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スペシャルインタビュー
メディアに訊く DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長 岩崎氏編

日本企業が遅れた「リーダーシップ」

話題を変えて、『DHBR』についてのお話をうかがわせてください。ハーバード・ビジネススクールの機関誌の日本版という、ビジネス誌のなかでも独自のポジションです。

僕らがシンボリックな読者と思っているのは、読者モニターの方々です。モニターとは経営者やこれらトップに近いところで働いている社内の知恵袋的なかたたちです。彼らは組織の現場で叩かれ、ビジネスの酸いも甘いも噛み分けている実務家ですから、生半可な理論には懐疑的です。『DHBR』は海外の論文やビジネス書のエッセンスなどの翻訳が70%ですので、良質なコンテンツのみならず、読みやすい翻訳や誌面を提供することが求められています。

通常のビジネス誌は、経済動向、業界動向といったマクロ的な視点、そして、ニュース性という言葉が言い表しているように、鮮度を重視しています。『DHBR』の場合、むしろミクロ的な視点、たとえばマーケティング、財務、リーダーシップといったビジネスマンが身につけるべき能力やスキルといった切り口であり、またビジネス誌が取り上げる課題の背後にある組織的な問題、部門間の軋轢、意思決定プロセス、戦略の立案と実行といった、まさしく経営者や管理者が日々直面している経営上の課題に焦点を当てています。実のところ、経営の本質的な課題というのはあまり大きくは変わっておらず、時には過去の事例が新鮮な場合もあります。

近年、特に読者から要望が高まっているテーマは何でしょう。

リーダーシップを取り上げる機会が増えています。戦略論というのは、事例は変わりますが、まったくユニークな視点というものは、そうそうないのが実情です。その点、リーダーシップは未開拓の分野です。日本は明らかに遅れました。一方アメリカでは、心理学や大脳生理学、生物学、医療などの研究領域から、人間としてのリーダーを研究・分析する試みが行われています。

取り組みたいテーマはヨーロッパ

今後取り組みたいテーマはありますか。

ヨーロッパ各国の経営モデルですね。日本はアングロサクソンの経営モデルをお手本にしてきましたが、本当のところ、日本企業にはマッチしないのではないかと前々から思っていました。たとえば、ガバナンスです。トヨタの取締役は26人になりましたが、それでもアメリカ企業からすれば、きわめて過剰な数なのです。

『DHBR』では、8割がた、アメリカ企業の事例が紹介されているわけですが、翻訳して紹介するだけでは、その使命を果たしきれていないように思っています。もちろん、ヨーロッパも一括りにはできませんし、また国や社会の成り立ちからして違うわけですから、新たな手本になるかどうかは疑わしいでしょう。しかし、アングロサクソンに関する情報だけというのは偏りすぎていると思うのです。

『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌は現在10ヶ国語の翻訳されており、ドイツ、ポーランド、ハンガリー、それとロシアに仲間がいますから、彼らとコラボレーションすることで、何か新しいインサイトを見つけられるのではないかと思っています。

毎回ご登場いただくかたにうかがっている質問です。岩崎さんの仕事の上で欠かせない「七つ道具」とは何でしょう。

メールやインターネットといったITツールは脇に置くと、「耳栓」と「六本木アカデミーヒルズのライブラリー」でしょうか。耳栓は市販のなかなかいいのがなくて、JALのビジネスクラスでくれる3M製のが好きです。そうそう、後は「マンガ」です。

マンガですか!これは最後の最後に意外な答えでした。

要するにマンガを読まないと、浮世の世界に戻ってこれないんです(笑)。いちばん頭が疲れないですし、以外にも新鮮な情報にめぐり合えるものです。それと、ストレスの度合いを測るうえでも活用しています。マンガって、物理の法則とか吹っ飛ばしているじゃないですか。そういうシーンを見て、「こんなことあるわけないよ」と心のなかでツッこんでいる時は、ストレスがたまっています。素直に楽しんだり、流せたりする時は、ストレスがあまりたまっていませんね。好きなマンガですか? うーん、『ゴルゴ13』ということにしておきましょうか。そういえば、就職活動の作文で「私は〜のようになりたい」というお題で、「デューク東郷」としました。ちなみに、少年誌も、青年誌も、四コマも、麻雀漫画も読みます。

最後にソニーバンクのユーザーの方々に、お金との付き合いかたについて岩崎さんなりのアドバイスをいただけますか。

私は入社した時、当時はあまり脚光を浴びていなかった「ファイナンシャル・プランナー」を養成する教育事業に携わっていました。当時はバブル真っ盛りで、会計士や税理士の人たちが別会社をつくって、財テク・コンサルティングなどをやっていました。株式評論家たちも目をつぶってダーツを投げて、推奨銘柄を決めているんじゃないか(実際、どれも右肩上がりで値上がりしていましたから)と思うような時代です。

