プロを訪ねて三千里【第3回】蟹瀬誠一氏 「いい加減」投資のススメ
トランプ米国の中国化リスクに向き合う

米国の大統領選挙では、驚きの番狂わせが起きてトランプ氏が勝利を収めました。過激な発言に加えて、政治の舞台での経験もゼロ。いわば「未知数」の人物が世界のリーダー国のトップに就くという新たな局面が、これからやってきます。国際情勢に詳しいジャーナリストの蟹瀬誠一さんに「トランプ時代」を読み解いていただきました。

蟹瀬誠一(かにせ・せいいち)氏 プロフィール

国際ジャーナリスト・キャスター
明治大学国際日本学部教授、初代学部長
(株)ケイ・アソシエイツ取締役副社長
(株)アバージェンス社外取締役

1950年2月8日 石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米国AP通信社記者、フランスAFP通信社記者・写真部次長を歴任。米国ミシガン大学大学院に留学後、『TIME』誌東京特派員として帰国。91年TBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身、『ザ・ニュースキャスター』、『ステーションEYE』、『スーパーJチャンネル』、『スーパーモーニング』、『マネーの羅針盤』などのメインキャスターを務める。現在は『賢者の選択リーダーズ』(日経CNBC・BS-11、サンテレビ)メインキャスター、スカパー「ニュースザップ」コメンテーター。

マスメディア論の教鞭もとり、2004年度から明治大学文学部文芸メディア専攻教授、08年に明治大学国際日本学部初代学部長に就任(2013年3月退任)。民間レベルでの国際交流に関心が深く、米国滞在中は米国・カナダで講演活動を行う。帰国後はメディア論、特に情報公開や情報操作に関する研究や環境問題に関するリサーチ・啓蒙活動を進めている。2006年〜2012年まで(株)アコーディアゴルフ社外取締役も務めた。『60歳になった長男のお仕事』(双葉社)、『ズバッと伝わる技術』(フォレスト出版)など、著書多数。

(社)価値創造フォーラム21顧問、(社)3.11震災孤児遺児文化・スポーツ支援機構賛助会員、構想日本会員、環境NPOグローバル・スポーツ・アライアンス(GSA)理事、生き物文化誌学会正会員、牧阿佐美バレエ団評議員、全国経営者団体連合会スペシャルアドバイザー、ダイアモンド経営者倶楽部顧問、日本ゴルフ改革会議副議長、東京メトロポリタンオペラ財団評議員。

趣味は乱読、美術鑑賞、オペラ・クラシックバレエ鑑賞、テニス、ゴルフ、スキー、スキューバダイビングなど。
1男1女の父。

対談日:2016年11月17日

中国化に向かうトランプ米国

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  • 尾河世界で注目を集めたトランプ米次期大統領の勝利について、相場にはポジティブな影響が出ましたが、先行きにリスクはありますか。
  • 蟹瀬

    今後は、地政学という言葉が頭をもたげてくるでしょうね。各国間のパワーバランスをどのように保ち、世界の秩序を守っていくかという考え方です。これまでは環太平洋連携協定(TPP)などの多国間交渉が中心でしたが、今後は2国間での外交が増えるでしょう。とりわけ米国は、中国化が進むと見ています。

    中国の指導部には、世界の覇権を目指す「中華思想」が連綿と息づいていて、世界を米国と分け合うなどという発想はありません。トランプ次期政権も、米国が単独で物事を解決していく政策スタンスになるのではないでしょうか。大国が自国の利害しか考えないなら、世界秩序は安定を失います。

  •  

    国際政治は、大きく2つに分けられます。1つは、世界が相互に理解し助け合うことで平和を守る理想主義。もう1つは、自国の利益を最優先し、最大化するために他国と付き合う現実主義。後者の場合、利害が衝突すれば、戦争も現実味を帯びやすいです。

    これまで日本は、理想主義型できました。核なき世界についてスピーチしたオバマ米大統領も、そうでしょう。しかし、トランプ次期大統領は、経営者気質の現実主義者に見受けられます。

  • 尾河米国民は、変化を求めた、というわけですか。
  • 蟹瀬

    しかし、大統領になってはいけない人がなってしまった印象があります。
    今ある社会制度の中でベストとみなされているのは民主主義ですが、経営者はこれが理解できません。民主主義では、企業に例えれば一番偉いのは一般社員で、ボトムアップの仕組みといえます。トップダウン型の経営者には、この民主主義の本質が理解できないでしょう。

