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第2回 金融機関はコストで選ぶ
取引コストの中身を吟味してみる
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- 前回は生活全般における経済学的なものの見方や、コスト感覚の大切さというお話でした。今回は「金融とコストの関係」に焦点をあててお話をうかがいたいと思います。
『スタバではグランデを買え!』では、本当に同じモノが違う値段で売られている時、その理由は「取引コスト」の存在しかない、と書きました。「取引コスト」とは時間と手間、余分なお金の支出、他の資産の使用、心理的負担といったもの。要するに、取引されるモノやサービスの代金とは別にかかるものです。
これを金融取引の世界で考えてみますと、そもそも今は「お金を動かす」といっても、データを動かすだけのことです。金融機関同士の取引コストは非常に低くなっています。また個人も、パソコンを使うことで同じような取引ができる環境が整った人がたくさんいます。金融に関しては、取引コストは大きく下げられるし、いってみればコストを払う価値がありません。にもかかわらず、世の中にはコストを下げる努力をしている金融機関と、下げてない金融機関があり、いまだに金融機関に高いコストを払って取引をしている人がいます。それは情報のコスト、特に金融の知識を学ぶという部分のコストに消費者の間で格差があるからでしょう。
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- ただ、私たちは「安かろう悪かろう」「値段は正直」といった感覚に昔から馴染んでいますし、質と値段の釣り合いにはそれなりの納得をして消費をしている部分もあると思いますが。
そこで勘違いが生まれるのですが、取引コストが大きい金融商品が、質の高い金融商品と必ずしもイコールではありません。私たちが高い値段のモノをあえて買う場合は、「高いモノは原材料にお金をかけて、質を向上させているはずだから、値段に正当な理由がある」と考えるからです。ところが金融商品の場合、同じ外貨取引や同じ株式取引で他社より高い手数料を取っているのは、商品そのものの質を改善するためのコストではありません。ただの単純な取引コストです。
なぜ余分な手数料を必要としているかといえば、ほとんど場合「たくさん従業員をかかえているから」とか「たくさんの支店の経営を維持するため」。金融機関自体が高コスト体質なためです。一方、消費者側の姿勢にも問題があって、金融取引になにやらよく分からない、錯覚に基づいた心理的なコストを払っている方もたくさんいます。昔から名の通った大手企業のほうが安心できそうだということですね。とはいえ昨今のニュースを見ていても感じることですが、老舗の包み紙が巻いてあるからといって、中身が信頼できるのでしょうか。
リアルな店舗がないと不安だという方もいますが、近年、新規参入しているネット銀行の多くは小売業や流通業、メーカーなどの分野で目に見える信用のある企業が事業母体となって金融事業があります。その反対に、立派な本社ビルや全国の支店網はあるけれど、実態はあやふやな企業が潰れるケースを、私たちはいろいろと知っているはずです。
だれが株価を決めているのか
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- ところで本書には、「大ヒット映画のDVDの価格がどんどん下がるのはなぜか」といった関心をひく事例が次々登場しますが、ズバリ金融に関する話題は取り上げられていませんね。
実は株式投資の話題を入れるつもりでした。あくまでも経済学から見た株式投資ですが、ネット取引に馴染んでいるソニーバンクの利用者のかたなら、何かの参考になると思いますので紹介します。
これは「そもそも株価を決めるのは、フローの需要と供給なのかストックの需要と供給なのか」という、株式投資の世界で昔からある議論の話です。
フローの需要と供給というのは、「株価は今日株取引をした人の売りと買いだけで決まる」という考えかたです。新聞の「今日は外国人投資家から大量に買いが入って値が上がった」みたいな市況解説はこれですね。ところが経済学者はそうではなく、「株価はストックの需要と供給で決まる」と考えます。例えばソニーの株価であれば、ソニーの株主全員が潜在的な供給者であり、株式投資や資産運用をしている全世界の人々が潜在的な需要者。その需要と供給の中で、株価は決まっていると考えます。
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- しかし現実にはそんな世界中の人が株取引に参加していて、全銘柄に常に注目してはいません。
そういうかたは、情報コストがゼロの社会、つまり1日じゅう街中で株価情報が流れていて、情報が目に飛び込んできたら誰もがケータイでその株式が買えるという状況を考えてみてください。そこで昨日まで100だった株価が、その企業に何の問題もないのに、何かの間違いで急に10まで下がったとします。誰もが買いますよね。その逆に、何かの間違いで株価が大きく上がれば、株主は一斉に売ります。これが株を持っている人の全員が供給者であり、現時点の株の供給量に対して、全人類の資産残高が需要になりうる社会モデルです。現実の社会でも、誰かが株式を大量に売っても株価が下がるのはある一定の範囲です。それは潜在的な需要者と供給者がたくさんいるからでしょう。あまりいっぺんに下げてしまうとみんなが買いに来る。だから極端には下がらないと考えられるわけです。
もちろん、このような経済学者の考える株価決定のモデルと、新聞解説に登場する「今日の出来高は云々で」といった話には、あまりにもギャップがあり過ぎます。どちらか一方が正しいということではありません。フロー、つまりその日の売買で決まるにしては、株価の変動は小さ過ぎるのです。反対にストックで株価が決まるにしては、株価は変動し過ぎなのです。本当は、二つの考え方の中間で株価が決まっているんですね。なぜなら、現在の世界は取引コストゼロ社会ではなく、ある程度の取引コストがあるからです。しかしインターネットの進化によって、株式投資の取引コストは以前と比べて格段に低くなっています。これから先、理論と現実の距離がどこまで近づいていくのか。その時に株価というのは、どのような値動きをするのか。興味深いテーマだと私は思っています。
(第3回「裁定取引に強くなろう」に続く)
インタビュー後記
取引コストをどう考えるか、金融機関にとっては重要かつ永遠の課題です。
もともと発生するコストに関わらず、マーケティング上、競合他社との関係上、価格設定をゆがめることがあるからです。ただし、当然ながら最終的に整合性のある価格設定でないと収益は出ませんし、事業会社として存続できません。
合理的かつ納得感のある価格でサービスを提供する方法を考え抜くのが当社の大切な仕事です。
- 話題の本 著者インタビュー 『スタバではグランデを買え!』 吉本佳生さんにきく 経済学者のやさしい生活金融講座
- 第1回 コスト感覚の磨き方
- 第2回 金融機関はコストで選ぶ
- 第3回 裁定取引に強くなろう
- 第4回(最終回) 金利と物価とインフレの関係