これと平行して、企業の財務や会計を勉強したり、『DHBR』で経営や戦略、マーケティングに関する知識を深めたりしたのですが、個人も企業も、投資について明確な方針を持っているケースは少なく、運用の目標、さらには金の使い道も行き当たりばったりのように思います。
それと、決定的なことはリスクを、この場合、不確実性という意味ですが、ほとんど考えていないように思います。投資商品よりも確定利回り商品を選ぶとか、日々株式チャートを見て備えているとか、そういう話ではありません。経済学に「分散」という概念があります。たとえば、アメリカン・フットボールや大リーグの選手たちは遠征地に出かける際、別々の飛行機に分かれて移動します。つまり、一機に全員が乗り込んで、もし墜落したり、事故に遭遇したりしたら、チームが全滅してしまうからです。
この分散の概念を、経営や投資の世界に持ち込んだのが「ポートフォリオ理論」です。これはリスクを最小化するためのツールです。いま個人投資家の数がどんどん増えていると聞いていますが、ちゃんとリスクを念頭に置いてポートフォリオを組んでいる人はどれくらいいるのでしょうか。

日本でもようやく「貯蓄から投資へ」という流れが鮮明になりつつあります。しかし、リスクについて理解した上で投資判断を行っているかたはまだまだ少数ではないでしょうか。

株式に限らず、投資にはゲーム性がありますから、ついついおもしろそうな方向に進みがちです。また、大儲けしたいという気持ちは人間の性ですから、しようがないのかもしれませんが、私の父親は若い頃、「赤いダイヤ」と呼ばれていた小豆相場の手を出して、無一文になったことがあります。それから株に鞍替えしたんですが、一攫千金というわけにはいかないので、競馬をやったりもしていました。

どんな銘柄を買っていたのか、後で知る機会があったのですが(ご丁寧に自分で罫線を引いて、チャートを描いていたものですから)、ほとんど製薬関連株なんですよ。60年代から70年代のことですから、株式分割も頻繁にあれば、新製品を発売すれば値上がりも大きかったでしょうが、「こいつは、家族のこととか、考えてないな」と思いましたね。
そんなこんなで、我が家ではギャンブル御法度なのですが、リスクを考えた投資、いまならばポートフォリオ投資の重要性について、いま一度考えられてみてはいかがでしょう。日本企業の平均営業利益率は3%足らずです。こんな収益性の乏しい国だけでなく、単に四季報などのファンダメンタル情報だけで判断するならば、アメリカやイギリス、ドイツをはじめ、それこそインドの株式にも分散投資したほうがよいのではないでしょうか。

一般的に、市場が加熱している時、その市場だけに集中するのは、リスクのわりに得るものは少ないのです。しかも、みんなが同じ情報を持って、同じような意思決定を下しています。株式市場の暴落の歴史をひも解いてみれば、わかるはずです。企業の世界でも同じです。注目市場はえてして混雑市場で、ここに参入した企業のほとんどがちょっとした分け前にしかあずかれません。

リスクを考えるということは、いかに投資にまつわる変動率を小さくするかを考えることにほかなりません。面白味に欠けるかもしれませんが、この低金利時代ですから、年率2〜3%くらいで回れば、十分なんじゃないですか。それに、医療費の還付をこまめにするとか、保険の見直しを図るとか、いろいろやることはあると思いますよ。それと、1億円とか、そういう数字に惑わされないこと。こういう非現実的な数字を運用目標に掲げるのはどうかと思いますねぇ。

岩崎氏

岩崎卓也(いわさきたくや)

15年間にわたり『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』の編集に携わる。

インド・ビジネスを特集した今年5月号から編集長に就任。

『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』(http://www.dhbr.net/)

座右の銘
「神はディテールに宿る」。月並みですが、スタッフにもいつも言っている言葉です。丁寧につくった書籍や雑誌は、必ず合格点の水準をクリアします。もちろん大ヒットというわけにはいきませんが、本を買ってくださったかたに必ず伝わるものです。
座右の書
『新原価の魔術―経営人の行動会計入門』今坂朔久著(白桃書房)
ビジネスマンのみなさん、特に『DHBR』に関心のあるかたたちが、時間を無駄にすることなく、スムーズに読める文章に仕上げることをずっと考えてきました。つまり、「機会コスト」を発生させないことが重要であると。そのことを最初に教えてくれたのが、この本です。

 

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