  • 尾河なるほど。とてもわかりやすいですね。
  • 蟹瀬

    お金持ちであることも、政治家には向きません。「世界で一番貧しい大統領」として知られたウルグアイのムヒカ元大統領が以前、「お金持ちは金を儲けることに一生懸命で、弱者には共感が持てない」との趣旨の話をしていましたが、そういう側面もあるでしょう。

    トランプ氏は経営者でお金持ちです。決断力はあるかもしれませんが、それが正しい決断なのかは、見極めが必要です。そういう人物が世界最強の国のトップになる。地政学的に予測できない力関係ができあがる可能性があります。

日本は能動的に向き合え

  • 尾河日本はどう付き合えばいいのでしょうか。
  • 蟹瀬

    これまで日本は、何かことが起きても受動的にしか反応できませんでした。しかし、これからは、自分がどういうスタンスを取るのか、事前に絵を描いておく、能動的に動く外交を意識することが大事でしょう。

    例えば、米国がTPPに参加しないなら、日本がリーダーシップを取って、米国抜きのTPPを模索することも一つの手です。可能性は極めて低いですが、長期的には米国に貸しを作れるかもしれません。

    中国が力をつけています。先行き、先鋭化する可能性もあります。日中関係は、戦争前夜のような緊張関係の高まりがあってもおかしくないでしょう。日本で想定する人は、あまりいないようですが。

  • 尾河これまで、まったく平和できましたからね(笑)。確かに、トランプ次期大統領の言葉からは、日米安全保障でどれだけ守ってもらえるのか不透明になりかねない印象を受けますね。

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  • 蟹瀬

    突拍子もないことを言えば、日本も核武装しなければならなくなる可能性も含めて、専門家たちは議論をしているわけです。そういうリスク感覚を日本もしっかり持って、構造を変えていく世界の中で、ほかの国とどう付き合っていくのかを考える必要があります。

    例えば、ロシアと日本が平和条約を結べば、中国は警戒感を高めるでしょう。ウクライナ問題でロシアに制裁を課している米国にとっては日本が単独でロシアに経済協力を進めることは好ましくないでしょう。

    その点、12月に予定されている日ロ首脳会談のタイミングはよく考えられています。11月の大統領選を終えて政権移行期間に入った米国は、来年1月の就任式まで国内問題で手一杯になりますから、その間隙を縫うかたちになっていますから。

  • 尾河欧州でも来年にかけて選挙が相次ぎます。グローバルに保護主義的な流れが強まるリスクはあるでしょうか。
  • 蟹瀬

    米国という世界のリーダー国が、保護主義を掲げる人物を大統領に選んだことで、右寄りの人たちは威勢がよくなっています(笑)。

    もともと欧州は、難民問題でイギリスが欧州連合(EU)からの離脱を決めたように、自国を最優先する方向に傾いています。かつてEUにあった求心力が、急速に遠心力へと変わりつつあるのです。

    経済学者のスティグリッツ氏は、ユーロから世界経済の崩壊が始まるという内容の本を書きました。通貨の統合は長続きするものではなく、その間に財政や政治を統合しなければ欧州合衆国は作り上げられないと指摘しています。まず通貨だけをいいとこ取りで統合したため、ギリシャ問題などの歪みを生じました。欧州の団結というEU本来の目標を大事にしないといけないというのが、彼の結論で、単一通貨のユーロは諦め、国力に応じた地域通貨的な色分けを導入してはどうかという提言には、説得力があります。

個人に必要な多角的視野

  • 尾河個人投資家は今後、どのように情報を得て、見極めていけばいいのでしょうか。海外といえば、なんとなくアメリカさえ見ておけばいい感じでしたが(笑)、より視野を広げようとすると、日本では報道されない国やものごともたくさんあります。
  • 蟹瀬インターネットの時代ですから、調べようと思えば各国の新聞が読めますよ。
  • 尾河自分で情報を取りに行かないといけないわけですね。

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  • 蟹瀬

    そうなりますね。
    ただ、いろんな情報が手に入るようになったものの、インターネットの情報の9割はノイズと考えていいでしょう。役立つシグナルの情報は1割程度です。シグナルがノイズの陰に隠れてしまったりするため、注意が必要です。
    あまり情報源を広げすぎず、自分が信頼できると思える情報源を、能動的に探して、絞り込むことが大事でしょうね。

