヵ月後の当日までの間は米ドルが安くなる時を予想し、いつでも米ドルを購入することが可能である。このリーズ・アンド・ラグズが相場を変動させる要因となることも多い。

