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スペシャルインタビュー
市場を読む 嶋中雄二氏 株式会社UFJ総合研究所 投資調査部長

太陽黒点説

人間のある種不安定な行動が、何らかのきっかけになっているのでしょうか。

その説明としては「太陽黒点説」というのがありまして。太陽の活動が活発かどうかは、その黒点数によって測られます。「太陽黒点説」は、太陽の黒点の数と、経済活動に何らかの相関を見出そうとするものです。太陽活動の活発・不活発さは大気に影響を及ぼして、気象を変動させ、その大気の中で生活を営む動植物のみならず人間にも、ある種の群集心理を引き起こして、何らかの行動をとらせてしまうといった、生物学的アプローチもあるのですが。

それが、エコノミストとしての言わばデビュー作の太陽黒点説ですよね。

そうです。1987年に「太陽活動と景気」という本を書きました。過去に真面目に唱えられた経済学説のひとつとして発掘したといいましょうか。1870年代に限界効用価値説というのを唱えて、経済現象を微分で表すといったような、近代経済学の基礎をつくったウィリアム・スタンレー・ジェボンズというイギリスの経済学者がいます。彼は、同時に気象学者で、植物学者でもあり、また、化学者でもあったのです。19世紀アカデミズムは専門分化してなくて、全体を捉えるような感じだったのでしょうね。少数の天才たちがアカデミズムの分野を切り開いていったといいましょうか。「虹の映像」とか「雲の形状」いった論文も残しています。

多才という意味では、レオナルド・ダ・ビンチみたいな人だったんですね。

そうそう。1840年代にシュワーベというドイツのアマチュア天文家が、黒点数が10年くらいの周期で変動することを発見しましてね。これをきっかけとして、天文学者の間で黒点数と地上の気圧や気温、降水量との関係が研究され始めます。ジェボンズは経済学者・統計学者でもありましたから、1701年から1870年までのイギリスを中心とするヨーロッパの商業恐慌が、同じ周期で起こっていることに気づきます。そして、10年くらいの周期でインドに凶作が訪れていることを見つけます。結局これが東インド会社を通じて、インドに工業製品を輸出しているイギリスの経済活動に沈滞をもたらし、やがてヨーロッパ全体に波及する。こうしたメカニズムを1875年に唱えたのです。

その後ジェボンズはこの世を去りますが、息子のハーバート・ジェボンズがまた執念の人で、父の意思をついで、1909年に太陽の周期と景気循環についての論文を書くわけです。ここで、彼はジェボンズの約10年の周期は3年半くらいのものが3つくらい重なって起こるものではないか、という仮説をたてました。なんと、アルゼンチンのコルドバっていうところの気圧とか、インドのボンベイの気圧とかを調べて、その周期を発見したんですよ。これ、今でいうエルニーニョですよね。したがって、エルニーニョ現象を発見したのは実はハーバート・ジェボンズだというのが私の説です。(笑)そして、これが1923年にジョセフ・キッチンによって景気循環として改めて見出され、キッチンサイクル、今日では在庫循環と呼ばれるようになったんです。

本当に、昔は気象学者とか経済学者っていう境目がなかったのですね。

「太陽黒点説」というと変に思われるかもしれませんが、今だって日が昇り、沈むことに変わりはないし、人間が地上で生活していることにもかわりはないわけでね。

1934年にガルシア・マターとシャフナーという2人のアルゼンチンの経済学者が「太陽と経済の関係」という論文で、1875年から1930年までのアメリカの鉱工業生産が、太陽の黒点数と非常にきれいに連動していることを発表しました。しかし、ジェボンズのインドの凶作とは違って農業生産とは結びつかない。どうやらこれは、生物学的、医学的に説明しなければならない。太陽からの放射線や紫外線、地磁気の乱れの影響などによって、人間の群集心理に影響を及ぼしているんじゃないかと問題提起をしたのです。

結局ね、それはサイエンス・フィクションともいうべきものじゃないかということで、ケインズ革命に道を譲ることになるのだけども、でも、私は気象的な側面に興味があったのでこの太陽黒点説を日本経済に当てはめてみたのです。これが実によく当てはまる。実際に、太陽活動の活発な時期は60、70、80年代とことごとく後半です。そして不活発期が前半。

なんだか不気味な一致ですね。(笑)

これは私のライフワークですから。いつもやってるわけじゃないですよ。いつもはもっと普通の話をしている。(笑)

ところで、最近面白いと思っているのは、夏の北極寒気団の日本付近における勢力です。この勢力指数が、太陽活動が不活発な時期に活発になっている。つまり、冷夏になりやすい。ということは、比較的夏の暑い5年間と涼しい5年があって、涼しいと季節商品の売上が当然落ちるから景気が弱い、ともいえるかなと。要するに、循環というのは必ずあるってことです。経済の構造がどう変化しようと。人類は自然をあなどっちゃいけない。

経済活動も自然のかかわりあいを無視することはできない、ということですね。ところで今では、人もそうした循環を理解することで、ある程度のコントロールができるようになったのでしょうか。

もちろん。人はサルじゃないですから。(笑)

循環はある程度不可避ですが、それをわかっているかわかっていないかで、事態は増幅したり収縮したりする。それが人の英知とも言えるのではないでしょうか。

たとえば今の日本では構造改革が盛んに唱えられていますが、今のようなデフレの時代においてケインズを否定するのは間違い。局面にあった理論を適用することが大切なのです。1970年代のように石油ショックでインフレがひどい時代に、デフレ時代の理論を持ち出してもだめじゃないですか。だから、あのときはケインズの考え方は反省を迫られた。

 

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