    例えば、米国のことは欧州系の報道、欧州のことは米系の報道から得るのも一つの考え方です。外から見た価値評価、視点を知った上で、自分で判断するのも大事でしょう。
    英BBCは、米大統領選挙について、セールスマンと弁護士の戦いと報じました。全くその通りだと思います。セールスマンは契約を取るためにどんな手段でも使う。ウソをつこうが最終的に契約が取れればいい。それがトランプさんの基本的な姿勢なんですね。
    かたやヒラリーさんは、敏腕弁護士。事実を踏み固めながら相手を説得していく手法です。米国民は、ヒラリーさんの鼻につく主張より、トランプさんのセールストークに熱狂したわけです。

  • 尾河世の中的には、トランプさんの勝利宣言のスピーチが大人しかったので、心配しすぎだったという空気になっています。
  • 蟹瀬

    日本での報じられ方もそうでしたね。ただ「ヒョウの模様は変わらない」という言葉があるように、人間の性格は簡単には変わりません。

    大統領選を通じて「Post-truth Politics(ポスト・トゥルース・ポリティックス)」という言葉を欧米の報道で頻繁に目にしました。「真実の政治の終り」とでも訳すのでしょうか。耳障りな真実よりも、人々が聞いて気持ちよくなるようなウソが、政治の中で大きな割合を占めるようになっちゃったということです。

    選挙戦でのトランプの発言を調査機関が調べたら、数字やデータ、分析結果などの7割がデタラメだったということです。例えば、日本が米軍に対して負担しているコストは5割ぐらいとの発言がありましたが、実際には7割ぐらい負担しています。誤った情報が、あたかも事実のように受け止められたのです。

「いい加減」は「良い加減」

  • 尾河個人投資家は、長期的視点から、次に何が起きるかを見極めるスタンスが重要になりますね。
  • 蟹瀬何のために投資をするのか、目的意識が重要です。とかく日本の個人投資家は、元本保証で2倍や3倍になってほしいという強欲な期待感が多いですね(笑)。
  • 尾河「儲かりますよ」と煽るようなタイトルの書籍も多いですから(笑)。
  • 蟹瀬

    しかし、たくさん儲かりさえすればいいという発想では、無謀な投資で自滅しかねません。投資で利益を得て実現したい自分の人生、ライフスタイルを考えてはどうでしょうか。世界旅行をするために可処分所得を増やそうなどといった金額的な目標を設ければ、自制も効きやすくなります。

    儲けたければ、リスクをとらないといけないのですが、リスク意識がしっかりしていないようです。株価がちょっとでも下がったら夜も寝られないというような人は、ハイリスクな投資はやめておいた方がいい。

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  • 尾河同感です。私も、個人投資家の方々には、枕を高くして寝られるように、計画的な投資をお願いしています。
  • 蟹瀬

    クオリティ・オブ・ライフ(人生の質)を意識することが一番大事なことだと思います。

    いつも私の心のなかにあるのは、友人だった狂言師・故野村万之丞さんの「いい加減は良い加減」という言葉です。いい加減というのは無責任というイメージがありますが、そうではなくて「良い加減」であるというのです。お風呂なら42度ですね。これを早く見つけた人が、一番幸せなわけです。

    例えば六本木ヒルズに住んで、壁に金箔を貼って、毎週末に寿司職人を呼んで、と言う人がいましたが、決して幸せではなかった。いつまでこういう生活を続けられるのかと、いつも不安に苛まれていたからです。50度の入れないほど熱いお風呂に入っていたようなものです。

    かといって、倹約して18度のお湯に入っても冷たくて気持ちよくありません。自分にとって一番快適な温度となる生活スタイルを、早く見つけることが大事なのです。これが安く済めばこしたことはありませんが、年収2,000万円ぐらいないと42度が得られないという人は、本業での所得に、投資での利益を加えて水準を維持していこうと考えるのは、アリだと思います。

  • 尾河日々を心安らかに楽しく過ごせることが大事だ、ということですね。
  • 蟹瀬英語圏に「成功は、欲しいものを手に入れること。幸せは、今あるものを喜べること」という言葉があります。日本語にすると敗北主義にも聞こえますが(笑)、幸せを得るには、自身の価値観をしっかりと持つということなのでしょう。

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