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スペシャルインタビュー
メディアに訊く DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長 岩崎氏編

貧から富まで各階層にある経済の良循環

インドについては「世界のIT基地」「健全な人口動態」といったことがよくいわれますが、そもそもインド経済の特徴とは、どのようなものだとお考えですか。

カーストという社会制度はなくならないでしょうが、ある一定以上の階層では、階層ごとに豊かさが高まっていく可能性があります。海に例えれば、深さごとに生態系が異なるものの、それぞれに健全な循環サイクルができているといった状態です。
他の新興諸国の場合、貧しい人々は金融システムの受益者から排除されがちです。だれも彼ら彼女らにお金を貸そうとしないのです。ところがインドでは、低所得層にもお金が環流しています。シティバンクは「スビタ」(ヒンドゥー語で「便利」という意味)という、ローンやインターネット・バンキングなどがセットされた金融パッケージを開発していて、その利用者は100万人を超えています。そもそも、絶対額で見て、このような小口金融サービスは貸し倒れリスクが小さく、成長率の高い国や地域の場合、利益率の高い商品ともいえるわけです。
後で話題が出るでしょうが、モータリゼーションはもちろん、不動産、都市インフラ、農業といった大きな雇用創造が期待される産業分野が成長していくでしょう。これに伴って、ローンや預金だけでなくて、将来は生命保険も損害保険の領域も広がっていくはずです。
さらに、そこで生み出された富を拡大再生産し、しかも再配分する仕組みが同時並行で整備されつつあるところに将来性を感じます。日本企業の場合、一部の例外があるとはいえ、金融なら金融、メーカーならメーカー、サービスならサービスと、自分が属している産業を越えて事業展開することはあまりありませんが、インド企業は違います。たいてい金融と製造とサービスを有機的に結びつけたビジネスモデルを構築しています。
実際、タタ、ビルラ、リライアンス、バジャジ、ムルガッパ、マヒンドラ&マヒンドラなどの財閥は、農業や水産業、自動車や二輪車などの製造業と、銀行や保険会社といった金融業、運輸や保守などのサービス業をうまく組み合わせています。
また人口動態も安定的です。中国のそれは、一人っ子政策の影響から「キノコ型」になっており、将来的な不安を抱えていますが、インドは「釣り鐘」型で、今後の経済を支えていく若い世代のすそ野が広いのです。2004年度のGDP成長率は8.2%でしたが、多少前後することはあっても、この水準の成長が当分続いていくのではないでしょうか。

階層を維持したままのブロック的な成長と経済循環というのは、かつての日本の成長パターンに囚われていると掴めないイメージです。

これはあるグローバル日本企業の中国人採用担当のかたからうかがった話ですが、中国も貧困層はずっと貧しいままに生きていかざるをえない社会システムになっており、アメリカン・ドリームのように、寒村部の人が中央に進出して、名を上げるということはまずありえないそうです。上海などで、一流ホテルで食事をしたり、外車を乗り回したりしている若い世代が紹介されることがありますが、たいてい株で儲けた人たちで、実業の世界の「チャイニーズ・ドリーム」を実現した人たちはそう多くはありません。インドにしても中国にしても、国民はみな中流で、社会的に平等であるといった日本人にありがちな見方は通用しないようです。

一面だけ見てもインドは分からない

今回の特集のために、取材に行かれた際のインドの印象をお聞かせください。

いま日本からインドへの直行便は、日本航空がデリーへ週3便飛ばしているだけです。インディラ・ガンジー国際空港というデリー郊外の空港に着くのですが、その印象というのが、これが新しいIT先進国の窓口としてよいのかと(笑)。およそ清潔ではありませんし、老朽化していますし、まるで田舎の駅舎のようでした。

タクシー乗り場に行くと、インドの国産車第一号「アンバサダー」のポンコツばかりが待っていました。道路はガタガタで、信号で止まっていると、物乞いの子供が寄ってきたり、夜中の往来を牛が歩いていたり――。ある日本企業のインド支社のゼネラル・マネジャーは、インドに赴任した直後、想像以上の光景にショックを受けて、一週間ホテルに閉じこもっていたと言っていました。旅行するには興味津々の場所かもしれませんが、私も「赴任しろ」と命令されたら、ちょっと考えさせてほしいと答えるかもしれません。
しかもホテルに着くと、コンピュータ・システムがダウンしていて、いつまで経ってもチェックインできない。インド特集なんか企画しちゃってよかったのかなぁと後悔したりもしました。こんな話でいいんでしょうか(笑)。

そういったお話もうかがいたいです。

後から聞くと、デリーのダウンタウンは開発しようにも、もうどうにもできない状態で、周辺近郊の開発が進んでいました。実際に見ましたが、もうビバリーヒルズ顔負けのような豪邸、ミラーガラスのオフィス・ビルなどが立ち並んでいます。建築的にも見所のある、面白い建物がたくさんありました。

取材班は二手に分かれて、バンガロールとチェンナイなどのIT企業と、ボンベイ、デリーという金融や政治について取材しました。私はデリーで日本の商社をはじめ、大使館やODA関係の政府機関を、またボンベイでは主に金融機関を取材しました。反省点という意味でも、また画竜点睛に欠くという意味からも、インドの三大財閥であるタタ、ビルラ、リライアンスを取材できなかったのは残念です。

IT班はインド四大企業のうちの3社、インフォシス、ウィブロ、サティアムなど取材をしました(もう一つはタタ・コンサルタンシー・サービシス)。インフォシスはNASDAQ、それ以外はニューヨーク証券取引所にADR(American Depositary Receipt/米国預託証書)を上場させています。
CMMI(*)という組織能力を計るところでは、インフォシスとサティアムは、共にレベル5という最高水準の評価を世界で初めて取得した企業です。我々は、日本企業はチームワークに優れていると自負してきましたが、インド企業もそのような組織能力に優れているわけです。数学や英語といった個人の能力もさることながら、組織としてもまとまって行動できるというのは大きな強みです。

*CMMI:カーネギー・メロン大学ソフトウェア工学研究所が規定する、ソフトウェア開発プロセスの品質基準。

 

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