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第1回 コスト感覚の磨き方
コスト構造が見えれば買い物は楽しい
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- 『スタバではグランデを買え!』には、“価格と生活の経済学”というサブタイトルが付いています。生活の視点から経済を考えようという、アイデアのきっかけは何だったのですか。
実は『スタバではグランデを買え!』は、大学の授業で使える、きちんとしたミクロ経済学の入門書のつもりで書きはじめたのです。ただし専門的な数式や図表はあえて使わず、一見、経済学の本とは分からないように。難しい数式の代わりにこの本では、ここ数年の新聞資料や社会事象から「ネタ」を拾っています。
私が教鞭をとっている南山大学には、1年生向けの生活経済入門というカリキュラムがあります。通常の理論的な経済学入門ではなく、生活に密着した経済学を学んでもらいたくて、数年前に新設しました。これからの人生で学生たちは、自分で仕事を探したり、住むところを決めたりしなくてはいけませんし、私たちは毎日モノを取捨選択して買っています。その時に知っておくと役に立つ、価格の生活の間にある仕組みを解き明かしていこうと思ったのですね。価格の仕組みを知ることは、誰にとっても生活をしていく上で役立つことだろうと思い、このような本にしました。
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- この本では、「スターバックスでは、どんな飲み物でもSサイズとGサイズの価格差が100円」といった意外なエピソードから、価格とコストの関係が興味深く紹介されていますね。

コストの話は、経済学者が学生に経済の興味をもたせるためによく使う定番ネタなんです。モノの価格を決定している要因は他にもいろいろありますが、読者の方は経済学の研究者になるつもりはないですよね(笑)。複合的な考え方を出して知識を使いこなせなくなるよりも、とにかく徹底してコストの話をして、読者にコスト感覚を身につけてもらうことを目指しています。
例えば私たちは、ハンバーガーが食べたくなるとファーストフードショップに行きます。しかし原価率を考えれば、お店が本当に売りたいのはハンバーガーではなく、ジュースやコーラです。だから「セット」という、必ずドリンクを買ってもらえて、より利益幅が大きい売り方を、「お得ですよ」とお客さんに勧めて売っています。ただこれはセットを買ってはいけないという話ではありません。「あの店はハンバーガーで儲けている」と思っているのと、「ハンバーガーは原価ギリギリの値段。本当に儲けているのはサイドメニューだ」というコスト構造が見えているのとでは、買い物の楽しさが違うでしょう、ということなのです。
価格体系の複雑さに負けない気持ちを
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- モノやサービスの価格に隠されているコスト構造を見えれば、どのように生活に役立ちますか。
コスト感覚が身につけば、明日から買い物のムダを劇的に減らせるかといえば、それは難しいと思います。私たちは普段の買い物では場数を踏んでいますから、経済学の知識などなくても、経験的にコストを減らす購買行動をしているのですね。それぞれの個人というのは、それなりに合理的に買い物をしています。
反対に非合理的な買い物をしてしまいがちなのは、経験の乏しい買い物です。例えば住宅を買う時や、クルマを買う時。困ったことに、こちらの方が「大きな買い物」であるケースが圧倒的に多い。そういった時でも、普段からコストの仕組みを意識することに馴染んでいれば、「一見安く見えるけど、ここで儲けているんじゃないか」、「周辺の相場と比べて、こんなに安いはずがない」といった推理力が働くはずです。普段から価格の裏を読んで行動することが、いざという時の買い物で役立つと私は思います。
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- 「価格の裏を読む」というのは、具体的にはどんなことでしょう。
いろいろありますが、ひとつ重要なことを挙げれば「企業は料金体系が複雑なモノを売って、価格差別をすることがある」という話です。価格差別とは、同じモノやサービスを相手によって異なる価格で売る、つまり、高くても買う人にはできるだけ高く、安くないと買わない人には安く売るという企業側の戦略です。本書でも紹介しましたが、ケータイの料金プランというのは、どの携帯電話会社もかなり複雑な体系ですよね。これは多様な消費者に対して価格差別を行い、できるだけ多くの収入を得るようとしているからです。
どのプランがどんな仕組みなのか、複雑で選ぶのが「面倒くさい」と思う人は、払わなくてもいいお金まで払うことになります。そこで面倒くさいと思わず、自分のケータイの使用状況をチェックしてプランを変更したり、一時的に割引されているオプションをつけたり外したりする人のほうが絶対に強い。もし料金プランの複雑さの裏側にあるものを読み解くことが「楽しい」と思えれば、「面倒くさい」とは思いません。複雑さに負けないためには、楽しいと思うことが大切です。
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- 複雑さを読み解く楽しさを養うというのは、金融商品の世界でも参考になりそうです。
おっしゃる通りです。ただ、資産運用や住宅ローンに関しては、個人がどう行動すればいいのか、体系的な理論は日本ではまだ確立されていないのです。「個人の資産運用は短期のノルマがない分、機関投資家よりも有利だ」という人もいます。それはその通りだと思いますが、じゃあ個人がその有利性をうまく生かして投資するためには何が正解か、理論立てて説明できる人はいないでしょう。
ですから私が言えるのは、自分が何をしていて、どういうリスクに晒されているかを常に分かっていることがすごく大事だということです。リスク商品の運用にはどうやっても失敗も成功もありえます。だからといって、今自分が失敗しているのか成功しているのかが分からないとか、取引を清算しようと思ったときにすぐできないのは問題です。そういう点では、これからの金融取引はインターネットをどんどん活用すべきですし、金融業界ほどIT化が合う産業ってないと思います。
(第2回「金融機関はコストで選ぶ」に続く)
インタビュー後記
スタバの飲み物はグランデサイズでレシピが作られていると聞いたことがありました。
だから、小さいサイズを頼むと味が濃くなるというのです。
おかげで、『スタバではグランデを買え!』というタイトルをみたわたしは、スタバのトリビアが集められた本を想像していました。
想像は的外れで、生活にいかせる経済学の本です。金融行動を進化・深化させてくれる良書だと思い、紹介させていただきます。
最終回となる第4回では、書籍のプレゼントを予定していますのでお楽しみに。
- 話題の本 著者インタビュー 『スタバではグランデを買え!』 吉本佳生さんにきく 経済学者のやさしい生活金融講座
- 第1回 コスト感覚の磨き方
- 第2回 金融機関はコストで選ぶ
- 第3回 裁定取引に強くなろう
- 第4回(最終回) 金利と物価とインフレの関係


